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2016.03.29

『神様のコドモ』試し読み 第1回

反省しない悪人には、
死ぬより辛い苦しみを!

山田 悠介

反省しない悪人には、<br />死ぬより辛い苦しみを!<br />

殺人者が、反省もせず、うまく逃げ切ってのうのうと生きていたら――?
何の抵抗もできない弱者をイジメて、いい気になってる大人がいたら――?
山田悠介の新作『神様のコドモ』は、現代日本のやりきれなさを解消してくれる、そして小さな勇気をくれる、ショートショートです。
雲の上から日本を見下ろす「神様の子」の目を通して、人間たちの愚かしさを描いています。
1話3分ほどで読めるお手軽さですが、各話、胸にグサっと刺さります!
恐怖あり、痛快さあり、切なさあり、感動ありの42編。まずはこちらをお読みください。

*  *  *

神様の子の暇つぶし

 吾輩は暇である。作・神様の子。

 くだらねぇ。

 ただ猫を暇に変えただけではないか。僕は僕自身に呆れた。しかしこんなつまらない考えが浮かぶほど暇なのだ。

 ならばひつまぶしでも食べようかなあ。

 うわあやっちゃった。

 僕は神様、の子供だ。正確に言うと日本の神様の子供。

 僕は今人間界の遥か上空から日本列島を眺めてる。本来は神様の役目なのだけれど神様は今ハワイ旅行に出かけてる。人間になりすまして。ロマンスグレーのダンディな『人間スーツ』姿だった。神様はあくまで出張と言っていたけれど本当かなあ? バカンス気分で今頃ビーチで好みの女の子を物色してるんじゃないのかなあ。

 ま、そんなことはどうでもいい。

 とにかく神様が出張から帰ってくるまでの間じっと日本を眺めていなくてはならない。と言っても、特に何もない、はずなのだけれど。

 今僕は日本列島を見下ろしているのだけれど、親指と人差し指で拡大したり縮小したりすることができる。スマホみたいに。

 しかし本当に暇である。

 時刻は午後五時三十分。

 一日中日本列島を眺めているけれど今のところ特段何もない。神様は未来を知っているけれど僕は知らない。だから大きな何かが起こらないかワクワクして待っているのだけれど。

 “神族”の者は基本人間と深く関わってはいけないのが鉄則だ。無論人間の運命を変えるのも、である。

 ならば僕たちは何の為に存在してるのか甚だ疑問なんだけれど。

 ああ暇だ。

 叫びたい。叫ぶならマイクのスイッチをオフにしないと。オンのまま叫んだら一億何千万人いる日本人全ての鼓膜が破れる。

 僕は東京都に指を伸ばして拡大してみた。東京を選んだ理由は特にない。

 日本は今梅雨だ。ざあざあ雨が降っている。

 ありんこよりも小さい人間がうじゃうじゃ傘を差して歩いてる。

 色とりどりの傘。僕には花が咲いてるみたいに見えた。

 それが何だか気に食わなかった。

 綺麗なものを見ていたってつまらない。僕はロマンチックな乙女じゃないんだ。

 平和はもっと嫌いだ。

 そう日本は平和すぎる。だから退屈なんだ。

 他の国は日本よりも数倍エキサイティングだ。不幸で溢れてる。

 僕は息を呑んだ。想像するだけで胸が騒いだ。

 少しくらいならやっちゃってもいいよね? 神様が気づかない程度なら。

 僕は呼吸を止めて東京都に少し顔を近づけた。

 ほんの小さくフッと息を吹きかけてみる。

 やっちゃったやっちゃった!

 僕は東京都を更に拡大してみた。

 渋谷の大型ビジョンに気象情報が流れる。

『東京都全域に竜巻警報』

 数秒前までたくさん開いていた色とりどりの傘が一つも開いていない。

 一瞬にして花が枯れ果てたような光景が、僕は愉快でたまらなかった。

 

釣り

 ああ退屈だ。

 相変わらず暇すぎる。

 こんな退屈なときは、そうだ京都へ行こう。

 ではなく釣りでもしよう。

 僕は指をパチンと鳴らした。

 パッと現れたのは白い紐だ。

 僕は今手に持っている白い紐を使うことになんの躊躇いもない。

 これから神族の掟を破ることになるかもしれないけれど構わない。

 さて、釣りには餌が必要だ。

 僕はまたパチンと指を鳴らす。

 餌はパンだ。チョココロネ。お金にしようか迷ったけれど金では釣れないだろうと思ってパンにした。

 途中落っこちないようにしっかりと結びつけてそっと人間界に紐を垂らす。

 場所は適当だ。

 群馬か? 栃木か? 拡大してないから正確には分からない。両県の県境だ。

 さてさてどんな獲物が釣れるかな?

 釣りに一番必要なのはズバリ根気だ。集中力と忍耐力が試されるスポーツだ。

 と考えた矢先だった。

 かかった!

 クイ、と強い当たりを感じたのだ。

 僕は紐を強く握ってグッと引っ張る。

 この手応え、なかなかの大物だ! バタバタと暴れているのが伝わってくる。僕はゾクゾクした。

 ヨイショヨイショと紐を手繰り寄せる。

 釣れたのは、人間だ。

 みすぼらしい格好をした、窶(やつ)れきった男だ。見た目は四十代後半だが、実際は三十七だったか?

 男の首には白い紐が巻き付いている。

 青い顔でぐったりとしている。

 しかし男はまだ死んでない。気絶した状態だ。

 男の名は椎名賢治。

 一年前、群馬県在住の女子大生を殺害した犯人だ。

 椎名は女子大生に乱暴した後、自らがしていたネクタイで首を絞めて殺害。金品を奪って逃走し、群馬県の山奥に身を潜めて逃亡生活を送っていた。雨水を飲み、草やキノコで空腹を凌ぎ……。

 いやそんなことはどうでもいい。

 僕はこの男に執着していたわけではない。警察が捜索に難航していたから男を釣り上げたわけでもない。

 あくまで偶然だ。

 釣れた獲物が偶然、逃亡している殺人犯だった、というだけだ。

 しかしこの男、どうするべきか。

 死なすべきか。生かすべきか。

 僕は生かすことを選択した。その方が男にとって地獄だからだ。

 目を覚ます前にリリースしなければ。

 どこにしよう。警察署の前でいいか。目を覚ましたらびっくりするだろうな。

「ああ、僕はとうとう人間の運命とやらを変えてしまったなあ」

 言っただけだ。罪悪感なんてこれっぽっちもない。

 僕は辛うじて息をしている男にゴメンねと言った。

 しつこいようだけれど君が釣れたのは偶然だよ。

 食べ物に食い付いた君が悪いんだ。

 

神様に代わってお仕置きよ♡

 目には目を。歯には歯を。

 実にいい言葉だ。

 復讐の方法として最も正しいと僕は思う。想像しただけでゾクゾクするではないか。

 もっとも僕が復讐するのではない。正確に言えばお仕置きだ。

 彼らはその男に復讐することができない。絶対に。だから僕が神様に代わってお仕置きするんだ。

 男の名前は児玉武。五十五歳。

 断言する。児玉は人間のクズだ。生きている価値がない。

 神様の子である僕に見られているとは知らず、馬鹿な奴だ。

 日本は雨だ。無論僕が降らせているわけではない。

 さあて児玉が仕事場から出てきたぞ。これから地獄を見せてやろうじゃないか。

 傘を差していても無駄だ。

 僕にはスマホの画面までハッキリと見えているんだから。

 呑気に女性とメールしている。どうやらこれから会うらしい。

 僕は児玉のおよそ十メートル先にある水たまりを見た。

 あの水たまりがいい。

 メールをしながら歩いている児玉は水たまりの存在には気づいていない。

 そして気づかぬまま、水たまりをビシャリと踏んだ。

 その刹那、児玉の身体が水たまりに呑み込まれた。

 児玉が踏んだ水たまりは魔の水たまり。

 足を踏み入れたら最後、自力では絶対に這い上がってこられない。

 底なし沼ならぬ、底なしの水たまり、だ。

 ブクリブクリ。アワアワアワ。

 児玉の叫び声だ。

 そうだ苦しめ。おまえの脳裏には今何が映っている?

 懺悔する余裕なんてないか。

 彼らもおまえと同じように苦しい想いをしているんだ。毎日毎日。

 彼ら、とは繊維製品製造業で働く青年たちだ。

 彼らは知的障害者である。

 児玉は何の抵抗もできない弱者たちを虐待している。少しでもミスをすればお仕置きだ、と言って水を張ったバケツの中に頭を押し込んで苦しませている。

 今日はあまりのショックで気絶してしまう子もいた。

 他の従業員は見て見ぬフリだ。むしろ楽しんでいる奴もいる。

 最初は、内部の秘密を世間に知らしめて児玉が今の職場で働けぬようにしてやろうかと考えたがそれだけでは甘い。甘すぎる。

 一番の制裁はやはり目には目を。歯には歯を、だ。

 公にする前にお仕置きして同じ苦しみを味わわせてやらなくては。

 児玉はあくまで健常者なのだから彼らの数倍、いや数十倍は苦しんでもらおう。

 心配するな。

 僕は命までは奪わない。あくまで神様の子であって悪魔ではないんだから。

 でも今の苦しみは後の苦しみを考えれば楽な方だと思うよ。

 この先、おまえは今以上の苦しみ、地獄を味わうだろうから。

 

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