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2016.05.12

思考優位の人間は鈍感で仕草さが粗くなる

尹 雄大

思考優位の人間は鈍感で仕草さが粗くなる

断食もとうとう最終日です。感覚が研ぎ澄まされるほどに尹さんは、考えることがいかに現実から乖離した行為であることに気づきます。


思考に体を合わせるのではなく、体に思考を合わせる

  断食7日目の朝の目覚めは、最終日だからといって格別すばらしいというわけでもなく、やはり3日目を過ぎたあたりから訪れている、起きているのと寝ている状態とがはっきり分かれていない感覚で迎えました。

 ただ7日目となると、なんとも曰く言い難い「感じ」が体ぜんたいを覆っている感じがします。こう続けて「感じ」と綴ると、なんとも間抜けですが、うまく言葉で言えないのです。
 少しは近いと思うのは、「空く」や「透く」です。お腹は空いていても空腹感をもたらさず、体を薄く感じても、そこには軽快さが備わっている。ともかく濁りが少なく穏やかで明度が高いのです。 

 あるいは「通りがいい」といいましょうか。そのため、蛇口をひねるだとか、ドアノブに手を伸ばす、階段に足をかけるといった、どうということのない行いも細かく感覚されます。蛇口なりドアノブに触れて「なるほど」と独りごちたりもしました。
 それぞれの形に沿った動きさえすれば、さほど力は必要ないのです。しかしながら、普段の僕は余計な力をかけて蛇口をひねったり、ノブを回していたことが、それらにごくわずかに触れた瞬間にわかったのです。無駄な力みや思考がないから起きていることがそのままダイレクトに伝わってきたのでしょう。

 なおのこと普段の自分のどうということのないはずの振る舞いが気になってきました。例えばコーヒーカップを手に取る。箸で惣菜をつまむ。誰かに触れるだとか、そうした際の接触がどれほど粗雑で気の配りの欠けたものであっただろう。それに気づくと恥ずかしさが募ってきます。

 それにしても何気ない行為が乱暴になってしまうのはなぜでしょう。しかも、それを問題として感じないのはなぜなんでしょう。

 その理由は、粗暴な振る舞いを改めて、ちゃんとしようとしたときに明らかになります。例えば一挙手一投足に注意を払わなければいけないような局面にさしかかると、僕らはこのように考えます。

「うまくコントロールすれば精度の高い振る舞いができる」

 誰しも経験的に知っていると思いますが、意識して行ったところで訪れる結果は芳しいものではなく、非常に精度の低い、拙いものにしかなりません。
 頭は「コントロールすればうまくいく」と判断しても出力されたものは、ぎこちない動きだけです。ところが、そこでまた頭はこう考えます。「もっと細かくコントロールすればいいのだ」と。

 意識的に行った結果のぎこちなさを意識的に正そうとするのです。本当におかしなことですけれど、僕らは大まじめに取り組んでいます。職場でも学校でも家庭でも、それが正しいことだと奨励されているはずです。
 そのとき僕らが傾注しているのは頭の中のイメージであって、実際の行いではありません。つまりコントロールしようとすればするほど実体とは懸け離れた行いにしかならず、いわば上滑りに力を注いでいることになります。

 イメージの世界で戯れ、イメージに実際を合わせようと努力しているものだから、物や人に触れるといった実際の動きがおろそかになっても気にも留めない。感覚よりも思考が大事なのだから、鈍感さに拍車がかかり、何気ない仕草のひとつひとつが荒くなってしまうのも当然でしょう。

 世の中は思考優位になっています。しかし、どれだけ緻密に考えたところで、突き詰めて言えば思考は現実とは関係がない。そのことについて深い考察を向けることはありません。
 考えるとは常に「いま・ここ」から逸脱した行為であり、実際に起きている様子から目を逸らし続けるほかないのです。だから意味がないのではなく、そういうものなのです。しかし、「そういうものだ」という限界を知らないでいると、思考に体を合わせることを正常だとみなすという倒錯が起きます。というより、すでに起きているからこそ、僕らは体感を無視して働いたり、頑張ったりすることを美徳だと思えるのでしょう。

 そういう正常さが異様なものだと気づくには、日常を改めて見直す体験が必要です。体験とは「体で験す」ことです。頭から離れることがなければ、何がまともなのかも知らずに生きてしまうことになりかねません。大事なことは「まともさ」に関する思考でも議論でもなく、体験してみることです。

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