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2016.04.28

千葉県・成田市

全国穴掘り大会に出場した話

コラアゲンはいごうまん

全国穴掘り大会に出場した話

「それには、絶対触れるな……その場からすぐに離れて、どんなことがあっても人を近付けるな。今すぐに警察に連絡しろ!」

 電話越しに聞こえる、切羽詰った自衛官の声。今回、僕はひょんなことから、命の縮む思いをすることになるのです――。

 ある日、僕が自主的に見つけてきたネタを、喰始社長に披露したときのことです。いつものごとく永遠とも思えるダメ出しの後、半泣き状態の僕を見かねた喰社長、助け舟つもりで新しいお題を出してくれました。

「優勝してきなさい……どんなことでもいいから」

 どんなことでもいい? 今まで、数々のハードな指令を出し続けていた喰さんも、流石にネタが尽きたのでしょうか。

 でも、社長の口から発せられたその軽い一言が、僕達にはとてつもない試練となるのです。この日から僕は、何かの大会で優勝するその日まで、全国を駆け回ることになりました。

 奈良の鹿煎餅飛ばし大会。

 岩手の卓袱台返し世界大会。

 青森のスコップ三味線大会。

 山形のサクランボの種飛ばし大会。

 広島の下駄飛ばし大会。

 ――これらの大会についても、いずれ話す機会もあるかもしれませんが、今回は、千葉の成田夢牧場で毎年開催される「穴掘り世界大会」に参加した時のお話をしたいと思います。

 穴掘り世界大会のルールは単純明快。制限時間は30分で、最大6人編成。多くの参加者は5人ひと組で参加するのですが、その間、ただただ人力だけを頼みに穴を掘るだけ。最終的に一番深く穴を掘ったチームが優勝です。そして、表彰式が終わったら、掘った穴を自分達で埋めて帰ります。

 世界大会といっても、ただ穴を掘り、そして後始末をして帰る、そんな大会に集まる物好きがそれほどいるとは思いませんでしたが――なんと、今回259チームが全国から集まって来る知る人ぞ知る有名な大会だったのです。しかも、集まったチームのほとんどが、水道工事、ガス工事、電気工事などに従事している、穴掘りのスペシャリストの方々で、いうなればプロフェショナル。

 この大会では、毎年3メートルを越える記録が続出するそうです。3メートルということは、底に降りたら、一人では上がれません。たった30分で3メートルも掘れるものなのか?

 過去12回を数える大会での大会記録、すなわち世界記録は、3メートル85センチ!

 その時、地面からは地下水が湧き出たそうです。

 ここまできたら、穴掘り大会ではなく、もはや井戸掘り大会です。

 しかし、社長からの指令は、なんでもいいから優勝しなさい、というもの。チーム編成には細心の注意を払って仲間を選びました。

「チーム・コラアゲン」を紹介します。

 

 

 キャプテンは僕、コラアゲンはいごうまん。構成員はワハハ本舗の若手から――現在は解散してしまいましたが――ラジー・クイーンの三人。

 その中の二人、マンボウ君とキッド君はなんと、芸人をしながらリングに上がっている、西口プロレスの現役レスラーでもあり、体力は折り紙つきです。

 しかし、もう一人の男に一抹の不安がありました。それは……チェリー吉武。 震災のボランティアの話にも登場しましたが、体力はあるのですが、頭が残念な男でして……何をしでかすか未知数なのが悩みの種でした。

 しかし、ラジー・クイーンから吉武だけをを仲間外れにするのもさすがにかわいそうです。そう思って声をかけたのですが、その不安は見事に的中することになります。

 まずは、前年大会の優勝チームの師岡さんに、穴掘りのコツを教えてもらうことにしました。師岡さんいわく、

「基本は、掘り出す土砂の量を少なくすること。つまり、太く掘らずに、細く掘るのが効率的ですね」

 つまり、何人も入れる大きな穴ではなく、ひとりがやっと作業できるギリギリくらい、直径1メートルの穴を掘る。そして掘り手は一人だけにして、体力の限界まで全力で掘り続けるのです。しかし、どんな屈強な男でも、2分と持たない重労働なのだそうです。

 そこで、交代要員として他に二人を配置、穴掘りの実行部隊は3人で組みます。残りの二人はバケツを使って、掘り起こした土を地上に引っ張り上げる、汲みだし部隊にチームを編成するのだそうです。

 この時、すでに大会は一ヶ月後に迫っていました。頭で考えるより体に叩き込まなければ何もできない連中ばかりです。

 しかし、考えてみて下さい。2メートルも3メートルも穴が掘れる場所なんて、都内にはなかなかないんです。

 勝手に公園を掘るわけにはいきません。仮に、人気のない場所が見つかったとしても、僕を含めたWAHAHAの、それもこのメンツですから、死体か何かを埋めていると通報されるのが落ちです。

「どうしよう……」

 困っていたら、流石は前年優勝者の師岡さんです。余裕からか、ライバルでもある僕達を、ある場所に呼び出しました。そこは、千葉県の四街道にある、丸山さんという方の畑で、ここならばいくらでも穴を掘っていいというのです。

 丸山さんの畑に通い始めて、3回目のこと。

 いつものようにスコップで穴掘りの練習に励んでいると、ガツンという何か固いモノに当たる感触がありました。掘りだしてみると、現れたのは泥にまみれた丸い石のようなもの。よく見ると、泥が取れている部分に、何やら文字が書いてあります。

「なんやこれ? 石じゃないぞ……鉄か?」

 こびりついた泥と錆を削り落とすと、文字の前半は掠れて読めないのですが、ハッキリと「**式」と言う文字が浮かび上がってきたのです。

「**式? まさかこれ、戦時中の……」

 そうなんです。僕、70年前の不発弾を掘り出してしまったんです。

「えッ? えッ?」

 僕は不発弾を抱えながら右往左往するばかりで、完全に思考がストップしてしまいました。

 その時、ハッ! と、頭に浮かんだのが、以前、取材で知り合った北海道・留萌駐屯地の自衛官の越前さんの顔でした。不発弾をチェリー吉武に預け、慌てて携帯で電話をかけます。

 

「おう、コラアゲン久しぶりぃ、今どんな事調べてるの?」

「い、今、穴掘り世界大会の練習で……」

「穴掘り? 面白そうだな、コツ教えてやろうか?」

「ぜひ――そ、そんな事より、穴掘り大会の練習で地面を掘ってたら、錆びてボロボロの金属の塊が出てきたんですけど、そこに『**式』って書いてあるんですけど……」

 それまで穏やかな口調で話していた越前さん、口調が一変しました。

「場所はどこだッ!」

「四街道です……千葉の」

「戦時中、演習場があったところだな……いいか、絶対そいつにふれるな! その場から離れて、どんなことがあっても人を近付けるなッ! そして今すぐに警察に連絡しろ!」

 自衛官の切羽詰まった声を聞いて、もうこっちもパニック寸前です。

 その場にいたマンボウ君、キッド君に声を掛け、慌ててその場を離れようとしたその時――もう一人、チェリー吉武の姿が見えないことに気づきました。

「アイツ、どこへ行きやがった!」

 すると、背後の方から、大きな鈍い音が聞こえてきました。

 ガン、ガン、ガンッ!

 振り向くと、我が目を疑う光景が――。

 チェリー吉武が、こびりついた泥を落とそうとして、手に持った不発弾を、壁にガンガン叩きつけているんです……。

 ゴンッ、ゴゴン、ゴンッ!

「爆発するッ! 吉武ッ! 爆発するーッ!」

「お前が手に持ってるのは爆弾やッ!」

 それを聞いた吉武君、急に恐怖に襲われたんでしょう。なんと、手に持った不発弾を丸山さんの庭に放り投げたのです。

 いつでも好きな時に掘りに来てくださいね、と笑顔で迎え入れてくれた丸山さん一家を皆殺しにする気か? 「恩を仇で返す」とはまさにこのことです。

 やがて、サイレンの音が聞こえてきて、千葉県警のパトカーが到着しました。

「穴掘り大会のための練習で――」

「は、畑の下から不発弾を掘り起こしてまいました」

 しどろもどろで事情を説明すると、さすがの警察官も驚きの顔を見せました。

「えーっ! 穴掘り世界大会なんてのがあるんですか?」

 いや、そっちかい! 不発弾そっちのけで、穴掘り大会に食いついてくるんです……。

「いや、この不発弾、大丈夫なんですか?」

「見たところ、どうやら信管が抜けているようですから大丈夫ですよ」

 なんだ、そうだったのか……。しかし、チェリー吉武を参加させたことへの一抹の不安が、やっぱり的中してしまったというわけでした。

 ちなみに、この70年前の落とし物は、後で警察から自衛隊へと引き取られて行ったそうです。

 

 

 僕の不運と、チェリー吉武の残念な頭が招いたアクシデントを乗り越え、やっと「穴掘り世界大会」の当日を迎えました。会場には、縦横4mのロープで仕切られた区画並んでいます。

 本番に臨む僕たちに、前年度チャンピオンの師岡さんが、最後のアドバイスをくれました。

「コラアゲン君、君たちにいろいろ教えて来たけれども、この大会で一番大切なのは……」

「は、はい!」

「――運だ」

 なんじゃ、そら! しかし、詳しく聞くと、こういうことなんです。会場内のどこを掘るかは、当日のくじ引きで決まるのですが、参加者数である259か所に区切られたブロックのほとんどは、関東ローム層の柔らかい土壌なんだそうです。しかし、その中にひとつだけ――

「粘土層の場所があるんだ。そこは俺たちプロでも歯が立たない、魔の区画だ。特別に、教えておいてやる。番号は21。いいか、21番だけは絶対引くな。引いたらそこでこの大会は終わる!」

 いやな予感しかしません……ここまで、不幸を招く僕の生き様をご覧いただいてきた読者の方々ならおわかりになるでしょう。

 チーム・コラアゲン。本来なら年長者ですし、リーダーの僕が引くべき所でしようが、九分九厘、21番を引き当てる自信があります……。

 ここはジャンケンで抽選者を決めようと、三人の仲間に申し出ました。

 勝ったのはキッド君。しかし、抽選に向かう彼の背中を見て、僕はふと思いました。

 いや待てよ。たしかにこの流れで行けば、ジャンケンで勝ったキッド君がくじを引くのが筋だ。しかし不幸の塊である僕のチームが、正攻法を取っていいのだろうか……。

 裏をかいて逆だ! 逆を選択しよう!

 そう思い、ジャンケンで一番最初に負けたマンボウ君に、くじを引いてもらうことにしたのです。

「負けた僕が引くなんて、縁起悪くないですか?」

 マンボウ君、明らかに責任を負うのを嫌がっています。しかし、嫌がるマンボウ君をなんとか説き伏せ、抽選に行かせました。

 帰ってきたマンボウ君、見事、21番のくじを引いて戻ってきました。

 これ、残念ながら、本当の話なんです……。259分の1の確率を見事に引き当てる、ワハハ本舗のくじ運って、何なんや!

「だから、僕は嫌だと言ったんだ!」

 涙目で、逆ギレするマンボウ君。この時点で一ヶ月間の努力が泡と消えました。

「ハハハッ、マンボウさん、全員にジュース一本おごって下さいよ」

 ジュース一本ではすまない事態に陥っているのだよ、吉武君……。結局、全員炎となって粘土層に挑みました。

 全体重を掛けてスコップを地面に突き立てても、穴掘りのプロですら匙を投げる粘土層は、お笑い芸人の体力をみるみる奪っていきます。掛け声はいつの間にか呻き声に変わっていました。

 それでも穴はいっこうに深くなりません。回りを見回せば、すでにすっぽり穴の中に全身を沈めて姿が見えない強豪チームもあります。

 

 

 制限時間の30分が目の前に迫っています。穴の外には、ひとりっきりで3人が掘り出した粘土を引き上げてくれたマンボウ君。穴に飛び込み、代わる代わる体力の限界まで掘り続けたのは、僕と、吉武、キッドの三人。制限時間いっぱい、最後のトリを務めるのは順番から言うとキッド君です。

 プロレス仕込みの肉体を持つ彼に、ラストスパートを託そうとすると――。

「最後は兄さん、行って下さい!」

 僕に花を持たせようとする彼の顔には、限界を超えた疲労の色がくっきり出ていました……。

 それでは、チーム・コラアゲンの成績を発表します……結果は、259チーム中89位!

 優勝どころか、逆にネタとしても微妙な順位でした……。優勝への飽くなき挑戦は、続けるしかないようです。喰社長! あんたのせいや!

 

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