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2016.06.20

「男はこうあるべき」という圧力が病をつくってしまう。

奥田 祥子

「男はこうあるべき」という圧力が病をつくってしまう。

 会社ではリストラに脅え、家庭では「夫」として妻との関係に疲弊し、「父」としての居場所を失う。そして、「息子」として母親の呪縛にも苦しめられる……。「仕事」という大事なファクターにヒビが入った時、男の人生は瞬く間に崩壊の道へと向かってしまう──。男であるがゆえの苦しみ、『男であること』とはいったいなんなのだろうか?

 今回、幻冬舎新書『男という名の絶望 病としての夫・父・息子』(奥田祥子・著)では、そんな市井の男たちの実情を最新ルポとして明らかにしています。

 その衝撃の内容を本書から一部を抜粋して紹介いたします。

*  *  *

社会的につくられる「病」

社会や他者からの“落伍者”としてのラベリング、さらに社会的孤立に苛まれた男たちの中には、うつ病を中心とする心の「病」に陥っていた者が少なくなかった。事例でも紹介したように、医師の診断などをもとにそうであることを明かしてくれた男性もいれば、現実逃避などへの願望を述べるネガティブな文脈で、「狂ってしまいたい」「精神がどこか違う次元に飛んだ」「狂気の入口に立っていた」などと、「狂気」との親和性を帯びた語りを口にする男性もいた。一方で、家族の再生のために前向きに歩み出し、「(診断を受け、治療中だった)心の病気に付き合っている場合ではない」と自らの意志で「病」を克服した者もいた。真性の精神疾患のケースも現にあり、そのことに異議を申し立てるつもりは毛頭ない。だが、取材した男たちが侵されていた心の「病」には、これから述べる、社会的につくられた「病」も含まれていた、と私は考えている。

 精神疾患は、エックス線検査や組織を採取して調べる病理検査などによって診断がなされる他の疾患とは異なり、非常に曖昧な医療領域だ。わが国では1990年代から精神科医療の臨床現場で、旧来の病因論を重視した診断に代わり、米国精神医学会が策定した診断マニュアル「DSM」に基づく国際的な操作的診断基準(症状の該当数などをもとにした診断)が採用されるようになってから、例えばうつ病の疾病概念が拡大し、そう診断される患者が増えているという現象が、一部の精神科の臨床医や医学者らによって指摘されている。

 また、製薬会社が売り上げを伸ばすためのマーケティング戦略の一環として、「うつ病は心の風邪かぜ」といったキャッチコピーとともに、疾病啓発キャンペーンというかたちで展開するメディア広告などによって新たな病気がつくられている、とするDisease Mongering(病気づくり、病気の押し売り)も注目に値する。この問題は、医療ジャーナリストのレイ・モイニハン(オーストラリア)とアラン・カッセルズ(カナダ)が2005年に著した“Selling Sickness: How the World’s Biggest Pharmaceutical Companies Are Turning Us All into Patients”で糾弾したものだ。

 社会的につくられた心の「病」に侵された者の中には、真の病を患って完治した後に、「病人」に転ずる者もいた。社会的な「病」は男たちに一時的に救いの手を差し伸べるかもしれないが、結局は、現実から目を背ける逃げ道を与えてしまう。これを医療社会学的視座から考えると、米国の社会学者、タルコット・パーソンズが1951年に著書“The Social System”で唱えた「病人役割論」に通ずるものがある。すなわち、「男はこうあるべき」という周囲からの圧力に耐え切れなくなった末に、その「男」としての社会的役割から免除される「病人」を演じてしまうということだ。

 真性の病であれば、薬の投与や精神療法など治療によって回復は可能だ。しかしながら、社会的に構築された「病」であれば、まず本人自身が、そして本人を取り巻く他者が、社会全体が変わらない限り、完治は望めない。

 社会的につくられる「病」は、本書を貫くテーマである「男という病」の様々な問題の一側面にすぎないが、実は重大な危険性をはらんでいるのである。

*  *  *

 「男」という呪縛に苦しむ彼らが探し求める一縷の光。本書では仕事、家族、母親のことで絶望の淵に立たされた男たちへの処方箋が提案されている──

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No Name2016.6.20

社会的な病は、社会全体が変わらない限り完治は望めない...筆者のこの一言に、絶望が現れている。社会はまだ自らの病理に気付いてさえいないのだから。本著をより多くの人が手にして、少しでも完治に近づけることを祈るのみである。

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