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2016.04.07

第8回 セ・パ日本一監督 広岡達朗(前編)

「打倒・川上監督」が進化のバネに

広岡 達朗

「打倒・川上監督」が進化のバネに

 賭博に、覚せい剤に、声出し問題と、開幕前に暗いニュースが駆け巡ったプロ野球界。「選手である前に、一人の社会人たれ」といった声も聞こえてきますが、そうした野球人としてのあるべき姿に昔から人一倍こだわり、監督時代、選手を育てて勝つことに全力を傾けてきた広岡達朗さん。
 自身の猛烈な勉強と信念のもと、選手の夜遊びや飲酒を禁止し、自然食を取り入れるといった〈管理野球〉で、ヤクルト、西武の監督時代に日本シリーズで優勝。セ・パ両リーグで日本一を達成した名監督として知られる広岡さんですが、教える上での悩みやつまずきはなかったのでしょうか。最近上梓した『巨人への遺言』のお話とともに、指導者としての挫折について伺いました。
(構成:幻冬舎plus編集部 写真:南浦護)

 

◆伝わらない。ならどうするか

—————巨人での現役時代のショートでの活躍も華々しいものでしたが、広岡さんは引退後、広島とヤクルトでコーチとして若い選手を育て、ヤクルトと西武では監督としてセ・パ両リーグで3回優勝するなど、指導者としての手腕が高く評価されています。84歳になられた今も時々、母校・早稲田大学野球部の後輩や子供たちの指導をされているそうですね。

広岡 これがまたいい勉強になるんです。我々が育った頃の方法で言っても、今の子はわからない。言い方を変えなきゃいけない。一事が万事そうですよ。たとえば、母校の呉三津田高校の生徒が「ショート用のグローブが欲しい」と言うんです。それもカタログを見て、阪神の鳥谷(敬)が使っている革で作ったという5~6万円するものを欲しがる。親は大変ですよ。
 この話を聞いた私の知人が、私が監修してメーカーに作らせたグローブをその子にプレゼントした。オイルもついて1万7000円くらいのものです。子供のころから私のファンだったという父親からお礼の電話がきたが、「ところで、そんな安いグローブで息子はうまくなりますかね」という。いまどきは、子供も親も、道具が高けりゃうまくなると思ってるんだね。間違ってる。

—————そういうとき、広岡さんは何と言うんですか。

広岡 説明するんです。グローブの値段の話じゃなくて、うまくなる方法を。まず「素手でやりなさい」と言う。土のグラウンドだと、イレギュラーして跳ねたボールが後ろへ行くことがある。昔から私は「守りの基本は正しい構え」と指導してきたけど、高校生には「前に落とすのは上手。後ろに行くのは下手なんだ」と説明している。前に落とす方法を教えるんです。
 グローブだって、私が作らせたのは安いけど、正確に捕れる要素をすべて取り込んでいるので、プロでも使えるりっぱなものです。

————子供たちは聞きますか。

広岡 そりゃ聞きますよ。彼らは素直です。知らないだけだ。プロでも学生でも、選手に責任はないと私は思う。責任は指導者にある。言葉を変えて分かるように「それはいけないんだよ。こうするんだよ」と教えてやればいいんだ。だから覚せい剤事件を起こした清原(和博)だって、高校からプロ野球に入ってきたときに、「プロ野球とはこういうものだ」と当時の監督がちゃんと教えてやれば、ああはならなかった。

—————清原選手のことは、最後まで信じていたファンも大勢いましたし、ショックを受けた人は多かったと思います。

広岡 監督というのは野球を教えるのが仕事だけれども、同時に選手の親から子供を預かっている。その大事な子供たちには、本業の野球だけではなくて、社会としてどこに出ても恥ずかしくない常識を身につけさせなければならい、と私は思う。野球人は野球バカではあるけど、みんな素直で根性は悪くない。教えたら「はいッ」とやるんです。
 いくら野球がうまくても、現役生活には限りがある。ほとんどの選手が引退後、一般社会に出て第二の人生を送る。そのために必要な常識やしつけをするのも監督の使命でしょう。これは巨人時代、初代オーナーの正力松太郎さんから「巨人軍は紳士たれ」と教え込まれたためかもしれないが。


◆教える側は、一にも二にも勉強せよ

—————広岡さんは監督時代、プロ野球という「大人の集団」に対しても、生活習慣をはじめとする細かな指導をし、〈管理野球〉と言われたことでも有名です。

広岡 西武の監督時代、マスコミには「広岡の管理野球」だの「自然食の生活改善」だのと揶揄(やゆ)されたけれど、選手の健康管理や生活指導は、ヤクルトの監督時代から始めていたことです。
 当時(1976年)のヤクルトは選手も若く、万年Bクラスの負けぐせがしみついていて、シーズンが終わると選手は、オフのゴルフの相談ばかりしている。立て直すには、負け犬根性を叩き直し、野球漬けで体を鍛え直すしかないと思った。
 最初に始めたのは、選手の体づくりです。シーズン終了後の秋季練習で陣頭指揮をとり、ウエートトレーニングや陸上競技の専門家にお願いして指導してもらった。よく「オフには野球を忘れてシーズン中の疲れをとらなくてはいけない」というが、私に言わせれば間違いだ。「オフは休んで英気を養う」というのは、王や長嶋クラスがいうことで、万年Bクラスの若い選手のいうことではない。秋季練習で技術や体を鍛えても、2月のキャンプインまで遊びほうけていたら忘れてしまいます。
「このチームには年中無休の野球漬けがベストでマストだ」と決意したあとは、77年の春のキャンプから麻雀、花札、ゴルフを禁止して、酒も練習休みの前日の食事時を除いて原則禁酒。ユニフォーム姿でのタバコも止めさせた。

—————反発する選手はいなかったんですか。

広岡 いません。体が変われば、結果も出てくるから選手はわかる。西武の監督になったとき(1982年)も、主力選手たちは田淵(幸一)のようなベテラン選手が多かったので、「自然食中心で故障の少ない体質に改善する」ことが急務だった。チームリーダーの田淵は驚くほど素直な男で、体質改善に真剣に取り組んだ。結果は数字に表れて、前年15本まで落ちていたホームランは25本に、打点も49から59にふえました。その結果が1982年の日本一です。

————これまでにない新しいやり方を選手たちに勧めるには、指導する側が勉強してなければ堂々と言えませんね。

広岡 そりゃそうですよ。

————教える側が、「これでいいのかな」とか「こんなことを言ったらダメかな」とか考えはじめたら、伝わるものも伝わらない……。

広岡 選手や部下に正しいことを教えるためには、自分で勉強しなくちゃいかん。「これでいいのかな?」と考えるというのは自信がないからです。「俺の言うことを聞け。間違いない」と言うべきです。
 でも今の野球の十二球団で、監督になるために勉強している人は残念ながら一人もいないですよ。「選手に働いてもらわんと勝てない」なんていう監督ばっかり。昔は監督というのは「俺の言うことを聞け。俺の言うことを聞いたら勝てるから」と選手たちにいっていたんです。だから監督は、バッテリーのこと も外野手のこともバッティングのことも、すべての分野を勉強して知ってなきゃ言えないんだ。それで不得手なところは専門のコーチの力を借りればいい。それでお互いに「そうか、おまえはこういう教え方か、大したもんだ。で、ここだがな、俺はこう思う」というふうに意見交換して、担当コーチと一緒に勉強しないといけない。
 でも今は、野球界もそうだし、一般社会も、「育てる」という考え自体が、全然ないでしょ? 「これやったら、儲かるか、儲からないか」それだけでしょ?

————……すみません。

広岡 それに今の人はね、教えたら教えたで、「今日言ったら、明日答えが出てくる」くらいに思っているんだ。


◆教えた結果を明日に求めると挫折する

————確かに、今の企業の置かれた状況を想像すると、みんなが結果を急いでいて、部下や後輩を「早く一人前にしないと」という意識、もっと嫌な言葉でいうと、「早く使える人間にしないと」という意識はどこかにあるかもしれません。

広岡 しかしね、教えるということは根気がいることなんですよ。教える順番、手順もある。プロ野球が結果を出す手順でいえば、まずドラフトで獲得した新人選手をしっかり育てることです。これには年単位の時間がかかるが、チームの将来を担う新人を育てる能力と根気のあるコーチは、今ほとんどいない。
 こうしたチーム強化の手順を無視して、短期間の勝利だけを求めても、結果が出るものではありません。チームがあるべき手順通りにやっても結果が出なかったら、現場責任者の監督はクビでいいんです。
 そしてもし“何年”かかって出てきた結果を変えたいとか、何か対処したいと思うなら、同じ“何年”かかってよくしよう、と考えるべきなんだ。
 人に「ああせい」「こうせい」と言っても、人によっては早く結果を出す人もいるし、人によっては遅いこともある。でも言い続けていれば、悪くはならない。だんだんよくなってくる。そのためにも、正しい指導をしなきゃいけない。よくなる確信がないなら、指導者になっちゃいけないんです。

 

◆挫折は飛躍のチャンスと思え

————こうして歯切れのいいお話をうかがっていますと、広岡さんは指導者としての挫折というのは、あまりご経験はない……のでしょうか?

広岡 挫折というので思い出すのは、やっぱり巨人の現役時代、プロ野球界で「犬猿の仲」ということになっている川上(哲治)監督とのことですよ。若いころから野球理念の違いで対立することも多かったし、川上さんの仕打ちに怒り、恨んだ時代があった。でも私は、指導者として川上さんに追いつき、追い越すことを目標にして勉強してきたので、川上さんがいなかったら、今の自分はない。
 だから教えるということに当てはめれば、人に反発されたり、文句言われたり、嫌われたり、うまく結果が出なかったとしたら、それはチャンスですよ。「考える機会が与えられている。よしチャンスだ」と思うと、勉強にも励みが出る。挫折したときがチャンスなんです。


* 後編に続く。4月14日(木)掲載予定です

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関連書籍

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