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2016.06.13

芥川賞作家の、文学的改装録を見よ!

佐々木 克雄

芥川賞作家の、文学的改装録を見よ!

リフォームの爆発』町田康
幻冬舎刊 \1,620

流し台が部屋のど真ん中にある鬱陶しさよ──。犬と猫と、熱海で暮らす作家の自宅大改造。ただならぬ文学的ビフォア・アフター! 人間の精神的苦痛はほぼリフォームが解決してくれる!?

連載18回目にして初の評者リアル食わず嫌い本

 ええと、のっけから話がズレてすみません。おかげさまで当連載も18回目を迎えまして、本当にありがたい話で、そんでもって、改めて考えまするに、この「食わず嫌い女子のための読書案内」って、まあ言葉の通り女子のみなさまが「内容は知らないけど、ただ嫌いってイメージがあるから読まない」本を「そんなコトないですよ」と説得していく書評エッセイなんですよね。担当Kさんからご依頼いただいたのがおよそ四年前のことで、不肖ワタクシ、書評なる仕事をさせていただいておりますのでいろいろな本を読み、その面白さをこれから読もうとする方にお伝えすることを生業(なり わい)としてきたワケですが……ここにきて二つカミングアウトいたします。その一、このワタクシ自身が今年作家として小説を出すことになりました──これは本筋ではないので置いといて、大事なのはその二、実はワタクシも、食わず嫌いの本があるのです。それが何を隠しましょう、今回取り上げます町田康さんの小説でありました。あっ、断っておきますが、これまさに「食わず嫌い」でした。町田作品の世界を否定するなんてことは一切ありません。何を証拠に、と問われれば、今回の文章を前ページの頭から読み直してみてください。ずっと改行がなかったじゃないですか。これが町田さんの小説の特徴でして、つまりその影響を早くも受けてしまったというワケです。
 短絡的? でも好きになっちゃったんだモーン。

怒濤の言葉の洪水に身を任せれば快感が

 というわけで正気を取り戻しまして、改めて今回の課題本『リフォームの爆発』を紹介させていただきます。著者の町田康さんにつきましては、ご存じの方も多いと思いますが一応ご紹介。町田町蔵の名前で歌手活動を始め、パンクバンドでデビュー。一九九六年に初の小説『くっすん大黒』を発表、二〇〇〇年に『きれぎれ』で芥川賞を受賞されました。
 そこで食わず嫌いだったワタクシは、まずはこの二冊を読まねばと開いたところ、改行のない活字だらけのページに怯(ひる)んでしまったのです。自分の読書傾向として、スピード感のある改行でサクサク読ませてくれる作品が好きだと認識していたのですが、初めて町田作品とがっぷり四つに組むことに……。
 なので読む前に町田作品のファンに聞くと、
「ああ、あれは滔々(とう とう)と話が続く落語のようなモノだから、先入観を持たずに、まずはザーッと読んでみるといいよ。ザーッと」とのアドバイス。
 ということで『くっすん大黒』『きれぎれ』の二冊をザーッと読んでみますに、うん、読めるんです。しかも眼前に町田さんが落語家の体(てい)でドカと座られ、力強い文体、しょーもないギャグで長い噺(はなし)をずっとしてくれているような不思議な快感──そうか、町田康作品の面白さってこれなんだ、と認識したのです。椎名誠、森見登美彦あたりが好きな方も、この面白さは共有できるのではないかと。
「でも、ちょっと……」と腰が引けている貴女(あなた)、本作『リフォームの爆発』は一味二味違いますぜ。

リフォーム実録なのか脳内リフォームなのか

 本書『リフォームの爆発』はおそらく実録です。おそらく、としたのは途中で作者の妄想が突っ走っていく部分が多分にあり、どこまでが本当かわからないからです。このフィクションに吹き飛ばされないようにしがみついて読んでいくのが、本書を楽しむ一つの要素と言えるでしょう。ちなみに冒頭二〇ページぐらいにわたり、なぜリフォームが必要かを岡崎さんなる人物で説明がなされるのですが、著者邸のリフォームとは関係なさそで……あるのかな?
 一方、リフォームに到るまでのあれこれが素晴らしく克明に描かれており、著者の家の間取り図がありありと浮かび上がり、ああ、この家ってば大変なんだなと同情したくなります。
 リフォームポイントは左記になります。
「人と寝食を共にしたい居場所がない大型犬の痛苦」「人を怖がる猫六頭の住む茶室・物置小屋、連絡通路の傷みによる逃亡と倒壊の懸念」「細長いダイニングキッチンで食事する苦しみと悲しみ」「ダイニングキッチンの寒さ及び暗さによる絶望と虚無」
 かなり文学的表現でリフォームに挑まれます。著者のリフォームにかける心意気、覚悟はかなりのもので、二三〇ページほどの本書、実際の工事にかかるまでに一〇〇ページを費やしているのです。じゃあ何にそんなに費やしているのかと言うと、作家である著者のこだわりです。過去にもリフォームをしたが不具合は生じる、そこでまたリフォームを考えるという堂々巡り(これを「永久リフォーム論」と呼んでいます)。リフォームにおける理想と現実を厳しく突き詰めることによって夢が現実と化し、現実が夢と化す三昧境(さん まい きよう)を家庭内に実現する「夢幻理論」で問題を乗り越えようともします。何のこっちゃと思われるかも知れませんがご本人は真剣そのもので、これから行われる自宅リフォームについて考えをグルリグルリと巡らしていかれるのです。ほかにも「隠(いん ぺい)蔽(いん ぺい)思想」「穏健な丸出し思想」「無限ポイント因縁理論」なる言葉が生み出され──すみません、読んでる側は吹き出しそうになるのです。

生身の職人たちと妄想作家との邂逅

 さて、長~い助走を経て、一〇二ページからいよいよマーチダ邸のリフォームが始まります。つまりこれ、作者の精神世界から、実際の物理的変化=リフォームが他者の手によってなされるということで、ここにきて第三者が顔を出します。美奈美乃工務店の担当、U羅君です。
 先に挙げた著者のリフォームポイント、および一〇〇ページにわたる著者の思いの丈をぶつけられた彼は、それを受けとめ、各所の寸法を測り、天井裏に入っていきます。その一挙一動を直視し、訝(いぶか)り、感心する施主。いい関係が築かれている予感がする一方で、見積もりが待てど暮らせど来ないことに焦燥し、質問する。すると「他の現場が忙しくて、なかなか進まなかったんですよ」との答え。
「神の国では先の者が後になり後の者が先になるが、リフォームの国では先の者が先になり、後の者が後になる」と著者──もう、流石(さすが)の表現です。
 その後、準備が整って一六一ページでようやくリフォーム開始の朝を迎えることになります。そこで新たなる登場人物──さまざまな職人さんたちが現れるわけですが、部屋内の荷物の移動、お茶を出すタイミング、入っていなかった断熱材の追加発注などなど、著者の気遣い、膨らむ妄想などが溢れ出る町田文体で綴られていき、気がつけばリフォームは終わっていくのでした──ふううぅ。
 読了し、頭の中が痺れたような感覚になったのは著者とリフォームの一部始終を共にしてきた緊張感と疲労感、それと町田さんの脳内から流れ落ちるとめどない言葉のシャワーをたっぷり浴びた爽快感からくるものだと考えられます。

 ワタクシのように町田作品を一度は開いたものの、そのページの黒さ、襲いかかるような饒舌(じよう ぜつ)文体に食わず嫌いになった方も多いかと思います。けれど、まずは実録的な本書を手に取り、現実と空想の狭間に揺られていると、あら不思議、いつの間に楽しい読書タイムになっているのですよ。

『GINGER L.』2016 SUMMER 23号より

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