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2016.04.14

第9回 セ・パ日本一監督 広岡達朗(後編)

指導者は、ダメだと思ったら終わり。責任をとれなくなっても終わり

広岡 達朗

指導者は、ダメだと思ったら終わり。責任をとれなくなっても終わり<br />

 名監督の堂々たる話しぶりに圧倒されてしまった前回。
 教えた結果をすぐに求めてはいけない、ということは肝に銘じるとして、結局、教える側の“挫折”とは何なのでしょうか? 結果に結びつけられないこと? 反対に、育てることを早々に諦めることでしょうか? しかし、ある程度、教えてダメなら、「見込みがない」という見極めをするのも、指導者の能力なのでは? 直球の指導法も含めて伺った後半戦です。(構成:幻冬舎plus編集部  写真:南浦護)


◆今は教える側も教え方を知らない

—————基本的なことを繰り返し教えるということは、教える側も忍耐力を要すると思います。こうした地道なやり方をする際、広岡さんは何か工夫されていたことはありますか。

広岡 いまはなんでも「勝てばいいでしょ」「儲ければいいでしょ」になって、人は育てれば育つという大事なことを、教える側が知りませんね。本当に時代は変わりました。
 まず指導がうまくいかないのは、“頭だけ”でやろうとするからです。基本を教えるというのは、頭で覚えさせることではない。汗とドロにまみれて体に覚え込ませること、これが大事です。
 私が広島やヤクルトや西武で教えてきたのは、高度なファインプレーではなく、ひたすら構えや守りの基本プレーだった。天才集団であるプロ野球の選手に、「なぜこうしなければならないのか」「どうすればうまくなれるか」を理解できるまで説明し、その後、根気よく練習させました。

————何度教えてもできない場合はどうすればいいでしょうか……。

広岡 指導というのは継続することですよ。根気よく教えて、選手の体に覚え込ませること。それはかなり以前、ヤクルトのコーチに就任したとき、ショートの水谷新太郎を教えて分かった。
 私が将来の遊撃手候補にしようと力を入れていた水谷は、足の速い選手だったが、内野手としては守るとき両肩に力が入ってどうにもならなかった。「ああしてみろ、こうしてみろ、リラックスしろ」といくらいってもできない。
そこで私は「よし、じゃあ構えたときは思いっきり緊張しろ。最高に緊張した次はリラックスしかないんだから、一度最高に緊張してからフッと力を抜いてみろ。リラックスできるから」と逆療法もやってみた。
 コーチ時代に2年間教えて、代理監督になってからは、コーチの武上(四郎)と丸山(完二)に引き継いだが、2人とも「水谷は足が速いだけで、ろくな奴じゃないですよ」と口をそろえていっていた。確かに、成長の遅い水谷には手をやいたが、一つだけ見込みがあった。「うまくなりたい」という気持ちで懸命に向かってきたことです。
 だから私は2人のコーチに「こいつはダメだ、一人前にできないと思ったら、教える気がせんだろう? きっとできるんだと思って教えてやってくれ」といったんです。
 それまでほとんど試合に出たことがなかった水谷が、正遊撃手として活躍するようになったのは、教えはじめて3年目のことでした。今彼はヤクルトの2軍コーチでがんばっている。

————根気づよさは大事なんですね。あと「できるようになる」と思って教えるということ。

広岡 選手にやる気があって指導者に根気があったら、選手は必ず上達する。人を教えるということはそういうことです。いまの指導者に対して、それを教える人がいなくなってしまった。
 あと、教えるときに、ダメダメばっかりいっていてはダメですよ。ピッチャーに「この球ダメ、もっといい球、いい球」とだけいってても意味がない。「いい球だ、いいなあ、いいぞ。この球が打たれたら、こうしてみぃ」というふうに、いい所は褒めて自信を持たせ、悪い時は、どうすればよくなるかを具体的に教えていけば、どんどん勝てるようになる。


◆理論を聞きすぎてダメになっていく若い選手たち

広岡 それと、今の指導者たちは、正しいことを分解して細かくいいすぎる。現役の選手はみんな「うまくなろう、うまくなろう」とものすごく努力しているし、苦労しているんですよ。でも一生懸命になりすぎて、人の理論を聞きすぎるからダメになる。

————教える側が、教えすぎているということですか?

広岡 そうです。巨人のキャンプで臨時コーチを務めたOBの松井(秀喜)は「打席に立つときは、重心をキャッチャー寄りに8:2にして球をとらえろ」と教えていた。

————それでは打てない?

広岡 いや要するに、「8:2」でも「6:4」でもいいんです。重心が体の中心、臍下(せいか:へその下)の一点にあって、そこをグッと回せば打てる。それを理論的に聞いて「ああ、わかった」と選手はいう。では、それをすぐできるかというとできない。球はパッと一瞬でくるんです。松井の理論は間違いではないとしても、そんなことを頭で考えていたら球がきてしまう。だから、理論だけでなくて、「反応する体をつくる、そのために練習がある」と教えればいいんです。

————体に覚え込ませるために、練習しなければならないと、そこまで教える。

広岡 「おまえはいま頭でわかっているかもしれないけど、体がひとつもわかっていない」といえばいいんだ。
 松井はそれで打っていたんだから間違いではない。でもそのやり方をそのまま分解して言えば伝わる、丁寧に言えば正解、と思っているところが間違いです。教えるほうは分解しすぎるから間違うし、教わったほうはできなくなる。「それをやるために練習というのはあるんだよ」とまでいえば正解だけれど、それを言わない。そのうち「あれだけ教えとるのに、こいつはできん」となってしまう。

————それで選手はあっという間にクビになる。

広岡 いまの指導者は、指導もしない、責任もとらない、それでクビを切るときは平気で切るんだ。


◆教えることに、疲れや虚しさを感じたら

————広岡さんはテレビで試合を拝見していたときは、静かな監督のように見えていましたが、怒ることはあったんですか。

広岡 「俺の言うとおりせい」といって、選手がいう通りにしなかったら怒りますよ。選手を個別に部屋に呼んで、ここが違うとかあそこが違うとか、シャドーピッチングをせい、とか。そんなことは新聞にも出ませんが、そうしないと責任持たんぞ、ということです。選手から個別に直接聞くとわかることもあります。

—————たとえば?

広岡 ヤクルトが日本一になったときのエースの松岡(弘)を呼んで聞いたことがある。「なんでおまえ、自分のチームが5点、6点とったら、すぐ相手チームに4点、5点やるんだ?」と。そうしたら彼は正直に「点をとってもらうと、これから自分が点をとられてしまったらと思うと、かえってビビるんです」というんです。確かに、1対0とかの僅差だと松岡はそのままいけるんですよ。

—————繊細な性格だということが、直接話してみてわかる。

広岡 人がいいんだよな。

 

◆必要なのは選手のやる気とコーチの根気

—————頭ごなしに怒っても、こちらが疲れるだけで、なんの生産性もないことはありますよね。

広岡 とにかく選手はやる気、コーチは根気が大事です。
 あと、さっきの「挫折こそチャンス」というのは教えられる側にもいえることですよ。ボロクソに言う上司がそばにいたら、俺は幸せなんだと思えばいいんです(笑)。本当ですよ。「いい子、いい子」とばっかりいう上司はダメだと思ったほうがいい。そんな上司は、ただ自分の責任を回避しているだけだ。上司は責任があるんだから人にものが言えるのだから。
「挫折こそチャンス」なんていうだけで、パニックになる若い人もいるかもしれない。けれども、そういうときに、どうすればいいのかということを考えるために、人間というのは生まれているんです。
 そして教えるほうは、相手を信じること、人間性を尊重することです。そういう気持ちがあれば、人に教えて虚しくなるということなどない。それで部下が「この人のいう通りしていたら勝てるんだ、うまくいくんだ」という結果が出てきたら、相手との信頼感も深まる。それは本当に貴重な経験ですよ。人を育てることで、自分も成長できるんですから。

(了)
 

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