毎日を1%ずつ新しく生きる! 刺激と感動のマガジン&ストア

★がついた記事は無料会員限定

2016.06.14

駐日アイスランド大使館 大使ハンネス・ヘイミソン対談 後編

美しい風景とヴァイキングの歴史

杉原 梨江子

美しい風景とヴァイキングの歴史

「指輪物語」「進撃の巨人」など、古今のエンターテインメントのルーツでもある、自力の精神に貫かれた「北欧神話」。新刊『自分を信じる 超訳「北欧神話」の言葉』は、「北欧神話」に登場する神々や英雄たちの格言、処世訓、名言を超訳し現代人へのメッセージとしてまとめたものです。

 刊行を記念して、編訳者である杉原梨江子さんが、アイスランド大使ハンネス・ヘイミソンさんと対談しました。


<広く旅せよ、狭い世界から飛び出せ!>

神々が宿る聖地といわれるスナイフェルスネス半島Snæfellsnes。

杉原 古代、スカンジナビア半島で語り継げられてきた北欧神話がアイスランドに伝わり、写本に書き残されて約1千年。とくに日本人に向けて、ハンネスさんが読んでほしい言葉はどれですか?

大使 「広く旅せよ」というメッセージ(025)です。北欧神話の格言詩「高き者の言葉(ハヴァマール)」の中でオーディンがこんなふうに語っています。「広い世界に旅立ち、方々を巡った人間だけが自らの知恵で舵をきり、世の中を渡っていくことができる。その者が賢者と呼ばれる」。これは、狭い視野ではいけないよ、何も知らないと生きていけないよ。広い世界に飛び出して、挑戦せよというメッセージです。アイスランドには「ヘイムスクール」という言葉がありますが、「ヘイム」は英語で「home」。狭い視野の人はいつも家にいて何もしない怠け者という意味合い。家に閉じこもっていれば危険はありませんが視野が狭くなってしまうことの警告です。この言葉は島国に住む私たちに大きな影響を与えてきました。

杉原 同じ島国の日本人にもあてはまりますね。ハンネスさんは日本人の性格をどう感じていらっしゃいますか。

大使 シャイで恥ずかしがり屋。小さく縮こまっているところがあると思います。でも、心優しい人ばかりだと思います。あなたたちも心がきれいな感じがします。

杉原 嬉しいですね、ありがとうございます。

大使 日本人の魅力を生かすためにも、この言葉を実践してほしいと思います。とくに若い世代の人たちに、広い世界に飛び出してほしいですね。海外の大学に留学して英語がペラペラになって帰ってくるとか、別の言語でもいいですが、とにかく世界を見に行きましょう。観光でバリ島に旅しなさいというのではないですよ。日本は長い歴史があり、経済力もあるすばらしい国です。だからこそ、一度外に出て、冒険も失敗も経験して日本に帰ると、視野の広い、成熟した人間として、自国のよさも見えてくると思います。

<ビジネスの成功者、ヴァイキングの精神>

ヴァイキングは冒険心にあふれて海へ。

大使 広い世界を見ようとする精神はヴァイキングの叡智といえます。9世紀頃、ノルウェーのヴァイキングたちがこの島に移住を始めたことがアイスランドの始まりです。彼らは未知の大海へと船出する勇気をもっていた人々。好奇心旺盛で、新しい土地を開拓し、交易ルートを広げていました。最近の調査では、アイスランドを出発したヴァイキング船がカナダまで到着したとされ、衛星写真によって、住居跡などが発見されました。今後、それがヴァイキングの生活跡なのか、北米先住民のものなのか、調査されることになっています。

杉原 ヴァイキングというと、略奪と殺戮を繰り返す、恐ろしい海賊のイメージが強いですが、ちょっと想像と違いますね。

アイスランド北部の都市アクレイリakureyriの港。 

大使 彼らは世界を巡って交易拠点を開拓したビジネスの成功者といっていいと思います。ヴァイキング船はこんな形をしています。ノルウェーのヴァイキング博物館で見ることができますよ。

杉原 オスロから船で約20分のヴィクドイという町にありますね。以前、訪ねました。シャープなシルエットがとても美しいと思いました。

 

8~9世紀のヴァイキング船。ノルウェーのヴァイキング船博物館Vikingskiphusetにて撮影。

大使 ヴァイキング船はパワフルで速い。現代でいえばプライベート・ジェットを持っているようなものです。自分の目指す場所へ進め!この船さえあれば、どこにでも自由に行ける重要な道具でした。ヴァイキングが航海で培った知恵が「高き者の言葉」に反映されています。リーダーを育てる指南書といってもいいかもしれません。航海の間、どんな試練も乗り越えて故郷に帰ってきた者は知恵深くなり、賢者と尊敬されました。

杉原 目的地に必ず到着する勇敢な精神は数多くの言葉に表れています。「決断を下すのは自分(004)」「自分の武器を意識する(022)」「一瞬のチャンスを見極める(054)」等々。新しいことに挑戦する勇気が湧いてきます。

大使 私が自国を誇りに思うのは、最初にこの地に住み始めた人間の代から現代まで、土地、家、名前など家族の歴史が何代にもわたって受け継がれていることです。例えば、ある農場は古代からずっとずっと同じ場所に、ずっとずっと同じ名前が継承されています。自分のご先祖様の名前もわかるんですよ。インターネット上で先祖代々のファミリー・ツリー(家系図)を見ることができます。こんな国は他にないのではないでしょうか。

杉原 興味深いですね。日本ではそんな昔からの家系図をたどれる家族はごくわずかだと思います。

大使 オーディンが語る価値観はファミリーの絆を大切にする、こうした伝統と結びついているのです。

<自然と共存して生きる美しい国>

レイキャヴィク首都圏エリアHöfuðborgarsvæðiðに降り注ぐオーロラ。

杉原 アイスランドはとても美しい国ですね。神秘的なオーロラ、ヨーロッパ最大の氷河、夏の沈まない太陽など日本では見られない景色が広がっています。

大使 ありがとうございます。私たちは自然と共存して生きるという意識を強くもっています。冬は厳しい自然に畏怖し、春になれば芽生えた命に感動する。どれほど恵まれているかをいつも考えています。

杉原 北欧神話を貫く自力の精神は、北欧の厳しい自然が影響しているように思います。神々と敵対する巨人は氷や嵐、邪神ロキは火、女神フレイヤは春の訪れの象徴といわれています。巨人たちが美しいフレイヤを奪おうとするのは春の芽生えを邪魔するためという説もあります。

大使 命の誕生、風、水、火、氷。神々の言葉は自然に感謝する気持ちも教えてくれます。古代の人々はもっと強く感じていたと思います。

美しい湖と花の風景が広がるスカフタフェットルskaftafell。

杉原 アイスランドは「火と氷の国」と呼ばれます。北欧神話では、世界最初の生命ユミルは火と氷がぶつかって誕生した、と書かれています。こういう記述を読むと、神話を書き記した人々はアイスランドの風景を参考にしたのではないか、と想像をふくらませてしまいます。氷河や火山、岩石、滝など。神話をイメージさせるロケーションが様々にあるからです。ハンネスさんはどう思いますか。

大使 その質問の答えは「YES」そして「NO」、両方です。というのも、北欧神話はアイスランド人が書き残しましたが、神話そのものはもっと古い時代、スカンジナビア半島で言い伝えられてきたものです。だから、神話に描かれた風景はアイスランドにくる以前につくられていたと思います。しかし、アイスランドの風景は独特でコントラストの激しいものです。デンマークのように平坦な国で語り継がれた神話が、アイスランドにわたり、伝えられていく中で、自然の強さが強調され、書き記した人々のインスピレーションを強くかき立てたかもしれませんね。

奈落の底へ豪快に落ちていく、幅100mのデティフォスの滝dettifoss。

杉原 例えば、世界遺産シングヴェトリル国立公園にある大地の裂け目アルマンナ・ギャウAlmannagjáは世界の始まりの風景に似ています。他にも想像力をたくましくすれば、北欧神話と共通する風景を思い浮かべることができます。デティフォスの滝dettifossは氷河が轟轟と落ちる原初の穴のようですし、ゲイシールGeysirやストロックルStrokkurの間欠泉は湧き上がる泉の風景を思わせます。

大使 独特の景観がたくさんありますからね。

<炎の巨人の名前がつけられた世界遺産スルツェイ>

杉原 2008年、世界遺産に登録されたスルツェイSurtseyという島は、北欧神話に登場する炎の巨人スルトの名前がつけられたそうですね。遥か昔の神様の名前がつけられることをどう思いますか。

大使 誇るべきことと思っています。何より、理に叶っています。この島はアイスランドの活発な火山活動によってできたものですが、海面上に浮かび上がってきたとき、真っ黒な島でした。スルト(Surtr)とは「黒い」を表す言葉。島の成り立ちにふさわしい名前だと思います。

杉原 一般の人は行けるのですか。 

大使 いいえ、限られた科学者しか立ち入ることができません。火山活動による島の形成や生態系を知るうえで貴重な場所として研究されています。スルツェイの写真集をお見せしましょう。この噴火、炎がすごいでしょう。

杉原 空も焦がしそうな勢いですね。最終戦争ラグナロクではスルトが炎の剣を掲げて戦います。アイスランドは探せば神話の舞台にふさわしい景色がもっとありそうですね。

大使 ぜひ私の国で探してみてください。

杉原 ゴーザフォスの滝Goðafossにも行ってみたいです。キリスト教が国教と定められたとき、北欧神話の神々の偶像を捨てた記念の滝といわれていますね。

大使 はい。ですが実際にはアイスランド人にとって、オーディンやトールやフレイヤは今でも大切な神様です。私たちは神々が語りかける言葉や神話のエピソードから、その生き方や考え方を今も受け継いでいます。

杉原 日本人の私が北欧神話のメッセージを一冊の本にすることをどう思われますか。

大使 とても勇気のある行動だと思います。日本にも神話があるし、歴史も長い。同じ島国で共通しているところも多い国の人が遠い北欧の神話から強いメッセージを受け取り、伝えようとするのはすばらしいことだと思います。少しでもお役に立てればと思って話しました。次はアイスランドで、神々の言葉を実感してください。本の完成を楽しみにしています。

杉原 ありがとうございました。

写真協力:駐日アイスランド大使館
通訳:吉田倫子

★がついた記事は無料会員限定

記事へのコメント コメントする

コメントを書く

コメントの書き込みは、会員登録とログインをされてからご利用ください

おすすめの商品
  • ピクシブ文芸、はじまりました!
  • 文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞作!
  • 無理しないけど、諦めない、自分の磨き方
  • 時短、シンプル、ナチュラルでハッピーになれる!
  • ビジネスパーソンのためのマーケティング・バイブル。
  • 有名料理ブロガー4名が同じテーマでお弁当を競作!
  • ドラマこそ、今を映すジャーナリズム!
  • 砂の塔 ~知りすぎた隣人[上]
  • 小林賢太郎作品一挙電子化!
  • あなたがたった一人のヒーローになるためには?
文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞作!
ピクシブ文芸、はじまりました!
エキサイトeブックス
今だけ!プレゼント情報
かけこみ人生相談 お悩み募集中!