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日本のモノづくりを支える「派遣技術者」という新しい働き方

2016.05.20 公開 ツイート

第1回

日本のモノづくりの現場で、いま何が起きているか? 佐藤博/渋谷和宏

技術立国日本に欠かすことのできない存在がある。「派遣技術者」だ。日本の技術力を支えるスペシャリスト集団であるにも関わらず、彼らが日本のモノづくりにどう関わり、どんな働き方をしているのかは、あまり知られていない。

そこで「派遣技術者」という新しい働き方に迫った『働き方は生き方 派遣技術者という選択』の著者、渋谷和宏氏と、6130億円の市場規模を持ち、年々成長を続ける「技術者派遣」ビジネスの国内大手であるテクノプロ・ホールディングスの取締役CFO兼常務執行役員の佐藤博氏に、いまモノづくりの現場では何が起きているのか、今後求められる「新しい働き方」とはどのようなものなのか、そして人材ビジネスの未来について、語ってもらった。

※2015年度見込み(「人材ビジネスの現状と展望2015年版」矢野経済研究所より)

■派遣技術者という知られざるスペシャリスト集団

渋谷 これまで30年以上、経済ジャーナリストとして企業取材を続けてきましたが、「派遣技術者」の存在は知っていたものの、彼らの多くが無期雇用の「正社員」だとは知りませんでした。

佐藤 それ以前に、派遣技術者という存在を知らない方も多いと思います。

渋谷 僕の場合は、知人がプログラマーとして客先に派遣されて働いていたので、技術の分野では「派遣」という働き方が浸透していることは理解していました。ですが、かなりの割合が正社員だと知ったのは、この本(『働き方は生き方』)にも書きましたが、20代後半のシステム開発担当の派遣技術者の男性との会話がきっかけです。
 その男性が「『技術者派遣の会社に内定し、派遣技術者として働くことになった』と郷里の両親に知らせたら、母親からひどく心配されてしまった」と話してくれました。その時には僕自身も、派遣会社に登録して派遣先を紹介してもらう非正規雇用の登録型派遣“いわゆる「派遣さん」”と「派遣技術者」との違いを理解していませんでした。だから母親が心配するのも無理はないかなと思い、「派遣という立場は、メーカーの正社員に比べて不安定だと感じますか」と聞いたのです。

佐藤 なるほど。それが世間の一般的な認識なのでしょうね。

作家・経済ジャーナリスト 渋谷和宏氏

渋谷 するとその男性は、「最近ではメーカーの正社員もリストラに遭ったりしますから、メーカーの技術者が安定しているとはもういちがいには言えないんじゃないでしょうか。私は派遣会社の正社員ですから、その点はやはり安定していると思います」「正社員という立場に安住してはいけないと思っていますけれど」と言ったのです。僕はきょとんとしてしまい、その話はそこで終わってしまいました。気になって調べたところ技術者派遣の多くは、その当時は「特定労働者派遣」と呼ばれ、派遣会社との間に正規の雇用契約を結んでいる正社員であると知りました。この経験をきっかけに、派遣技術者の人たちのことをよく知りたいと思うようになりました。

佐藤 渋谷さんのような高名なジャーナリストにそう思っていただけたのは、私たちにとってとてもうれしいことです。

渋谷 取材を続けるうちに、それこそあらゆる業種の開発や設計の現場で派遣技術者が活躍していることがわかりました。派遣技術者の方々がいなかったら日本のモノづくりがストップしてしまい、日本経済が立ち行かなくなるほど、枢要な立場で素晴らしい仕事をしているのです。それにも関わらず、派遣技術者の存在は知られていない。この事実を広く知ってもらいたいと強く思うようになりました。


■もはや自社の社員だけでは技術の変化に対応できない

佐藤 日本で外部の技術者を活用するようになったのは、40年ほど前からだと思います。当時は技術者不足への対応が主な目的でした。ですが、いまでは急激に変化し進歩する技術に対応するために「派遣技術者」を活用するようになっています。
 そもそも、日本の製造業には、新卒を採用して会社のなかで育てる文化があります。しかし、それでは技術の急速な変化に対応しきれない。加えて日本企業は、基本的に人事部が採用権を持っていて、事業部や開発部には最終的な決定権はありません。しかも、数百人採用しても、開発現場には1人も配属されないこともある。そのなかで開発をするのですから、常にリソース不足です。そのため、派遣技術者に頼らざるをえません。

渋谷 メーカーと派遣技術者は、切っても切れない関係なんですね。

佐藤 そうです。わかりやすい例を挙げると、いまの自動車はITやエレクトロニクス技術の塊ですが、自動車メーカー一社だけでは、それらの技術に全て対応するのは困難です。だから、我々のようなアウトソーサーから技術者の派遣を受けるのです。さらに付け加えると、開発の現場には秘密がたくさんあります。言葉は不適切かも知れませんが、それをいつ辞めるかわからない登録型の派遣社員に任せるわけにはいかない。その点、技術者派遣会社の正社員ならば安心して任せることができます。


■ソフトウエア、バイオ、航空事業などあらゆる分野で派遣技術者が求められている!

渋谷 派遣技術者という働き方は、メーカーにとっても働く側にとっても安心できる働き方なのですね。だから、あらゆる業種が派遣技術者を受け入れている。

テクノプロ・ホールディングス 佐藤博氏

佐藤 おっしゃる通りです。当社の場合、カバーする技術分野が多岐に渡っているので機械、電気、電子、情報システム、化学、バイオ、建築、土木など、文字通りあらゆる業種のお客様がいらっしゃいます。

渋谷 僕も取材して驚きました。自動車の完成車メーカーから部品メーカー、航空機メーカーなどありとあらゆる業界で派遣技術者の方が活躍されていますよね。
 僕は、派遣技術者が活躍する場は今後さらに広がり、求められるニーズも高まっていくだろうと思っています。その一例としてIoT(「モノのインターネット」)があります。例えば、スマートキー。これはスマートフォンをかざすと解錠できたり、遠隔操作で施錠できたりする技術です。規制の問題はあるものの、米国などではどんどん普及していますし、日本でも民泊との関係で需要が増えていくはずです。ところが、カギを作るメーカーがスマートキーを作れるかといえば、残念ながら難しい。IoTの技術を持った技術者が足りないからです。でも、キャッチアップしないと生き残れない。

佐藤 そこで派遣技術者の出番というわけです。

渋谷 少し前にトヨタ自動車が自動運転の研究開発で、自前主義へのこだわりを捨て、農業車両などの自動運転を手掛ける米企業から16人の開発チームを丸ごと自社に引き抜いたと報道されました。チームの配属先はトヨタが米カリフォルニア州のシリコンバレーに設立したAI研究所「トヨタ・リサーチ・インスティテュート」(TRI)で、年俸は1人1億円との報道もあります。トヨタ自動車でさえ、自前主義を捨てて外部の人事を登用しないとIoTの進化にキャッチアップできないという危機意識を持っています。
とはいえ、どこの会社でもトヨタ自動車のように優秀な人材を引き抜くことはできません。優秀かつ即戦力になる技術者へのニーズが高まるなか、派遣技術者の方々が活躍する場と可能性は、急速に高まっていると考えています。

(つづく)
【→第2回 派遣技術者とメーカー社員、本当にいい選択肢とは?】

インタビュー・構成 大山弘子 
撮影 宇壽山貴久子 

《作品紹介》
働き方は生き方 派遣技術者という選択 / 渋谷和宏(著)

技術の進歩が加速し、グローバルな競争が激化する中、大企業の正社員でもリスクとは無縁でいられない。どんな働き方をすれば、生き残れるのか? 特定分野のスペシャリストとして高い技術力を持つ「派遣技術者」にそのヒントがあった。危機意識を持ち、複数の分野に精通する彼らは会社や部門の盛衰に左 右されない。彼らが示す新しい働き方とは?

→書籍購入はこちら(Amazon)
http://www.amazon.co.jp/dp/4344424492
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http://www.amazon.co.jp/dp/B01CXYXGL0


(取材協力)
テクノプロ・ホールディングス http://www.technoproholdings.com/


《お知らせ》
取材にご協力いただいたテクノプロ・グループが運営するエンジニア・研究者向けポータルサイト「Do ~集まれ最高の技術人~」がオープンしました。
【Do ~集まれ最高の技術人~】
https://www.technopro-do.com/

 

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技術立国日本に欠かすことのできない存在がある。「派遣技術者」だ。日本の技術力を支えるスペシャリスト集団であるにも関わらず、彼らが日本のモノづくりにどう関わり、どんな働き方をしているのかは、あまり知られていない。
そこで「派遣技術者」という新しい働き方に迫った「働き方は生き方 派遣技術者という選択」の著者、渋谷和宏氏と、6130億円の 市場規模を持ち、年々成長を続ける「技術者派遣」ビジネスの国内大手であるテクノプロ・ホールディングスの取締役CFO兼常務執行役員の佐藤博氏に、いま モノづくりの現場では何が起きているのか、今後求められる「新しい働き方」とはどのようなものなのか、そして人材ビジネスの未来について、語ってもらった。
※2015年度見込み(「人材ビジネスの現状と展望2015年版」矢野経済研究所より)

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佐藤博

テクノプロ・ホールディングス 取締役(管理担当)CFO兼常務執行役員 1979年、日本電気入社。NECエレクトロンデバイスカンパニー経理部長兼企画統括部長、NECエレクトロニクス執行役員CFO、NECネッツエスアイ執行役員CFOを経て、2014年より現職。

渋谷和宏

1959年12月、横浜生まれ。作家・経済ジャーナリスト。大正大学表現学部客員教授。1984年4月、日経BP社入社。日経ビジネス副編集長などを経て2002年4月『日経ビジネスアソシエ』を創刊、編集長に。2006年4月18日号では10万部を突破(ABC公査部数)。日経ビジネス発行人、日経BPnet総編集長などを務めた後、2014年3月末、日経BP社を退職、独立。
また、1997年に長編ミステリー『銹色(さびいろ)の警鐘』(中央公論新社)で作家デビューも果たし、以来、渋沢和樹の筆名で『バーチャル・ドリーム』(中央公論新社)や『罪人(とがびと)の愛』(幻冬舎)、井伏洋介の筆名で『月曜の朝、ぼくたちは』(幻冬舎)や『さよならの週末』(幻冬舎)など著書多数。
TVやラジオでコメンテーターとしても活躍し、主な出演番組に『シューイチ』(日本テレビ)、『いま世界は』(BS朝日)、『日本にプラス』(テレ朝チャンネル2)、『森本毅郎・スタンバイ!』(TBSラジオ)などがある。2014年4月から冠番組『渋谷和宏・ヒント』(TBSラジオ)がスタート。
http://www.tbsradio.jp/hint954/

講演等のご依頼は info_shibuya@gentosha.co.jp までお寄せください。

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