我が家の玄関には、大きな字で「5年」と書かれたダンボールが置いてあります。5年間保存できる、2リットルの水が計6本。その上には、10リットルの水タンク。部屋に入るなり、「おしゃれより実用」という私の意識がバレます。

 冷蔵庫はスカスカですが、冷凍庫は常にパンパンです。電気が止まっても、パンパンにしておいた方が溶けにくそうですし、電気代の節約にもなると聞いたので。溶けても氷は水になるし、枝豆やブルーベリーなんかは、おいしくいただけそうです。

 カップヌードル、カップ焼きそば、クラッカー、チョコレートは、必ずストックしてあります。非常食として、という題名のもと買うのですが、大半は、ただ単に買い物にいくのも料理するのも面倒なときに消費されます。賞味期限が切れてもいけませんしね。

 自宅の目の前に、小学校があります。チャイムや学校放送や子どもたちの騒ぐ声など、敬遠する人もいるかもしれませんが、私は「しめた!」と思いました。玄関でたら、すぐ避難所。とはいえ、町内会にも入っておらず、通わせる子どももおりません。そんなときだけ頼りにするのはしのびないので、なるべく自分のことは自分でできるよう、防災グッズは取りそろえています。

 水洗トイレにセットできる災害用トイレを用意してあります。3匹の猫と暮すひとり暮しの友人は、もしものときは猫と同じようにするつもり、と言っていました。なるほどと思いました。

 背の高い家具は持たないようにしています。ひとり暮しの限られた空間、どうせ私は背の高い家具の上にも、なにかと物を置いてしまうでしょう。そして地震があったら、家具が倒れたり、物が落ちてきたりすることでしょう。天井が落ちてきたら仕方ありませんが、自分が買ったものにケガをさせられる、というのは、くやしい気がします。

 工具類は、軽い日曜大工ができるくらいは持っています。いま気になる工具は、バールのようなもの。いざというとき、窓やドアを破壊したり、人命救助にも役に立つと聞きます。しかし、女のひとり暮しの玄関先に、バールのようなもの、すなわちバールがあるというのは、いかがなものかと、躊躇しています。

 玄関先に、小銭の入った小さなガマ口が置いてあります。ふだんは、銭湯やちょっとコンビニ、という時に使っていますが、とっさの時に、パっとつかもうと思っています。一文なしよりは、ましなはず。

 防災リュックのなかには、油性マジックが入れてあります。震災のときにテレビを見ていたら、ある救援物資置き場が映りました。おじさんがひとりで、「何がどこに入っているかわからなくて…」とダンボールを開きながら、指定されたものを探していました。人手不足とのニュースでしたが、「あけた箱に何が入ってるか書いていきなさいよ!」と思いました。その時に、リュックにマッキーを入れたのでした。

 宮城県にいくたびに、買おうかどうしようか悩むものがあります。それは、「明かりこけし」です。ふだんは、民芸品としての、こけし。しかし地震で揺れるとパタリと倒れ、こけしのおしりから、LEDライトがピカーっと光るのです。買ってない理由は、でかいから。ビールの中ビンくらいの高さがあり、ひとりの部屋に置くには迫力があります。小ビンくらいになったら買おうと思います。

 ときどきハイキングに毛が生えた程度の山登りをするので、登山グッズはそろっています。リュックやトレッキングポールは、常に玄関に置いてあります。リュックのなかには、雨具、救急用品、常備薬、ビニール袋、ヘッドライト、小銭などが入れっぱなし。避難用グッズとしてもなかなか優秀だと思います。

 山のごはんと非常食を兼ねて、フリーズドライ食品はいくつかストックしてあります。ごはん、おかず、スープなど、ドライとはいえなかなかのクオリティ。海外にも持っていきます。異国で胃が疲れたときに食べる、炊き込みご飯とみそ汁は格別の味。梱包用クッションにもなりますよ。

 台所の戸棚には、カセットコンロが眠っています。鍋パーティーをする予定はありませんが、ガスが止まってしまったときの対策として、小さいのを買いました。最近ここに、登山バーナーも加わりました。おなかがすいたら、私のところに来てください。

 手動で充電できる小さなラジオが、玄関に置いてあります。出番のないまま、はや数年。ケイタイの充電ができるものですが、ガラケー時代に買ったので、今はその機能が使えません。ガラケーの人は私のところに来てください。

 ずっと畳にちゃぶ台の生活でしたが、ここ最近になってダイニングテーブルを導入しました。理由のひとつに「机の下にもぐれる」というのがありました。緊急地震速報が鳴ったら、とりあえず机の下にもぐって、体育座りをします。ちょうどひとり分です。

 この原稿を書いていた、たった今、東京に震度4の地震がきました。ひさしぶりの緊急地震速報。テーブルにもぐり、体育座りで、NHKの画面をじっと見つめながら、これからもっと揺れるかもしれないと、シミュレーションをしました。原稿を書くために、自分が用意している防災用品を再確認したところだったので、なんだか妙に余裕がありました。

 熊本市に、ひとり暮しの、従姉妹のおねえちゃんがいます。震災では、建物は無事でしたが、部屋のなかはめちゃくちゃになったそうです。何もしてあげられないけど、「いつでも電話してね」と伝えました。親戚じゅう見渡しても、自由気ままにひとりで暮しているのは、私とおねえちゃんの二人だけ。心細いときは、早朝でも深夜でも、いつでもウェルカム。東京が揺れてから少しして、おねえちゃんから電話がありました。“ ひとり暮しの地震あるある ” で盛り上がりました。東京と熊本。日本が沈没でもしないかぎり、どちらかは大丈夫。遠方のひとり暮しの友、というのもいいですね。

玄関先に常にスタンバイ。下に敷かれた黄色いのは、東京都が配る防災ブック。おしゃれより実用。

 

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これまでも、きっとこれからも、ひとり暮し。
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