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2016.04.27

『アルパカ探偵、街をゆく』試し読み・第1回

「アルパカ探偵の噂、知ってる?」
謎の存在が、女子高生の間で話題に――!?

喜多 喜久

「アルパカ探偵の噂、知ってる?」<br />謎の存在が、女子高生の間で話題に――!?

前回は、かわいい4コマ漫画を読んでいただきました!
4コマ漫画も楽しかったですが、物語のアルパカ探偵とは、やはりすこーし違います。
女子高生の間で噂になっている「アルパカ探偵」。
悩みを抱えて街を歩いていると、どこからともなくアルパカが現れて――。
アルパカ探偵、本当にいるのでしょうか?
さあ、第一話「アルパカ探偵、聖夜の霊を弔う」の冒頭を試し読み!

 

第一話  アルパカ探偵、聖夜の幽霊を弔う 

      1
「サンタクロースって、ホントにいると思う?」
 幼い頃、誰かからそう訊かれるたび、中萩葵は首をかしげざるを得なかった。「もしかしたら、サンタクロースはいるのではないか?」と疑問を抱くこと自体が理解できなかったのだ。
 小学校高学年になってから、葵は考えてみたことがある。果たして自分は、生まれてから一度でも、サンタクロースの実在を信じたことがあっただろうか、と。その答えはすぐに出た。そもそも「いる」と思ったことがない。
 家族、教師、テレビを始めとするメディア……大半の大人は、子供にサンタクロースの存在を信じさせようとする。十二月二十四日の夜には、赤い衣装に身を包み、豊かな白ひげを蓄えた恰幅の良い老人が、トナカイが牽く空飛ぶそりに乗って世界中の子供たちにプレゼントを届けて回るのだと、そう語って聞かせる。
 だが、それらの説明には多くの不可解な点がある。
 そりはどうやって空を飛ぶのか? 子供が欲しがっているプレゼントをどうやって突き止めるのか? プレゼントを買うお金はどうしているのか? どうやって家の中にこっそり入るのか? たった一人で世界中を回れるのか?
 幼い――おそらく、三歳か四歳頃の葵は、初めてサンタクロースの話を聞かされたその時に、それらの疑問にぶつかった。そして、自分なりに考えた結果、世間で言われているようなサンタクロースは、どうやっても存在し得ないという結論に達したのだった。
 こうして、サンタクロースを信じそこねた葵ではあったが、しかし一方で、彼女には別種の不可思議な存在と遭遇した経験があった。
 幽霊である。

     2
「ねえねえ、アルパカ探偵の噂、知ってる?」
 十二月十九日。金曜日の昼休み、けだるい空気が漂う教室で向かい合って弁当を食べている時に、ふいに鴨島雛子がそんなことを訊いてきた。
 葵は箸を置き、眼鏡のブリッジを軽く押し上げて、「今、なんて言ったんですか?」と尋ね返した。
「ア・ル・パ・カ・た・ん・て・い」雛子は一音一音区切りながら言い、高校一年生にしては幼い笑みを浮かべた。「って言ったの!」
「……アルパカって、テレビのCMに出ている、首が長い、もこもこした動物のことですよね」
「そうそう。まさにそれだよ」と雛子は嬉しそうにフォークを前後に振る。それに合わせて、頭の左右でまとめた髪が軽く揺れていた。
「アルパカと探偵がどう結び付くんですか?」
「なんかね、悩みを抱えて街を歩いていると、どこからともなくアルパカが現れて、さらっと謎を解いてくれるんだって。だから、アルパカ探偵。あたしたちが住んでる比久奈市内で、目撃が相次いでるらしいよ」
 葵は困惑した。彼女はどこまで本気で言っているのだろう。空想にもほどがあると笑い飛ばすべきかとも思ったが、「……アルパカは喋れないですよね」と、葵は素朴かつ根本的な疑問を口にした。
「あれ? そうだっけ。CMでは喋ってた気がしたけど」
「演出ではないでしょうか」と葵は静かに言った。
「あ、そっか。じゃあ、アルパカ探偵っていないのかなあ」
「常識的に考えればそうでしょう」
 葵がそう答えると、雛子は「……なんか、リアクションが薄いと思うんですけど」と口を尖らせた。「そういうのを期待してたんじゃないの。もっとあたしの話に乗ってきてほしかったの。もしくはキツめのツッコミを入れてほしかったの! アルパカが喋れないことくらい知ってるし!」
「え、あの……」
「アントニオ猪木は言いました。『馬鹿になれ』と。葵ちゃんもたまには思いっきり馬鹿になって、殻を破ってあたしと打ち解けてみようよ!」
「はあ、馬鹿に……」葵は首をかしげた。「分かりました。努力してみます」
「それーっ!」雛子は葵を指差しながら、いきなり立ち上がった。「なんなの、『してみます』って。あたしたちが知り合ってから、もう八カ月以上経ってるの! なのにどうして未だに敬語なのーっ!」
「すみません、昔からの癖なんです。だから気にしないでください」
「……冷たい」雛子はため息をついて、力なく椅子に腰を落とした。「冷たいよ、葵ちゃん。まるでドライアイスだよ、液体窒素だよ、絶対零度だよ。……私はこんなに、葵ちゃんのことが好きなのに」
「え、はあ、それはどうも……」
 雛子から好きと言われるのはこれが初めてではない。むしろ、彼女の常套句と言ってもよかった。高校に入学した直後から、それこそ親鳥に付いて歩く雛のように、雛子は葵にべたべたとまとわりつき、「好きだ」「愛している」と口にするのである。
 内気で友人を作るのが苦手だった葵は、誰かとそういう親しい付き合い方をしたことは一度もなかった。それゆえ、今でも雛子のテンションに付いていけずにいるが、いつも明るく、活動的な彼女のことを好ましく思っていた。だからこそ、こうして教室で一つの机を挟んで、毎日昼食を共にしているのである。
 雛子はプチトマトをフォークで突き刺し、ぽいと口の中に放り込んだ。
「分かった。あたしからばっかり話を振るからうまくいかないんだ。ということで、今度は葵ちゃんの番。葵ちゃんも何か面白くて不思議な話、して」
「不思議な……」
 ふと、微かな頭痛と共に、あるエピソードが思い浮かんできた。今から九年前の十二月二十四日――クリスマスイブの出来事だった。
 ずっと心の片隅に引っ掛かってはいたが、誰かの前でその話をする機会はなかった。笑われるかもしれないと思うと、軽々に話す気にはなれなかったからだ。
 だが、雛子になら、初めての友達になら、喋ってみてもいいのではないか。少なくとも、彼女ならちゃんと耳を傾けてくれるはずだ。
 葵は背筋を伸ばし、深呼吸をしてから、「あの、この話は、私が実際に体験したことなんです」と切り出した。
「ほうほう、聞き手の興味を引き出す、いい入り方だよ」
「ありがとうございます。ですが、その時の私は小学一年生とまだ幼く、認識において何らかの齟齬があった可能性が否定できません。そのことを念頭に置いて、話を聞いてもらえますか」
「前置きが堅すぎるけど、いいでしょう、聞きましょう。さあ、どんとこい!」と雛子は腕を組んだ。
 葵は記憶の糸を慎重にたどるように、ゆっくりと話し始めた。
「――あれは、クリスマスイブのことでした。その日の夜、私は幽霊を見た……のかもしれません」
 

――次回に続きます!

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