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2016.05.14

男の暴力性はセックスに不可欠なのか

二村 ヒトシ/湯山 玲子

男の暴力性はセックスに不可欠なのか

夫婦間のセックスレスは当たり前、恋人のいる若者は減少し、童貞率は上昇中——。そんな日本人のセックス離れの背景を真摯に大胆に語り合ったのが5月12日発売されたばかりの『日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない』です。一部抜粋し、急変する「日本人の性意識」を考えます。
 

自分の中の暴力性を嫌悪する男たち

湯山 カンパニー松尾監督の『劇場版 テレクラキャノンボール 2013』は口コミで人気を博して、どんどん広がりましたが、中には嫌悪感を持つ男性がけっこういたことも興味深い。私の周囲でもいた。暴力や女性を貶おとしめることに快感回路を使うことに抵抗や罪悪感がある人たち。そういう人たちが「もう、セックスはいいよ」と言ってる気もするんです。自分の興奮材料が、女性蔑視だと気がついて、そこに自己嫌悪してるというか。

二村 僕は「テレキャノ」を劇場で見て、AVとしても映画としても「どう考えても傑作だ」と思いながら、やや寒い気持ちにもなっていました。昔から松尾さんやバクシーシ山下さんが監督するAVのファンでもあり、ただし当時は、こっちはまだ監督として売れてませんから、羨望の気持ちも持ちつつ、レンタルビデオで借りてひとりでオナニーしながら、あるいは作品の毒に当てられてオナニーできなくなりながらひとりで笑って見ていたわけです。

ところが「テレキャノ」は、映画館で多くの男女がゲラゲラ笑っている。寒い気分になったのは「これ、みんなで笑って見るものじゃないだろ」と思えたからです。「家でオナニーしながら、被写体の女性たちのありさまにゾッとしながら、それでも笑っちゃう自分に自己嫌悪しながら、こっそり楽しむもんだろ」という気持ちです。そこには湯山さんの言うような、僕の男としての罪悪感、男が女性の価値を判断してしまう暴力性への嫌悪感もあった。

湯山 そうね。みんなでゲラゲラ笑う、あの映画館の雰囲気には、戦時下の性暴力の現場すら思い至っちゃったからね。

二村 カンパニー松尾さんって魅力的な男でしょう? いい意味で「男っぽい」というか、彼の中には「いい女とエロいセックスをして美しい映像にしたい。面白いAVや映画にしたい」という意志があるだけで、僕みたいな「女優をコントロールしたい」という気持ちが、たぶんないんです。ないように、僕には思える。そういう監督が美しい女優を撮ると美しいAVになって、「素人の女性たちvs男のハメ撮り監督たち」を撮ると、いろいろむきだしの映画になる。松尾さんは暴力性とかディスコミュニケーションを、肯定や賛美してるわけじゃないとも思う。

湯山 ドキュメンタリーとして、今の男の「自然」がそのまま映っちゃった、というわけだよね。

二村 僕は、女と男の間の溝に橋を架けられるようなセックス、女と男が仲良くなれるセックスが、まだ、どこかにあるんじゃないかと思ってるんですよ。湯山さんは「テレキャノ」から年配の女性への侮辱を感じ取られたわけですけど、でも、実際の男女がセックスを盛り上げるためには、やっぱり男に暴力性があったほうがいいと思われるんですか?

湯山 そこが悩ましいところで、襲う性、オス性の魅力は、文化的に女性に相当刷り込まれているので、ほとんどの女性はセックス時のプレイ的な男の暴力性は嫌いではない。でも、それは都合がいい暴力性で、「オマエが愛おしくて、欲しくて辛抱タマラン」という愛という名のスウィートな暴力。その暴力に油を注ぐべく、生まれたての子鹿のように震えて、おののく、という女性側の演技も含めてね。

問題は暴力装置による男女の支配・被支配の関係が、もう血肉化されているから、そうしたポルノでオナニーしてきた私たちに、果たしてそうじゃない第三の道があるのかという話。私の年だったら暴力性や被支配性が、まだ相当強く欲情ファンタジーとしてある。ちなみに岡本太郎の養女だった岡本敏子、実はパートナーだったのだけど、彼女が晩年に著した自伝的小説『奇跡』の中で、岡本太郎をモデルにしたと思われる男性と主人公のセックスでは、襲う性である男の官能性を描いていてなかなか読み応えがあった。

二村 男が女を押さえつけてくるセックスのほうが、女は燃えるっていうことですか。

湯山 そう、燃えるということです。侵食されちゃってる。その一方で、江國香織原作の映画『スイートリトルライズ』(2010年公開)は、お互い不倫をし合っている夫婦を描いているんだけど、夫婦間はセックスレスなのよ。そのわけとしては、セックスを夫婦愛を確かめるものに使いたくないという関係性が浮き彫りになっていて、新鮮だった。男の基本となっている暴力性、アグレッシブさ、軽蔑欲情装置を妻に対して使いたくない。そういった暴力性に嫌悪感を抱いた男の心には何があるのか。

二村 「嫌われたくない」ということでは?

湯山 違うと思う。嫌われたくないんじゃなくて、ケンカ上等、暴力に親しまなければ男ではない、という「男らしさ」に嫌悪感、というのに近いと思う。

二村 いわゆる昔から言われている「男らしさ」を拒否してるんでしょう? 僕はそれは全然悪いことではないと思うんだけど、そのせいでセックスの数が減ってるってことですよね。

湯山 それだけ、男の支配性、暴力性はセックスに不可欠だったというわけですよ。

二村 うーん……。「支配できなければ勃(た)たない」というより、男は「自分というものを崩されると勃たなくなる」んじゃないですかね。僕はソフト・オン・デマンドというAVメーカーで監督志望の若い社員に「エロとは何か」を教えているんですが、新卒入社の男子に童貞が多いんです。僕が若かったころも、アダルトビデオを作っていく上で童貞っぽい精神性が必要だというのはあったけど、今は本当に童貞。そして彼らは「AV業界に入ったんだから、あわよくば仕事で童貞を失ってやろう。そのためにはどうしたらいいか」と考えるズルさもない。童貞のままでポルノを作る気でいる。

それが別に悪いって言いたいわけじゃなく、これからのAVは童貞が監督して童貞が見る童貞フレンドリーなものになっていく流れなのかもしれないけど、ひとつ言えることは、童貞をこじらせた男は、ひどくガンコで、プライドが高いんです。「それだと、お客の童貞を喜ばせられる作品は制作できないよ」って叱っても、こっちの言うことを素直に聞けない。もともと男性社会って、プライドを捨てなくてもセックスできる、むしろイバッている男のほうがセックスにありつける世の中だった。一見女性に優しいナンパな男も、ヤるために優しかっただけで、そういう男は自分を女性に崩されていたわけではなく、自分を通す(セックスする)ために女に優しくしていた。

湯山 女性もセックスが苦手な人のほとんどは、自分を崩されることが嫌というタイプ。

二村 女性たちだって充分ガンコだけど、「ガンコさを崩されて、“自分から”自由になれたときに発情する」っていうタイプの女性が、ちゃんとセックスや恋愛を楽しめる女性ではありませんか? それがだんだん時代が変わってきて、男性全員が順調に成長できるという夢が破れて、ガンコなままで自分を崩さない男は女に嫌われて、勃起してるのにセックスさせてもらえない世の中になって、自分を崩して女性と対等でありたいと願う優しい男が、愛する女や、心が通う女に対して勃たなくなっている。

湯山 そこにキーがあるかもしれない。男たちが従来の発情システムと、現実の感情にズレが生じていることを感じ始めている。今までは、二村さんの本は啓蒙書として「セックスの世界へ来てください」という話だったけど、それ自体がもう成り立たないんじゃないかということよ。彼らを説得する言葉があるのだろうか。彼らは、「モテたい」とすら思わないんですよ!

二村 そうですね。

湯山 先ほどの『スイートリトルライズ』の例がそうなんだけど、セックスしないと関係が深まらないということも幻想だと思われてきている。「テレキャノ」以降、私自身も「セックスはいいもの」という言葉には懐疑的になっています。まあ、更年期をすぎて、ホルモンのガソリンがなくなっちゃったことも大いに関係あるんだけどね。

二村 「テレキャノ」を見て絶望したということですか。

湯山 もともと私の中にあった感覚が、「テレキャノ」を見て「ああ、本当にこんな取引関係だったらいらねえな」と確信に変わったのよ。何度も言うようだけど、更年期すぎのホルモン減少で冷静になった今、男性からの軽蔑と暴力をM的喜びに変換してまで、セックスする必要があるのか、ということですよ。

二村 ああいうセックスには付き合えないってこと? 付き合う必要がないってこと?

湯山 軽蔑と攻撃性をゲーム化してSMにすればあるかもしれないと思っていたけど、「それすらももうないな」と。男性が持っているチンコたるものの攻撃性にどっちらけたというかね。それは案外、今の若い人たちのセックス嫌悪に計らずも近づいちゃったのかも。子作りのために仕方なくやるけれど、あとはセックスなんてないことにしたいっていう。ないことにしたいっていうのは、女の体を乗りこなせないからないことにしたいのとはまた別で、もっとピュアな、暴力という汚い世界を見たくない、見たくないからしないということかな。

二村 男性たちも、女性をヘイトする一部のネット民に同性のねじれた性欲を見て、気持ち悪くなっているのかもしれない。男の性欲はあんなに醜いものを生むのか、と。

湯山 男の性欲は男にとっても気持ち悪いという学習は、ネット時代にもの凄く強化されたと思います。

二村 インターネットのせいで促されましたよね。いわゆる草食男子はそれに堪えられない。

湯山 堪えられないでしょうね。このモードが実はひょんなところに吹き出していて、大ヒットした映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年公開)がまさにそれ。全編カーチェイスの一大アクション映画なんだけど、近未来の環境破壊された世界で、水利権を掌握し、若い女を自らの子産みマシーンとしてハーレム化する権力者とその軍団の男たちは、全員、化け物のように暴力的で、醜く、キモく、競争心の塊。対して彼らと闘う女たちは美しくマトモで勇気があって、と、徹底的に男の世界を醜く描いている。監督は男性で、男が自らこんな醜い男の世界を描いてしまうところに、びっくり、自虐なのかい? とかね。

(「序章 なぜ、私たちは恋愛も結婚もセックスも楽しめなくなったのだろう」より)

***
『日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない』目次

序章 なぜ、私たちは恋愛も結婚もセックスも楽しめなくなったのだろう
◆日本に蔓延するセックスへの絶望
◆自分の中の暴力性を嫌悪する男たち
◆「首を絞めて」と言う女性が増えている
◆脳化するとセックスができなくなる
◆快楽で自分を異界へ連れていく

第一章 自分の中の快感回路を探しに
◆AV男優とAV女優では「セックス」にならない
◆なぜ女優にペニスを生やすのか
◆気持ちいいことに誠意を尽くす、二村式AVの秘訣
◆セックスの才能がある男・ない男
◆必ず来る「勃たなくなる時代」への準備

第二章 ひからびた感情を取り戻せ!
◆メンヘラ女子のセックスはエロい?
◆女への憎しみ、恐怖から、女を支配しようとする男
◆セックスに不自由しない男はなぜ嫌われるのか
◆母と息子の癒着が根源的問題
◆親が自分の人生をまっとうすると子どもはグレない
◆50歳をすぎたら男はつまらなくなる

◆感情を出すことを恐れるな

第三章 侮辱でもない、自虐でもない、大人の性愛のたしなみ
◆前戯はレストランから始まっている
◆エロ話で日本の男女の縛りを外す
◆オヤジの性文化にも学ぶところがあった
◆男は射精以外のオーガズムを知ったほうがいい
◆日本人のセックスは遊び的
◆なぜ男は現役をアピールするのか
◆50歳をすぎて突如、愛妻家になる男の心理

第四章 エロティックでロマンティックな人生のために
◆いつまでも褒めてほしがる男たち
◆男と男の面倒くさい関係
◆Mを自称する女のつまらなさ
◆病む不倫をしないで済む方法
◆侮辱してくるパートナーとは距離を取る
◆オーガズムは自分で得るもの
◆老いていく身体と向き合う
◆母親ベタベタとセックスの間のスキンシップを!
◆自立した女性が男を欲情させる方法
◆きれいな男女しかセックスしてはいけないという幻想
◆セックスは贅沢品になりつつある
◆されどもセックスを過大評価しない

◆あとがき 二村ヒトシ
◆あとがき 湯山玲子
 

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