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2016.04.04

『神様の子供』試し読み 第4回

「見せ物小屋」。それは、
残酷で下劣な人間たちの欲望の形。

山田 悠介

「見せ物小屋」。それは、<br />残酷で下劣な人間たちの欲望の形。
山田悠介『神様のコドモ

「山田悠介作品は、怖いから好き!」という人は多いでしょう。そこで、今回から2回連続で、鳥肌モノの恐怖と毒々しさがある物語を、紹介します。
ひとつめの「剣と盾」は、地方の小さな神社で開かれている縁日が舞台です。
寂れた境内で、たった一か所、賑わいを見せているのが「見せ物小屋」。
檻の中に閉じ込められているのは、言葉にするのもはばかられる、異様な姿の青年――。
神様の子は、これを許すのでしょうか?
 

*  *  *

剣と盾

  鳥取県大沼町は県内の西部に位置するごくごく小さな町である。

 この日、大沼町の寒羅神社では季節外れの縁日が開かれていた。

 退屈極まりない僕は、どれどれと天から様子を覗いてみる。僕は人混みは大嫌いだが縁日は好きだ。

 神様が留守じゃなければ人間スーツを着て大沼町に降り立っていただろう。

 縁日と言えばやっぱり屋台だ。

 寒羅神社の境内にも無論屋台が出ている。

 しかし僕が想像している縁日の雰囲気とは全然違う。

 どこの屋台も閑散としているのだ。

 たこ焼きやお好み焼きは冷め放題。金魚なんて泳ぐのを止めている。

 しかしある箇所だけは大賑わいを見せている。

 境内の隅にいくつも並べられた『見せ物小屋』だ。

 小屋の中には特殊な芸を持つ者や、奇形の子供、それに珍獣等がおり、見物人に芸やその姿を披露している。

 その中に唯一格子のついた小屋がある。

 僕は目を見張った。

 猛獣が閉じ込められているのかと思いきや、中にいるのは人であった。

 二十歳そこそこの青年だ。僕はあえて正確な年齢を知ろうとはしない。名前についてもそうである。そんなのはどうでもよかった。

 彼の姿に愕然として。

 彼には掌がない。右も左も、である。

 代わりに、右には剣、左には盾がついている。

 そう、ついているという表現しか思い浮かばない。握っているのではないのだから。

 案内人は、どうやら彼は死神に呪いをかけられたことによって二つの掌が剣と盾になってしまったと説明している。

 なあにが死神だ。

 実際、死神はこの世の中に存在するが、人間には死神の存在は見えないし、そもそも案内人の話はでたらめだ。

 僕は人間の未来は分からないが、過去なら分かる。

 この男の過去は、あまりに悲惨すぎた。彼が不憫すぎて、僕は脳裏に浮かぶ映像を遮断した。

 全く人間という生き物は狂気に満ちている。

 金のためなら何でもできる生き物なのだなと僕は改めて知った。

 僕は小屋の中に閉じ込められている剣と盾の青年の心の内を知りたい。

 が、神様の子の僕でさえ読み取れなかった。いや読み取れないと言うよりも彼の心は無であった。表情と同様に。

 壁際に立ち、じっと遠くの方を見つめている。やはり無である。何の感情もない。

 子供たちは彼の姿に怯えている。泣き出す子もいる。

 逆に大人たちは彼の姿を面白がっている。口では可哀想、と言ってはいるが……。

 十時を少し回った頃、この日の縁日は終了し、案内人たちが小屋をトラックの荷台に運んでいく。

 剣と盾の青年だけは依然小屋の中である。

 どうやらずっと『檻』の中に閉じ込められているらしい。何年もずっと。

 寝るときも、食べるときも、排泄するときも檻の中……。

 僕はふと、ある興味が湧いてきた。

 彼を自由の世界に放ったらどうなるのだろうと。

 剣と盾。

 対照的な武具である。

 檻の中に閉じ込められている彼の心は無である。つまり善も悪もない。

 彼が悪魔になるか、それとも救世主になるか、それは人間次第である。

 檻を開けるのは簡単だ。

 何せ僕は神様の子なのだから。

 明日の朝、案内人たちは青ざめることになるだろう。

 

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