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2016.06.06

第2回

リフォームの実情――岡崎真一の雨戸問題

町田 康

リフォームの実情――岡崎真一の雨戸問題

町田康さんが自邸のリフォームを描くドキュメンタリィ小説『リフォームの爆発』前回はリフォームの前置きをお届けしました。いよいよ本論へ――入るのでしょうか。

***

 はは、空けた。まあ、そういうことで早速やっていくことにしよう。こうした場合、いつまでも前置きをやっていて本論に入らないと、中途半端なところで終わってしまい、議論がぶつ切りになってしまう。タコのぶつ切りなどというものは、ちょっと塩を掛けただけで冷酒の当てにもなって、非常によいものだが、議論のぶつ切りにはそうしたよさがまったくない。

 で、申し上げる。リフォームとはなにか。実情に即して申し上げる。リフォームとは家に対して行う改修工事で、例えば、長いこと使っているうちに家の雨戸の開け閉(た)てに非常な困難が伴うようになったとする。

 仮にこの家の主の名前を岡崎真一さんということにしておこうか。

 岡崎さんは長年、塗装工として働いてきた人である。実直な人では決してなく、どちかというと性格の悪い人で、例えば職場の仲間とコンビニに午飯を買いに入ったとする。ところが、切りまで仕事をやってから来たため、稍(やや)、遅い時間になってしまい、がためにコンビニの棚がスカスカになってしまっていた。

 というのもこのコンビニの店主、名を堀田光三というのだが、極度に心配性な質で、多く仕入れた場合の廃棄ロスを恐れるあまり、発注量を極度に絞っているため、午(ひる)など、直ちに棚がスカスカになってしまうのである。

 しかし、岡崎の勤務する工場の近くにはこのコンビニが一軒あるばかりで他の選択肢がなく、岡崎とその同僚たちは、本来、弁当や握り飯、サンドイッチなどを欲していたのにもかかわらず、菓子パンやスナック菓子などで味気なく腹を満たすことも屡々(しばしば)、というのが実状であったのである。

 そんなスカスカの棚に、いかなる偶然の灯火であろうか、ひとつだけ、弁当がひとつだけ売れ残っていた。それも安価にして美味なる、海苔弁当、である。

 海苔→乗り→法→矩。そんな不思議なベクトルが人の心にはある。なのでかかる場合、腹の中では、この海苔弁当を我が物としたい、他人の手に渡したくない、と思いながらも、ともに働く同僚・同志諸君を慮(おもんぱか)って、「儂(わし)はよい、あんたが取ったらよかろう」「いや、儂はいいよ。あんたが取りなさい」と言い合う場合が多い。

 これを実態・実情の世界では、遠慮、と呼んでおり、過ぎれば弊害もあるが概(おおむね)尊いものである。

 ところがそうして同僚が互いに尊い遠慮をしているとき、その一瞬の隙を衝いて岡崎は、たったひとつしかない海苔弁当を、あまりにも敏捷な動作でバスケットに入れ、呆気にとられる同僚を後目(しりめ)に殺して勘定場に向かったのである。

 常識、一般。から考えればこれは鬼畜の所業である。では岡崎は、自らが鬼畜であるという自覚を持ってこれを行ったのだろうか。

 否である。それどころか岡崎はこれを、当然の権利、と堅く信じていた。

 みなが遠慮をしあっているのに、どうしてそんなことを思えるのか。それは岡崎が、自分は社会から不当な扱いを受けている被害者、と考えていたからである。

 岡崎は、本来、自分は社会からもっと優遇されるべきであると考えていた。岡崎は塗装工をして、人並みの給料を取っていたが、それはきわめて不当な扱いであり、最低でも年収一億円は貰って当然、と思っていたのだ。

 しかし、現実にそうならないのは社会が自分を不当に低く評価するからで、岡崎はそんな社会から本来の自分の取り分を取り返すのは当然の権利、と信じていたのである。

 だから、そんな普通に考えれば鬼畜としかおもえないようなことをしても岡崎はまったく愧(は)じるところはなかったし、それどころか、本来の取り分から考えればこれでも大損だという不満感・被害感を抱いて、逆に尊大な態度で鬼畜行為を行った。

 という具合に岡崎さんは性格が悪かった訳で、となると、なぜ岡崎さんがそのように、自分は社会に冷遇されるにいたったか、という議論をするべきだが、いまはその時間がないのでそれは省き、とにかくそんな岡崎さんの家の雨戸の調子が悪かった、ということだけを現時点では、確認しておきたい。

*続きは、6月8日公開予定です。

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