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2016.05.01

『アルパカ探偵、街をゆく』 試し読み・第3回

真実はどこ?
お父さんは本当に幽霊だったの?

喜多 喜久

真実はどこ?<br />お父さんは本当に幽霊だったの?

葵の亡くなった父親は、プロ野球の選手だった。
親友の雛子は、「葵のお父さんの幽霊」の真相を探るために、葵の自宅までやってくる。
そして、葵の養母に、その時のことを聞き始めると……。

 

(第一話「アルパカ探偵、聖夜の幽霊を弔う」つづき)

     3 
その日の放課後。葵は雛子を連れて自宅に戻った。
「へえ、ここが葵ちゃんのおうちかあ」
 玄関先で立ち止まり、雛子は興味深そうに辺りを見回している。
「何か、気になることがありますか?」
 葵の自宅は二階建ての、普通の一軒家である。雛子は興味津々といった様子だが、特に見るべきところがあるとは思えなかった。
「ううん。ここで葵ちゃんが暮らしてるんだな、と思うと、なんかじーんと来ちゃって。また一歩、葵ちゃんに近づけた気がする」
「私も、鴨島さんを家に招くことができて嬉しいです。……きっかけがやや特殊ですが」
「そうそう、そうだった。亡くなったお父さんの話を聞きに来たんだった。お母さん、いるんでしょ?」
 ええ、と葵が頷いた時、玄関ドアが開き、中からすらりと背の高い、壮年の女性が姿を見せた。葵の母――正確には養母――の聡美だった。
「いらっしゃい」と聡美は上品な笑顔で葵たちを出迎えた。「そちらの可愛いお嬢さんが、葵のお友達?」
「あ、はい。初めまして! 鴨島雛子といいます」ぺこりと雛子がお辞儀をした。「葵さんとは、いつも親しくさせてもらってます!」
「初めまして。母の聡美です。さ、上がって上がって」
 自宅を見られる気恥ずかしさを感じながら、葵は雛子と共にリビングに向かった。
 ダイニングテーブルに並んで座ると、ケーキとコーヒーを載せたトレイを持って、聡美が入ってきた。「あ、お構いなく!」と言いながらも、雛子は嬉しそうにそれを受け取った。
 聡美が二人の向かいに腰を落ち着け、「健也さんのことを聞きたいんだって?」と切り出した。
「そうなの」と葵は神妙に頷いた。事前にメールで用件を伝えてあるが、詳細はまだだった。要点を押さえつつ、葵は自分の記憶に矛盾があることを聡美に説明した。
「あの年のことは、よく覚えてる。話すのは構わないけど……大丈夫?」
「うん。そろそろお父さんのこと、ちゃんと思い出してもいいかな、って」
「そう。じゃあ……」聡美は息をつき、ゆっくりと当日のことを語り始めた。「……二十四日の夜、九時半くらいかな。いきなり文江さんから電話がかかってきたの。『健也さんが事故に遭った』って、慌てた声で。それで、急いで病院に駆けつけたけど、私が到着した時には、健也さんはすでに息を引き取ってた。葵は霊安室の前の廊下で、テディベアを抱えてうつむいてたっけ……」
 聡美の証言を聞いて、葵は首をかしげた。
「ねえ、お母さん。私はその時、テディベアを持ってたの?」
「そうよ」と聡美は迷う様子も見せずに頷いた。
 その場面は記憶にはなかったが、今の話に出てきたテディベアは、間違いなく父から渡されたものだろう。似たようなぬいぐるみを他には持っていなかったはずだ。ということは、事故より前に健也からテディベアを贈られていたことになる。
 やはり、単なる記憶違いだったのだろうか。
 葵がその可能性を口にする前に、「少し、質問をしてもいいですか」と雛子が小さく手を挙げた。「健也さんはタクシーに乗っていて事故に遭われたそうですが、その時、どこに行こうとしていたんでしょうか」
「……確か、『東京駅に向かう途中だった』って文江さんは言っていた気がする」
「電車でどこかに行く予定があったんでしょうか。ちなみに当日の健也さんの行動は、どんな感じだったんですか?」
「聞いた話だけど、午前中は自宅にいたみたい。そのあと、午後から球団のイベントに参加してたはずよ。それが終わったあと、移動中に事故に遭ったって」
「イベントというのは?」と雛子が質問を重ねる。
「ファンとの集いだと思う。健也さんは毎年必ずそれに参加していたの」
「なるほど。いろんな人の目があるし、その時間、家にいなかったのは確実ですね。となると、午前中にプレゼントを受け取ったと考えるのが自然かな。……どう、葵ちゃん?」
「まるまる十二時間、勘違いしていたということですか? でも、プレゼントをもらった時、私はベッドで寝ていました。部屋は真っ暗だったし、昼間とは考えにくいです」
「インフルエンザはもう治ってたんだよね?」
「ええ、昼間にも話しましたが、夜にテレビを見てましたから。当時、私の寝室にテレビはありませんでした」と葵は明言した。文江は、健也から葵のしつけを任されていたらしく、普段はほとんどテレビをつけようとはしなかった。だからこそ、あの夜に見た番組のことが強く印象に残っているのだ。
「あ、そっか。番組のことがあったんだ。……ねえ、確認なんだけど、お父さんが事故に遭ってから、葵ちゃんは病院に行ったんだよね。そのあとで自宅に戻ったの? 葵ちゃんの記憶が正しいのなら、二十四日の夜は家のベッドで寝てたことになるけど」
「それは……」葵はこめかみを押さえ、あの日のことを思い出そうとしたが、浮かんできたのは病院の暗い廊下だけだった。「よく、覚えていないんです」
「……文江さんにお願いして、葵を連れて帰ってもらったの。病院に来てからずっと、魂が抜けたみたいにぼんやりしてたから」と聡美がため息混じりに言った。「葬儀が終わって年が明けても、葵、ずっと塞ぎ込んでいたものね……。よほどショックだったんだと思う」
 聡美の呟きの残滓(ざんし)が消え、テーブルの上に、気詰まりな沈黙が落ちた。それを打ち破るように、「ちょっとまとめましょうか!」と雛子が明るく言った。
「葵ちゃんは、二十四日にしかやっていないテレビ番組を夜に見た。そのあと、お父さんが事故に遭った。で、病院から家に戻った。そして、夜中にお父さんからテディベアをもらった。――あ、お母さんが病院で目撃したテディベアのことは、いったん脇に置いておくことにしますね。葵ちゃん、記憶的にはそれで合ってる?」
「番組を見た日に、事故があった……」葵は目を閉じ、懸命に記憶を呼び起こそうとした。「……少し、違和感がある気がします。でも、何が間違っているのかは……」
「無理に思い出さない方がいいんじゃない。忘れてる部分があるのは仕方ないでしょう」と、聡美が助け船を出した。「いっそのこと、文江さんに聞いてみたら?」
「文江さんに……」
「そう。何年も会ってないし、たまには顔を見せに行ったらいいんじゃない」
「それは名案ですね、お母さん!」と雛子が素早く反応する。「一緒に行こうよ、葵ちゃん」
「……でも、急に訪ねたら、迷惑になるかも」
「大丈夫よ。きっと喜んでくれる。連絡はしておくから、行ってきなさい」
 聡美に強く言われては断れない。それに、他に手がかりはないのだ。葵はためらいを捨て、「……うん」と頷いた。
 

つづきは次回に!

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