大学時代からの友人で、世界中の映画祭で賞をとったりしている映画監督のSが、ふと「生まれ変わったらギターが弾けるようになりたいなあ」と言った。「いや、生まれ変わる前に弾けよ、ギター」と、私は答えた。当たり前だ。当時、Sは30代後半。別に生まれ変わるまで待つことはない。しかし、奴はその後もギターを弾くことはなかった。

そして、それから15年ほど経ったある日、Sと飲んでいたら、「あの時、ギターを始めてたら、今ごろ結構弾けたよね」と真顔で言うから、「当たり前だ、15年練習したら相当だよ」と、つい声が大きくなってしまったのはしようがないことだろう。15年前は、それでも私は、今から始めるというのは、全く楽器を触ったことが無い人にはハードルが高いのだろうと思っていた。昔、弾いてた人が再開するのでさえ、何だか色々大変らしいのだから、仕方ないかと。
 

が、15年後の私は知っていた。友人のイラストレーター、たかしまてつをが42才にして初めてギターを買って、今では私たちのバンド「東京ハイボールズ」で、立派にギターボーカルとして演奏していることを。しかも、とてもとても楽しそうに。そして、たかしま君は本当に音楽を知らなかったのだ。それでもギターに興味を抱き、ギターを買って、練習した(2年ほど放置している時期もあったのだけど)。そうすると、弾けるようになるのだ。少なくとも、仲間内のバンドで楽しめる程度には。
 

そして、ここで、こんな事を書いている私も、バンド自体は中学生のころからやっていたものの、当時はキーボード弾きだったし、ギターはコードをジャカジャカ鳴らせる、という程度だったのだが、たかしま君に僭越にもギターを教えている過程で、ギターを弾く事がやたら楽しくなってしまって、延々と弾いていたら、何となく、高校の頃、「これが弾ければカッコいいだろうなあ」と、全く弾ける気がしないまま憧れていた沢田研二の「世紀末ブルース」が弾けたりしてしまったのに自分でビックリしたり。

まあ、実際の所、ギター歴は長いものの、左手の小指を使えるようになったのは、たかしま君に教えるようになった5年前のこと。ほとんど初心者のようなものだったのだ。いや、だってさ、かつて、あのディープパープルのギタリストにして、我らのギターヒーロー、リッチー・ブラックモア先生がインタビューで言っていたのだ。
 

「俺が他のギタリストより優れているのは、クラシックギターをやっていたから、左手の小指を上手く使えるからなんだ」
 

そう、つまり、普通のギタリストは左手の小指は使っていない、つまり必要ないのだと、高校時代の私が思ったのは当然のことではないだろうか。追い討ちを掛けるように、当時、一緒にバンドをやっていたギタリストのUが、「小指とか使えんでも弾くっさい」と言ったのだ。あのレッド・ツェッペリンの名曲「アキレス最後の戦い」を一人数役をやって弾きこなす男がである。決して、小指で弦を押さえるのが痛かったからではなく、要らないならやらなくていいと、とにかく隙を見ては怠けたい盛りの私は、思っていたのだ。

ところが、意外に練習してみると小指は簡単に使えるようになった40代後半の私だった。使えると、今まで難しいと思っていたフレーズが簡単に弾ける。当たり前だ、使える指が1本増えたのだ。しかも、その指はラッキーなことに一番外側に付いているから、遠くまで届くのだ。何て便利。そのことをUに話したら、「小指は、使う方が良かよ」と言いやがったのだった。いや、私も心の底から思う。「小指は便利」。
 

閑話休題。ギターは年取ってから弾いても、ちゃんと上手くなるのだ。練習は裏切らない。そして何より、若い頃のように、一刻も早く上手くならなくては、とか思う必要が無い。もう、高校時代のように、ギターが弾ければモテるかも、などという幻想を抱くことはない。モテる奴はギターとは無関係にモテるし、モテない奴はギターとは無関係にモテないことを、私たちは知り過ぎるほど知ってしまった。もしかしたら、若い頃にギターに触れないまま生きてきたために、その幻想を抱いたまま溺死したようなオッさんが読んでるかもしれないから言っておくが、基本は関係ない。もっとも、女性が、男性への好意を伝える際のきっかけとして「ギターが弾けるっていいなあ」とか言うかも知れないが、そんなものは最初から相手に好意があるからで、だからギターが弾けなくても、「万年筆に詳しいのっていいね」とか「防災の知識がある人は好きだなあ」とか言うのだ。別に、万年筆だから、防災だからモテるなんてことはないのに。
 

モテないと割り切って弾くギターは、もう純粋にギターを鳴らすことが楽しいのだから、練習も遊びのようなもので、遊びだから夢中になって弾いて、何か弾けるようになったりするのだ。いや、ほんとよ。もっとも女性の場合、年配の女性がカッコ良くギターを弾くとモテるかも知れないと思う。私は、女性がギターを持ってるだけで、3割り増しに魅力的に見えるという病を抱えているが、その病は、案外、多くの男性に潜伏しているような気がするのだ。知らんけど。

ギターはいいよ、場所取らないし、ガンッと弾けばガンッって鳴って、じゃららーんと弾けばじゃららーんって鳴って、ポロンと弾けばポロンと鳴るのだ。これを初心者でも実現できてしまう楽器って、実は意外にないよ。

故佐久間正英氏はインタビューで「肉体的な衝動をどう具現化するか?というところでシンセはギターに適わないんですよ。」と話しているが、この感覚を体感するためだけでも、今からギターを弾く価値はあると思う。それはとても気持ちいいから。
 

これから、始まるのは、だまされたと思ってギター弾いてみようよ、きっかけくらいは教えられるから、というような連載で、私の文章とたかしま君のマンガで、40才を越えてギターを始めようとするあなたを全力でサポートしようと思う。もちろん、私もたかしま君も下手くそなギター弾きであり、凄いテクニックなんて教えようにも教えられないのだけど、下手だからこそ分かることもあると思うし、下手だから色々誤魔化して、何か弾けてるからいいや的な技も身に付けてたりしてるから、ハードルは低いと思う。まあ、とにかく、だまされたと思って、ひとつ、よろしくお願いします。いちおう、たかしま君をそれなりに弾けるようにしたという実績はあるのだから。
 

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