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2016.03.29

「おそ松さん」の爆発的ヒット、3つの理由

永田 夏来

「おそ松さん」の爆発的ヒット、3つの理由

 3月28日(月)の深夜、ツイッターが笑いや悲鳴や衝撃や感激や感謝の言葉で埋め尽くされたのをご存じですか?
 そう、アニメ「おそ松さん」の最終回がオンエアされたのです。
 このブームにすっかり乗り遅れた、「『おそ松さん』ってそもそも何?」「なんでこんなに人気なの?」という方々のために、注目度急上昇中の社会学者・さにはに先生こと永田夏来さんが、「おそ松さん」人気のホントのところを解説します。

 * * *

「おそ松さん」が表紙になった「月刊アニメージュ」2月号は36年ぶりに重版になった

  2015年10月よりテレビ東京他で放送された深夜アニメ「おそ松さん」がブームとなっています。2016年1月に発売されたブルーレイ&DVD第1巻が発売初週で8万枚を売り上げたほか、各種タイアップや800種類にもおよぶグッズなどが人気となり、その市場規模は70億円にも広がるという試算もあるほどです。

 その人気はコアなアニメファンにとどまらず、野球の日本代表「侍ジャパン」とのコラボレーションや、女性向けファッション雑誌『anan』(マガジンハウス)の表紙・巻頭グラビアを飾る(5月11日発売予定の号)など、世代や性別を超えた広がりを見せはじめています。

 夜中の1時過ぎに放映されるアニメーション作品が、なぜこれほどの社会現象を引き起こしているのでしょうか。その背景となる作品の魅力について考えてみたいと思います。


■コンテンツとして楽しめる6つ子の人間関係

 原作者である赤塚不二夫の生誕80周年をきっかけに企画された本作は、1960年代に『週刊少年サンデー』で連載された漫画「おそ松くん」のリメイクです。

「おそ松くん」は1960年代と1980年代の二度にわたってアニメーション化されていて、そのたび大きな話題となってきました。人気キャラクターであるイヤミによる「シェー」やエンディングで細川たかしが歌う「おそ松音頭」は広く親しまれており、懐かしい気持ちでこれらを思い出す読者の方も少なくないでしょう。しかし、旧作の印象は今回のブームの全体像をむしろ分かりにくくするので注意が必要です。

 本作で視聴者が夢中になっているのは、イヤミに代表される強烈でわかりやすい個性だけではありません。一見区別がつきにくい6人の兄弟を通じて描かれる人間関係に、多くの人が魅了されているのです。

「おそ松くん」における6つ子は、ひとりひとりの区別が付かない、無個性な集団として描かれていました。本作における大きな変更として、旧作ではまとめてワンセットだった6人をあえて差別化し、個別のキャラクターとして仕立て直した点をあげておきます。

 もともとが6つ子ですから見た目や服装にそれほど大きな違いはないのですが、視聴を続けていくうちにだんだん見分けがつくようになってくるから不思議です。

 こうした感覚は、例えばAKB48をはじめとするアイドルグループやバラエティ番組の「ひな壇芸人」を楽しむ態度と重なる部分が多いように思います。具体的には、ある特定のグループにおけるコミュニケーショを俯瞰して楽しみながら、そこにある微細な差異を読み込んで自分なりのお気に入りを見つけ、応援するという姿勢です。こうした姿勢は、今や若い人たちを中心に当たり前のものになりつつあります。

 このような姿勢にマッチしたコンテンツを、アニメーションという形で改めて提示してくれたという新鮮さが「おそ松さん」にはあるといえるでしょう。
 

■無職・童貞という「最底辺」だからこそ共感できる

 本作でもうひとつ加えられた設定に、「成人した6つ子は全員無職で童貞」というものがあります。一見若い女性がそっぽを向くような状況ですが、本作ではこれが女性にウケてヒットの要素となりました。

 その背景として、雇用が不安定になり経済格差が拡大する現代の社会状況があるでしょう。企業をはじめとした所属集団は従来のように私たちを守ってくれなくなりました。「無職で童貞」という、肩書きや所属のない状態で描かれるコメディは、現代の日本の暗部を踏まえた「リアリティのあるファンタジー」という空間を提供してくれています。「無職で童貞」はマイナスではなく、むしろ「受け入れやすさ」や「親しみやすさ」というプラスの効果をもたらしているのです。

 6つ子たちは自らを「同世代カースト圧倒的最底辺」「暗黒大魔界クソ闇地獄カーストの住人」と称していて、「働きたくない」「養ってほしい」「このまま親のスネをかじって暮らしたい」と臆面もなく語ります。「おそ松さん」の主人公たちは、立場は同じですが個性が与えられているため、それぞれに違ったやり方で現状を肯定してみせたり、打破しようと挑戦したり、失敗したりします。

 荒唐無稽で現実味のないようにみえる彼らの状況は、笑えると同時に時々ギクリとさせられます。なぜなら、誰にでも心当たりのある自分自身の「ダメ」な部分を代弁しているように思えるからです。ここでいう「ダメ」とは成熟や責任の回避であり、大人になることの拒否といえます。

「子どものままでも楽しく生活できればよいではないか」という気持ちと「大人にならなくてはいけない」という気持ちの相克は、今日の若者を中心に性別を超えてつきつけられている課題です。ここが、「最底辺」であるはずの彼らの格闘に、立場を超えた多くの視聴者が共感できる所以でもあるといえます。
 

■閉塞した社会を起点にした成長の物語

 その上で本作が提供するのは、成長物語であり、若者の未来像です。

 本作では「ドラえもん」や「サザエさん」のように前回までの全ての顛末がリセットされるわけではありません。作中で描かれた挑戦や失敗は、翌週のネタや設定として部分的に引き継がれ、物語がつむがれています。そしてそこからは、手酷い失敗をしてもなお包摂されているという人間関係への安心感や、諦めずに挑戦し続けるなかで少しずつ変化するキャラクター像を読み込むことができます。

 一話完結のコメディでありながら状況は引き継がれていくこの種の演出は、「8時だョ!全員集合」や「ダウンタウンのごっつええ感じ」などで見られる、コントの手法だといえるでしょう。実際、本作のスタッフには、シリーズ構成・脚本の松原秀氏をはじめ、バラエティー番組やお笑いの経験を持つ人材が配置されています。コントを選択したことで、若者の変化や成長をおしつけがましくない形で提供できた点が、本作の隠れた成功の秘密です。

 ニートで童貞の6人兄弟によるコメディは、信頼できる所属集団をあらかじめ欠いた若者がコミュニケーションやキャラクターを武器に大人になろうとする成長物語、ビルドゥングスロマンとしても鑑賞できます。これは古くから繰り返し描かれてきた、古典的かつ普遍的なテーマです。閉塞的で暗い日本の現状を起点としながらも成長と未来を志向している本作の見取り図にこそ、多くの人を魅了して止まない理由があるといえそうです。

 

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