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2016.06.07

駐日アイスランド大使館 大使ハンネス・ヘイミソン対談 前編

約1000年前から受け継がれる「自力」の精神

杉原 梨江子

約1000年前から受け継がれる「自力」の精神

「指輪物語」「進撃の巨人」など、古今のエンターテインメントのルーツでもある、自力の精神に貫かれた「北欧神話」。新刊『自分を信じる 超訳「北欧神話」の言葉』は、「北欧神話」に登場する神々や英雄たちの格言、処世訓、名言を超訳し現代人へのメッセージとしてまとめたものです。

 刊行を記念して、編訳者である杉原梨江子さんが、アイスランド大使ハンネス・ヘイミソンさんと対談しました。

アイスランド大使館にて。アイスランドの地図の前で。

 

 

 

 

 

<古アイスランド語で書かれた北欧神話>

オーロラの国、アイスランド。

 

杉原 こんにちは。大使のことはなんてお呼びしたらいいですか。
大使 ハンネスと呼んでください。ミスターも大使という呼びかけも必要ありませんよ。フレンドリーに「ハンネス!」。
杉原 はい、ハンネス!わかりました。私は数年前に北欧神話と出会い、天地創造から最終戦争、世界滅亡までが描かれる壮大なストーリーに夢中になりました。とくに感銘を受けたのが、最高神オーディンの処世訓を集めた「高き者の言葉」です。人生のエールのような格言の数々に何度も勇気づけられました。言葉には自力の精神が貫かれ、その力強いメッセージを多くの人に伝えたいと思って一冊の本にまとめたんです。タイトルには格言のひとつ「自分を信じる(001)」とつけました。(注:番号は本書の通し番号)
大使 いいタイトルですね。北欧神話の真髄を表していると思います。北欧神話は古代のノルウェー、デンマーク、スウェーデンなどスカンジナビア半島の人々が崇拝していた神々が活躍する神話です。オーディン、女神フレイヤ、雷神トールなどの名前は、現在でもアイスランドの子供たちの名前によくつけられますし、道の名前になるなど親しまれています。長い間、口承で伝わっていた神話が12~13世紀頃にアイスランド人によって書き記されました。その写本が残っているおかげで、現代の私たちが読むことができるのです。

北欧神話は古アイスランド語で書かれている。

杉原 アイスランドの人々が書き残さなかったら、北欧神話は消えてしまったかもしれないと思うと、本当に偉大な仕事ですね。
大使 アイスランドは小さな国です。土地は広いですが人口は少なく、隣の家まで行くにも遠く、家々は孤立していました。だから昔は、本がとても大切なものだったのです。子どもたちが幼い頃には神話を読み聞かせました。「こんな神様がいるんだよ、こんなキャラクターで、大事なことを教えてくれているんだよ」と大人たちは語りかけます。オーディンやトールなどが語るメッセージが心に入りこみやすい環境でした。だから、一千年以上経った今も、北欧神話の言葉がアイスランド人の心の中に根づいているのだと思います。それにしてもなぜ、あなたは北欧神話に興味をもったのですか。日本にも『古事記』など楽しい神話がありますよ。

<決して、あきらめない。神々が教える自力の精神>

幅25m、落差約60mのアイスランド最大級の滝スコーガフォスSkógafoss。

杉原 私は北欧神話に一貫して流れる、自力の精神に心惹かれました。神様や女神はとても力強く、前向きに生きています。最後には滅んでしまうとわかっていても、彼らは決して、あきらめません。運命を自分で切り拓こうとするエピソードも数多くあります。本書では「高き者の言葉」を中心に、J・R・R・トールキンの『指輪物語』『ホビット』などの竜のモデルとされる竜退治伝説「ファーヴニルの歌」、古代北欧の神話詩「巫女の予言」などから選び、219の言葉を紹介しました。これらの言葉はアイスランドではどんなふうに受けとめられていますか。
大使「高き者の言葉」はアイスランド人の生き方の教本と言っていいと思います。私たちは「ハヴァマールHávamál」と呼んで親しみ、みんなよく読みます。すばらしい知恵をオーディンが語りかけてくれる格言詩です。

杉原 ハンネスさんも子どもの頃から読んでいたのですか。
大使 はい、もちろん。「高き者の言葉」は小学生のとき、全員が学びます。12歳になると1つ1つの格言をすべて暗唱できるまで勉強します。
杉原 子どものときに暗記ですか!? 難しい言葉もあるのではないでしょうか。
大使 古アイスランド語で書かれているので、子どもたちは古めかしい言葉だと感じると思います。でも、北欧神話の中でオーディンはいちばん賢い神様として知られ、子どもたちはみんな大好きです。だから、オーディンが語りかけるように書かれた言葉を一生懸命覚え、大切に読んでいます。私自身、幼い頃にはわからなかった言葉が、年齢を重ねて理解できることもありました。これらの言葉に従っていれば、よい人間になれる、成功できる、優れたアドバイスだとみんな信じています。
杉原 かなり具体的なメッセージですよね。真の友の選び方、会話で失敗しないコツ、財産を得る方法、恋のノウハウもあれば、宴会でのマナー、お酒の飲みすぎに注意といったことまで、ユニークなものもたくさんあります。
大使 ええ、いたって実践的な言葉が多いですね。現実を生き抜く知恵として、ヴァイキングたちが実際に役立て、受け継いでいったからでしょう。時が経つにつれ、人々はいなくなり、いろんなことが変わっていく世の中で、自分はどう生きるのか? 他人が自分をどう思っているのか、よく考えて行動することも大事だと伝えています。10歳の頃に読んだときもすごい言葉だと思いましたが、私にとって、今でも大切なメッセージとなっています。

古代、家畜が多いことは富の象徴。財産に関する格言もある。

<自分を信じよ。優しいだけでは生きてはいけない>

杉原 とてもシビアで厳しい言葉もありますね。「きれいごとを言う(031)」「笑顔には笑顔を、嘘には嘘を(086)」といったアドバイスは、私たち日本人が実践したい教訓だと思います。というのも、日本人は和を尊び、自分よりも相手の立場に立って物事を考える傾向があります。子供の頃から、人に優しく、思いやりをもって接しなさいと教えられて育ちます。それはよいことなのですが、人を信じたばかりに騙されたり、傷つけられたり、不利な状況になったりするのもよくあることです。だから、北欧神話の「誰よりも自分を信じよ!」という力強いメッセージは日本人に役に立つと思い、この本を書きました。
大使 自分の利益をしっかり守ることは大切なことだと思います。オーディンの言葉に「他人の知恵を信じるな(004)」という格言があります。人が話したことを鵜呑みにするな、少し疑ってください、というアドバイスです。「愚か者は自分に笑いかける者をみな友だちだと思いこむ(125)」。これは笑顔で近づく人の本心を見抜けないと大変だぞ、という警告です。これらの言葉が教えるのは、自分の人生に責任をもつということです。みながみな、集団で行動しなければならないというのは健全ではないと私は思います。自分の未来も、日常も、よくも悪くも自分がすべて決めています。どう生きたらいいか、どう行動すればいいか、何を選択するか。自立した思考力を鍛えるメッセージがたくさんあります。

杉原 日本人は和を乱さないように遠慮したり、ノーと言えなかったりすることもあります。
大使 ナイーブでありすぎることも危険なんです。いつも人の言うことばかり信じて、勉強しない、何も読まない、そうしていると無知な人になってしまいます。オーディンは「自らの知恵、優れた分別に勝る荷物はない。見知らぬ土地では、みじめな者を守る鎧だ(202)」と言っています。群れから出て、自分の道を行くためには勇気が必要です。個人を強くし、リーダーシップを育てる言葉も多くあります。人間関係についても、「信頼できる人ですか(110)」と問いかけたり、「友にはよく会おう(093)」「よい人間とつき合え(080)」と語るなど、真の友を見極める方法も教えています。

前衛芸術家オノ・ヨーコ氏のアート作品「イマジン・ピース・タワー」。 レイキャヴィク沖合の島にある。

<世界でいちばん平和な国からのメッセージ>

 杉原 一つ一つの言葉に共感しました。自分を信じることは、和を壊すことでも孤立することでもなく、まして、意見の違う相手を打ちのめすことではありませんね。自分も信頼される人間になって、人と絆を深めていくことなのですよね。
大使 そのとおりです。
杉原 アイスランドは世界一平和な国といわれています。他人を敵とみなすような手厳しい言葉と、平和のイメージとが結びつかなくて、疑問に思っていたんです。神話の中では最終戦争ラグナロクが起きるし……。
大使 古代、神話の時代には戦って得ていたものが、一千年後の今は戦わなくても同じ結果を得られることも多いと思います。武器を手にとって、攻撃する必要はないのです。平和的な解決策はいくらでもありますからね。オーディン自身、忍耐力を養うことや自ら敵をつくらないアドバイスなども語っています。
杉原「小さなことで他人と争わない(112)」という言葉や、シグルズの竜退治に登場する「ファーヴニルの歌」には、戦うときは「腕力より勇気の力(050)」というメッセージもあります。自分を信じる勇気が必要ですね。
大使 何よりも大事なことです。自分を信じなかったら、人にどうやって自分を信頼してもらうのですか。自分のいいところ、悪いところも含めて、まずは自分が自分を信じる。1000年前から、アイスランド人の心の中に受け継がれている生きる知恵です。
杉原 ありがとうございました。

写真協力:駐日アイスランド大使館 通訳:吉田倫子

 


 

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