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2016.05.10

ファザーレス──「妻に大切な息子を奪い取られてしまった」

奥田 祥子

ファザーレス──「妻に大切な息子を奪い取られてしまった」

 会社ではリストラに脅え、家庭では「夫」として妻との関係に疲弊し、「父」としての居場所を失う。そして、「息子」として母親の呪縛にも苦しめられる……。「仕事」という大事なファクターにヒビが入った時、男の人生は瞬く間に崩壊の道へと向かってしまう──。男であるがゆえの苦しみ、『男であること』とはいったいなんなのだろうか?

 今回、幻冬舎新書『男という名の絶望 病としての夫・父・息子』(奥田祥子・著)では、そんな市井の男たちの実情を最新ルポとして明らかにしています。

 その衝撃の内容を本書から一部を抜粋して紹介いたします。

*  *  *

別れた息子に会いたい──

 わが子との関係に思い悩むのは、現に家族の一員として存在する父親だけではない。妻の一方的な離婚の申し出によって親権も息子に会う権利も奪われ、血のつながった父親として自責の念を深めながら、わが子を想い続ける男性もいる。

 

 京都府郡部のある町。行政施設内に設けられた談話スペースで、大原武雄さん(仮名、四十四歳)は腹の底から吐き出したような太い声で、こう切ない想いを明かした。

「息子に会いたいんですわー」

 一人息子の教育方針や自身の仕事を巡り、徐々に溝が深まりつつあった妻からある日突然、離婚を突きつけられたのが、一年ほど前。大原さんは予想だにしなかった展開にただ慌てふためいた。しかし、もうその時点で夫婦間での話し合いの余地は全く残されておらず、妻側からの要望をすべてのみ、協議離婚に応じた。離婚に際しての合意事項は、息子の高校卒業までの養育費を支払うこと。所有権・住宅ローンの名義を共有で購入したマンションには妻子が住み、大原さんは出て行くこと(ただし、名義を妻に変更したうえで、残りの住宅ローンは共同で支払う)。さらに息子の親権は妻が持ち、大原さんには息子との面会交流権を認めないこと。本人は「気が動転して、特に息子のことについては事の重大さを考えずに元妻の要求を受け入れてしまった。迂闊だった」と振り返るが、この己の判断が後々、大原さん自身を大いに苦しめることになるのだ。

 この日、月に一回開設されている行政の無料法律相談に訪れた大原さんは、今から息子の親権を元妻から奪い返せないか、と弁護士に尋ねたが、間髪を容れず、「無理」との回答だった。だが、わが子が成人すれば、父母どちらの親も子に対する権利義務関係で法律上の差は無くなる。弁護士からは、「父母が離婚しても、親子はいつまでも親子のままなのですよ」と言われたというが、大原さんの心の痛みを和らげるものではなかったようだ。
 

教育方針で妻と対立

 大原さんは関西の難関私立大学を卒業後、中堅ゼネコンに技術職として入社し、現場での経験を積んで一級建築士の資格を取得した。二十九歳の時に同じ大学のサークル仲間だった妻と七年間の交際を経て結婚し、翌年には長男を授かった。妻は食品メーカーの総合職として勤務し、一年間の育休取得後、職場に復帰して仕事を続けていた。

 最初に夫婦間に不協和音が生じたのは、六年前に遡る。息子の中学受験を巡る問題だった。母校の大学の付属中学校を受験させたいと願う妻と、自身がそうであったように、高校までは公立に進んで様々な経済・生活環境で育った同級生と交流することが望ましいと考えていた大原さんとの間で、意見が対立したのだ。結局、大原さんが折れ、息子を小学三年生から中学受験のための塾に通わせることにした。

 その理由を尋ねると、大原さんはほんの少し考え込んだ後、やや心もとないような表情でこう説明した。

「負い目、だったんでしょうかねえ、妻への……。夫婦ともに仕事を持ちながら、家事も子育ても、子どもの教育も互いに協力してやっていく、という約束で結婚したのですが……実際には、妻に、特に息子のことでは大きな負荷がかかっていたんです。妻からは何度も、『もっと手伝ってよ』と言われていたんですが……なにせ、リーマン・ショック後の景気低迷の波を建設業界はもろに受けましたからね。業績を改善させるために働き詰めの毎日で、とても息子の面倒を見られる状況やなかったんですわ。そやから、ここは妻の好きなようにさせてやろうかと……」

「でも、大原さんの仕事が大変なことは、奥さんも理解されていたのではないんですか?」

「いや……妻には、詳しく話してなかったんです」

「どうして、ですか?」

「うーん、余裕がなかったというのもあるし……なんや、一人前の男が仕事でつらい思いをしているのを、妻に話しづらかったというのもあったかもしれません。それに……」大原さんは束の間、押し黙る。

「それに、何ですか?」

「……女性は職場で家事・子育てとの両立が、会社の体面や社外向けアピールもあって、支援されていますが、男はそういうわけにはいかへん。本当は、そういう男女の置かれた環境の差も含めて、『頼むから、我慢してくれ』と言いたかったんですけど……」

*  *  *

 仕事の忙しさを理由に子育てから逃げていた大原さんが家庭での居場所を失ってしまうきっかけとなったものは!? そして、「逃げる」ことをやめた時に見えてきた家族の繋がりとは──。

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No Name2016.5.10

「一人前の男が仕事でつらい思いをしているのを、妻に話しづらかった」「女性は家事と職場の両立が支援されているが、男はそういうわけにはいかへん」 男性が発したこれらの言葉は、男として非常に良く理解でき、読んでいて非常に考えさせられる。いまの社会の空気として、男が一人前と思われるには、仕事が上手くいっているようにふるまわなければいけないし、家庭が仕事に影響を及ぼしているとみられてはならないのである。そして、そうした意識は当然妻や他の家族の側にもあるはずなのだが、男であるからこそ、この意識に強く執着してしまい、より優先すべき別の大切なものを見失ってしまっているのではないだろうか。 男として当然だと思っている考え方が、いかに自分を貶めるリスクをはらんでおり、本来自分が大切にすべきものとは何なのか。 この本を読み返して、今一度よく考えてみたい。

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