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2016.05.07

家族とは何か、という思いがゆっくりと立ち上がってくる。(『咲ク・ララ・ファミリア』越智月子)

北上 次郎

家族とは何か、という思いがゆっくりと立ち上がってくる。(『咲ク・ララ・ファミリア』越智月子)

『咲ク・ララ・ファミリア』越智月子
幻冬舎刊/1500円(税別)

 

 夫と喧嘩して実家に戻ってきた長女橙子と、三十六歳で独身の次女柊子が、互いにぷっつんとキレてぶつかる場面が物語の中盤以降に出てくる。

「そこはうちの客間よ。出戻り女の居座る場所じゃないっ」

「言っとくけど、あたし、出戻ってなんかないわ」

 夫のスマホをたまたま覗いたら、誕生日プレゼントを貰った若い娘からお礼のメールが入っていて、そのプレゼントがなんと5万超え。自分には3000円の商品券からくれないのに、この差は何だと、我慢出来ずに婚家を飛び出してきた橙子は(姑は意地悪で、これも面白くないし)、虫の居所がよろしくない。対する柊子も、長女がとっとと嫁に行ったので母親代わりをずっとつとめてきたことに不満がある。それを、嫁に行けないあんたには他人と家族になることがどれほど大変なのかわかんない、と言われると腹がたつ。

 そこに止めに入ったのが父親の再婚相手だから大変だ。火の粉はそちらに飛んでいく。

「悪いけど、これはあたしたち、姉妹の問題なの。邪魔しないでくれる? 赤の他人のあなたにとやかく言われたかありません」

「そうよ、他人のくせして。あたしたちの問題に口出ししないで。もとはといえば、あなたがあたしの部屋を勝手に使うから、あたしがここで寝起きしなきゃいけなくなったんじゃない」

 この家族は基本的に仲がよろしくないが、そのピークといっていい場面である。しかし、ポイントはそのあとだ。しばらくしてから、「さっきは悪かったわ。あなたに当たってばかりでごめんなさい」と謝る橙子に、父の再婚相手は次のように言う。

「本音でぶつかりあえてこそ家族じゃないですか。そのうち、こっちもプツンとキレることがあるかもしれない。そのときは我慢せずに言いたいことを全部言うつもりです」

 言うだけ言ってガス抜きしたら、またやり直せる。そうやって少しずつ家族になっていく、と突然森戸家にやってきた父の再婚相手は言うのである。とてもいい場面で、読み終えてもこのシーンが残り続ける。

 四姉妹の仲が悪いことには、森戸家の特殊な事情も関係している。十四年前に母の葉子が若い男と出奔したのだ。そのとき長女橙子は二十四歳。次女の柊子は社会人になったばかりの二十二歳。三女の桐子が高校三年、四女楓子は高校一年だった。

 それからすぐに橙子は結婚して家を出ていくが、そのことについて、次女柊子は次のように考えている。

「ユズ姉はさっさと家を出た。四人姉妹の長女のくせに責任感は一グラムだって持ち合わせていない。昔から要領だけはずば抜けてよく、面倒くさいことはすべて次女のあたしに押しつけてきた。あれも絶対に計画的デキちゃった婚に違いない」

 いちばんの犠牲は自分だ、という思いが柊子にはあるのだ。母の出奔は家族全員にショックを与えたのだが、そのとらえかたはそれぞれ微妙に異なっている。三女の桐子がショックを受けたのは、母の家出そのものではなく、道行の相手が桐子の家庭教師の青年だったからである。彼女が仄かな思慕を寄せていた相手であった。それ以来、桐子は「半ひきこもり」の生活を続けている。十四年たった今でも人と会うのが苦手だが、母とは時々会っている。しかしそれは家族に秘密だ。そうか、桐子が妹の楓子を面白く思っていないことも書いておいたほうがいい。彼女は「愛嬌と上目遣いだけで世の中を渡ってきた楓子が同じ中学に入学してきたときも悲惨だった」と述懐している。性格がまったく異なるのだ。

 しかし、三女の桐子が思うほど、四女の楓子が考えもなく生きているわけではないことは、楓子が語り手となる第四章で明らかになる。楓子は母の家出を機会にコギャルデビューした過去を持つが、いまでは女性誌編集部でアルバイト。さっさと家を出て自活しているが、不安定な仕事なので将来の保証はなく、恋人はバツイチで結婚する気もないのでいざとなったら頼りにならず、揺れる気持ちを持て余している。楓子もまた、けっして幸せではない。

 という森戸家の四姉妹が、母の出奔から十四年後のいま、父の突然の再婚宣言にびっくりするところから本書が始まっていく。その再婚相手がどういう人であるかはここに書かないでおく。冒頭に引いた挿話に見られるように、その人もまた、家族のつながりを求めている人であると書くにとどめておく。

 四姉妹の生活と意見がとてもリアルに描かれるのがいいし、物語が軽妙に展開するのもいい。賑やかにぶつかる彼らの姿の向こうから、家族とは何か、という思いがゆっくりと立ち上がってくる。

『ポンツーン』2016年5月号より

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