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2016.04.06

『神様の子供』試し読み 第5回

「特殊清掃人」は、変死体の掃除のときに、恐ろしき現代日本の暗部を覗いてしまった!

山田 悠介

「特殊清掃人」は、変死体の掃除のときに、恐ろしき現代日本の暗部を覗いてしまった!
山田悠介『神様のコドモ

前回に引き続き、鳥肌ものの恐怖の物語です。
「特殊清掃人」は、変死体や腐乱死体を掃除するのが仕事です。
清掃人が、ある変死体を掃除しているときに、国の暗部ともいえる大きな秘密を見つけてしまいます。
なぜこの男が殺されたのか――。その理由がわかったときに、ただただ、震えます!
もしかしたら、私たちのすぐ隣でも起きているかも知れないですよ!?
 

*  *  *

特殊清掃人

  扉を開けた瞬間、強烈な異臭が嗅覚を刺激した。ゴーグルとマスクをつけていても、である。

 この臭いだけはどうしても慣れない。いやむしろ慣れてはいけない。慣れてしまったとき、それは自分の精神がおかしくなったときだと黒田守男は思っている。

 黒田は特殊清掃人である。

 特殊清掃業とは、変死体や腐乱死体があった場所の清掃、消臭、消毒、害虫駆除を主に行う。

 また、事故死や事件死、自殺死などによって葬儀社が処理しかねるほど遺体の損壊が激しい場合、人体の外見回復処置を行うこともある。

 黒田と黒田の部下である高崎は早速清掃機材や消毒液等を部屋に運ぶ。

 現場は、港区の高層マンションの最上階である。

 死亡したのは三十六歳の男性で、毒薬を飲んで自殺した。

 遺体の存在を住人等に知らせたのは腐敗臭と大量の虫である。

 まさに虫の知らせというやつだ。

 今も部屋中虫が舞っている。

 遺体が発見されたリビングには大量のウジ虫が湧いていた。

 ラグにはくっきり人の跡。体液である。

 恐らくラグを突き抜け、フローリング、下手したらその下のコンクリートにまで染み込んでいる可能性がある。

 見慣れた光景だ。

 しかし黒田はいくつかの違和感を抱いていた。

 まず現場である。今いるのは港区の高層マンションの最上階だ。

 自殺した三十六歳の男性は証券会社に勤めるエリートだったらしい。そんな男がなぜ自殺したのだろうか? 生活に困っていたとはとても思えない。しかし裕福な暮らしの一方で、証券マンは日々のプレッシャー、ストレスが尋常ではないと聞いたことがある。男は仕事で悩んでいたのだろうか? それは定かではない。

 二つ目に、部屋の中だ。どこを見ても綺麗に整理整頓してある。本当にここで生活していたのかと思うくらいに。

 黒田は特殊清掃業に携わってちょうど二十年が経つが、自殺の現場は大体荒れている。ゴミ屋敷とまでは言わないが、それに近い状態が多い。つまり精神状態が酷く追い詰められているというわけだ。

 黒田が部屋を見る限りでは、男が死を選ぶほど追い詰められていた状態であったとはとても思えないのだ。

 男の死について気になるが、黒田は早速作業に取りかかろうと思う。

 が、今までいたはずの高崎の姿がない。

 またか、と黒田は思った。

 目を離すとすぐにいなくなる。

 高崎は『物色癖』がある。無論盗みはしないが、面白い物がないか探しているのだ。

 信用にかかわるから止めろと口を酸っぱくして言っているのに……。

「黒田さあん」

 高崎が廊下を走ってやってきた。

「すんごい物が見つかりましたよ!」

「おまえ、いい加減にしろ。何度言えば」

「いやいやこれはマジすごいっすよ多分」

 高崎は一枚の券を手に持っている。

 黒田は馬券か舟券か、その類だと思った。

「これ、馬券だと思ったっしょ?」

「馬券だろ?」

「違うんすよ。見てくださいよ、ホレ!」

 やっぱりただの馬券じゃないか、と黒田は思った。

 が、すぐにおかしなことに気がついた。

『東京コレットビル・第10レース・高松杯』

 コレットビル、とは東京駅から程近い高層ビルだ。

 第10レース?

 高松杯?

『単勝1番、横山太陽』

 明らかに馬の名前ではない。

 黒田はその隣に印字されている数字に目を見張った。

『1000000000円』

「一億? いや十億かっ!」

「ね? これやばいっしょ?」

「なんなんだ、これ?」

「裏の世界ってやつじゃないすかねえ! ほら漫画とかでよくあるじゃないですか。人間を賭けの対象にするってやつ」

 黒田はそんな漫画は知らない。

「賭けの対象だと? 一体何をやらせるんだ」

「それは知りませんよ。でも額が額じゃないですか。もしかしたら」

「もしかしたら?」

「殺し合い、とかかも?」

 黒田の背中にゾクリと冷たいものが走った。

「ば、馬鹿言え。そんなはず」

「いやいやマジあり得ますよ。それにしても高松杯の高松ってなんでしょうかね」

 もし本当に裏の世界があって、人間が賭けの対象にされているのだとしたら……。

 そう考えると黒田は怖くなってきた。

 高松杯。

 まさか高松昭夫のことではないだろうな。

 高松昭夫とは現職総理大臣である。

 黒田は段々そんな気がしてきた。

 男は裏の世界に足を踏み入れ、一世一代の大勝負に出た。

 しかし十億もの大金を失い、将来に絶望して死んだ……?

 いや、殺された……?

 黒田は防護服のファスナーを下ろし、券を胸のポケットにしまった。

「どうするんすか黒田さん、それ」

「わからない」

 誤魔化したつもりはない。

 黒田には本当に分からない。

 この事実を公にするべきか。

 その前に依頼主である遺族に見せるべきだが、本当に遺族に見せてしまってもいいのだろうか。

 黒田には答えが出せない。

 まずは清掃作業だ。

 作業中、もしかしたら聞こえてくるかもしれない。

 死んだ男の心の叫びが。

 

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