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2016.04.16

震後社会の縮図としての青春学園小説(真山仁『海は見えるか』)

香山 二三郎

震後社会の縮図としての青春学園小説(真山仁『海は見えるか』)

『海は見えるか』真山仁
幻冬舎刊/1500円(税別)

 

 阪神・淡路大震災の被災経験を持つ中年の男性教師が東日本大震災発生後間もない東北の小学校に派遣されてくる。架空の街・遠間市を舞台に彼、小野寺徹平と子供たちの交流を描いた連作長篇が『そして、星の輝く夜がくる』。「ハゲタカ」シリーズを始めとする経済小説の旗手として知られる著者だが、この作品はジャンルでいえば青春学園ものであり、津波で甚大な被害を受けた人々が復興に向けて懸命に戦う姿が描かれた「震災文学」でもあった。

 プロデビューして10年、作家としてさらなる進化を求める著者が挑んだ意欲作であるが、本書はその待望の続篇である。

 小野寺が遠間にやってきて10ヶ月が過ぎた。教え子たちも無事に巣立ち、自分の派遣期間の修了も近付いていたが、またまた問題発生。家族を失い伊藤教務主任の家に厄介になっていた教え子の庄司大樹が諸般の事情で伊藤家を出ることになったというのだ。同僚教師・三木まどかが里親探しに奔走するが、大樹の叔母が厳しい条件を提示、それにかなうところがなかなか見つからず、大樹とも話し合った末、小野寺が面倒を見ることになるのだが……。

 冒頭の「それでも、夜は明ける」を始め全7章から成っており、派遣を1年延長した小野寺が今回も様々な出来事に直面する。

 ─―というと、真面目というかいかにもシリアスな社会派小説を連想する向きもあるかも。実は筆者も前作『そして、星の輝く夜がくる』を手にしたときはそんな気分だった。未曾有の震災の復興劇ゆえ、題材ひとつを取っても軽薄なものはないに違いない。だが小野寺は読者のそんな気持ちも察したかのように、右手を挙げて「まいど!」と関西人らしい気軽な挨拶をしてみせるのだった。

 実際、前作を一読して思い出したのは、1960年代に人気を博したTVドラマ“青春学園シリーズ”だ。その第一作は『青春とはなんだ』、石原慎太郎が1963年に発表した長篇小説のドラマ化作品である。アメリカ帰りの青年教師(TVでは夏木陽介、映画では石原裕次郎が演じた)が地方都市の高校に赴任、何かと守旧的でことなかれ主義の地域の流儀に反して様々な波紋を巻き起こしながらもラグビーを通して生徒たちとの絆を深めていくという筋立て。

 ひと言でいえば石原慎太郎版『坊ちゃん』であるが、自由奔放な交流劇と第二次世界大戦後の新時代のありかたを賞揚する演出が人気を博し、長期シリーズ化した。

『そして、星の輝く夜がくる』の特徴も、子供たちが抱える鬱憤を晴らさせようと「わがんね新聞」を発行するなど、子供たちの元気を取り戻すためなら大人たちの都合などかえりみず、何事も前向きに取り組む小野寺のがむしゃらな「民」(=子供)主主義ぶりにあった。被災地の復興が遅れていることには様々な理由があるが、我慢強く、なかなか不満をぶちまけようとしない東北人気質にもその一端はありそうだ。阪神大震災を経験し、いちど復興劇を体験している小野寺にはそれがもどかしく感じられ、つい反骨魂が強め強めに出てしまうのである。

 考えてみれば、石原慎太郎ももとはといえば、既存の戦後社会のありかたにNoを突き付けたアプレゲール作家、話題作「太陽の季節」は反抗的にして無軌道な青年たちの姿を描いた作品だった。『青春とはなんだ』はそれとは明暗を引っ繰り返した明朗青春ものといえようが、旧習打破を唱える戦後文学としての学園小説がまさか被災地を舞台に復活しようとは思わなかった。

 そう、学園は戦後社会の縮図であるが、震災後の社会の光と闇をもあぶり出す震後社会の縮図でもあるのだ。

 本書『海は見えるか』でも、女生徒のメル友探し(「便りがないのは…」)やPTSD(心的外傷後ストレス障害)との戦い(「雨降って地固まる?」)、野球で将来を嘱望されている兄弟の引越し(「白球を追って」)、防潮堤の整備をめぐる攻防(「海は見えるか」)等で前作と同様、被災地の深刻な問題が提起されるが、小野寺はそのたびごとに生徒たちの健気な振る舞いに励まされることになる。かつての青春学園シリーズは校長は主人公の味方、教頭はことなかれ主義の俗物というパターンで、『そして、星の輝く夜がくる』もそれを踏襲していた。しかし本書では小野寺の尊敬する浜登校長は定年退職し、代わりにやってきたのは教条主義で高圧的な男。敵がまたひとり増え、小野寺の気苦労も増すばかりだが、彼の辞書に絶望の二文字はない!

 ちなみに東日本大震災を題材にした著者の作品としては、他にも、被災地で取材に取り組む全国紙の記者が犯罪の謎にも挑むことになる社会派ミステリー『雨に泣いてる』(幻冬舎)がある。こちらもシリーズ化が望まれる。

『ポンツーン』2016年4月号より

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