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2016.03.16

第7回 元サッカー日本代表・前園真聖(前編)

あの事件があったから「第二の人生」の扉が開いた

前園 真聖

あの事件があったから「第二の人生」の扉が開いた

メディアでのサッカー解説、子どもたちへのサッカー指導に力を注いできた元サッカー日本代表の前園真聖さん。最近では、2年前に起こした事件を経て、スポーツと直接関わりのないバラエティ番組へも活躍の場を広げています。事件後初となる著作、『第二の人生』(小社刊)を発売する前園さんに、挫折からのV字復活の真相を伺いました。(構成:井上健二 写真:桑島智輝)


 ◆初めて起こしたお酒絡みの事件で挫折を味わう

――前園さんに「挫折」というテーマで話を伺うとなると、あの「事件」の顛末から始めないわけにはいきませんね。

前園 そうですよね。2013年の10月、僕は朝方まで飲んで泥酔したうえに、うちまで乗せてくれたタクシーの運転手さんに暴力を振るってしまいました。朝になって我に返ったら、見慣れない警察署のなか。その状況から「何かヤバいことをしたな」と怖くなりましたが、飲み会の途中からの記憶が完全に飛んでいました。警察官から「あなたの乗ったタクシーの運転手さんが、あなたから暴力を振るわれたとおっしゃっています。間違いないですか?」と言われたので、素直に「すいませんが、覚えていません。でも、運転手さんがそうおっしゃっているのなら、間違いないと思います」と答えました。
 警察署の留置所でひと晩を過ごしてから送検されて、運転手さんが示談に応じてくだったので、警察署に戻ってから釈放されました。その後、事務所のスタッフが段取りを整えてくれたので、すぐに謝罪会見に臨みました。それに先立ち、運転手さんにはすぐに電話連絡を取って謝り、1週間後には直接お会いして謝罪することができました。

――お酒、そんなに弱いのですか?

前園 鹿児島県生まれの九州男児ということもあり、酒豪だと思われていますが、実際は弱くてそれほど飲めません。ただ飲み会の席で盛り上がるのは大好きなので、そのために多少飲む程度。泥酔するほど飲むこともないので、お酒絡みで問題を起こしたことはなかったのですが、その日はヨーロッパロケから帰国した当日で時差ボケもあり、体調が万全ではなかったところに飲みすぎたため、多くの皆さんに迷惑をおかけする結果になったのです。謝罪会見で断酒宣言したため、「前園はお酒をいつ解禁するのか」と一部で注目されていますが、僕自身はそれほどお酒が好きでないので、このままずっとノンアルコールビールでも大丈夫だと思っています。


◆「これで自分は終わりだ」とは思わなかった

――謝罪会見後もすぐには現場復帰とはならず、4か月間の謹慎期間がありました。その間は、どんなことを考えていましたか?

前園 ランニングをしたり、コンビニに立ち寄ったりする以外は、ずっとうちに引きこもっていました。テレビを観るのもネットをチェックするのも怖くて控えていましたね。有り難いことに多くの友人が「気分転換になるから、たまには外に出てこいよ」と誘ってくれましたが、相手の迷惑になると悪いのでお断りしていました。

――「これで俺はもう終わりだ」といった絶望感はありませんでしたか?

前園 いいえ。それはなかったですね。引きこもってはいましたが、「これで自分は終わりだ。いっそ表舞台から消えてしまおう」とは思っていませんでした。それでは逃げることになりますから。故郷の鹿児島に帰り、メディアともサッカーとも距離を置いて再起したとしても、やはり逃げることになります。迷惑をかけてしまったすべての人に頭を下げたら、もといた場所に戻ってゼロから再出発しようと決めていました。それが事件を起こした僕を応援してくれた人たちにできる、最低限の恩返しだと思っていましたから。
 引きこもっている間に時間は腐るほどありましたから、その間に「アンガーマネジメント」を勉強して、ファシリテーターの資格を取りました。


◆怒りは6秒我慢すれば、振り回されなくてすむ

――「アンガーマネジメント」とは、馴染みのない言葉ですね。

前園 その名の通り、怒りをマネジメントして上手に付き合う方法を学ぶもので、1970年代のアメリカで始まったものです。記憶にないとはいえ、潜在的な怒りの感情が暴発して事件につながった可能性もあると思えたので、この機会に怒りについて勉強してみようと思ったのです。
 アンガーマネジメントによると、怒りは第二次感情。その元になっている第一次感情には、ストレス、不安、人間関係でのコミュニケーション不足などがあります。怒りを溜めないようにするには、ストレスや不安などをこまめに解消しておくことが重要なのです。また、アンガーマネジメントによると、怒りは線香花火のようなものであり、6秒くらいで消えるそうです。たった6秒間をやりすごすことができたら、怒りに振り回されずに済むのです。これは発見でしたね。
 顧みると、僕は現役のサッカー選手時代、自分にダメ出しをしない、弱気なところを見せない“強面キャラ”を貫いていました。プロにはそれくらい強気の姿勢も必要ですが、僕は引退してからも、そのキャラクターをずっと引きずっていました。身の丈に合わない強面キャラを作っていたために、それが知らない間にストレスとなり、怒りの元になっている部分もあったかもしれない。そう反省しました。


◆松本人志さんの事件へのツッコミで素直になれた

――復帰されてからは、強面キャラから、いじらキャラへと180度印象が変わりました。そのギャップがブレイクのきっかけだと思います。

前園 そうですね。いじられキャラに変わったのは、『ワイドナショー』(フジテレビ系列)にゲスト出演させてもらい、松本人志さんにいじられたのがきっかけです。僕の席の前に置かれていたウーロン茶を見て「ちょっと待ってください、それ、ウーロンハイでしょ! 飲んでるでしょ?」とアドリブで突っ込んでくれたのです。
 それまでも、スポーツ番組にはコメンテーターとしてポツリ、ポツリと出ていましたが、周りが腫れ物を扱うような態度で居心地が良くありませんでした。松本さんが初めてストレートに事件をネタにしていじってくれたので、僕は憑き物が落ちたように気分的にラクになりました。そして松本さんの突っ込みに、僕は真顔で「飲んでないです。これはウーロン茶です」と即座に応じました。その馬鹿正直なリアクションにスタジオが湧きました。その後、レギュラーとして出演させて頂くようになり、他のバラエティ番組からも声がかかるようになったのです。

――いじられることに違和感はありませんか?

前園 なかったですね。いじられると言っても、人間的にダメ出しをされているわけではありませんから。現役時代の強面キャラを知っている方々には、違和感を抱く方もいるようですが、その頃からフィールドを離れたところでは、仲間にいじられることもありました。ヒデ(中田英寿さん)は年下ですが、最初からタメ口でしたし、いじるようなことを言ってきました。ちなみにヒデにお酒を初めて教えたのは僕、謹慎中に初めてお酒を勧めてくれたのはヒデです。もちろん断って1滴も飲みませんでしたけど(笑)。
 いじりといじめの線引きは難しいですよね。学校でも会社でもいじめが問題になっていますが、暗いいじめを明るいいじりに変えられたら、社会はもっと風通しが良くなる気がします。密室で大勢が寄ってたかって一人を陰湿にいじめるのではなく、テレビのようにオープンな場でいじられた相手が笑顔になるようなコミュニケーションが取れたら、救われる人も多いと思います。


◆テレビというアウェーでも、機能する存在でいたい

――復帰前はテレビもスポーツ番組中心でしたが、いまはバラエティ番組でお顔を拝見する機会が増えてきました。自分としてはその変化をどう感じていますか?

前園 いまだにサッカーでいうならアウェーでプレーしている気分です。スポーツ番組とバラエティ番組とでは世界が違いすぎます。
 サッカーの場合、自分のパフォーマンスに対する評価は一目瞭然。チームの勝利に貢献できたか、ゴールにつながるプレーがどれくらいできたかが大事です。ところが、バラエティ番組では、収録スタジオで爆笑が生まれたとしても、テレビを観ている人たちにどうそれが伝わっているかはまったく別問題。街を歩いていて声をかけられる機会が増えたり、番組やイベントなどに呼んでもらえるチャンスが増えたりすることで、間接的に「ああ、評価してもらっているんだ」とパフォーマンスを判断する他ないのです。
 ですから、自分が出ている番組は基本的に全部録画して見直しています。再びサッカーにたとえると、バラエティ番組でのコメントはドリブルやスルーパスのようなもの。生番組以外は編集されていますから、自分のパスやドリブルがどの程度通用しているかは、番組を見直さないとわからないのです。せっかく呼んでもらっているので、どんなアウェーな環境でも、きちんと機能するように振る舞いたいと思っていますが、かといって受けを狙って計算することはしてません。皆さんが僕を評価してくれているのは、松本さんのあの突っ込みにとっさに素で応えた自分だと思っていますから、その自分らしさは失いたくないのです。


◆「借り物の人生」から脱却できたのはあの事件のおかげ

――こうして話を伺っていると、あの事件による挫折があったからこそ、前園さんには新しい世界が開けたのですね。

前園 その思いは僕自身にも強いですね。運転手さんはもちろん、迷惑をかけた人たちには本当に申し訳ないのですが、あの事件で自分を振り返る貴重な機会をもらいました。それがなかったとしたなら、「マイアミの奇跡」でちやほやされた自分が忘れられず、背伸びした強面キャラのままで借り物の人生を生きていたような気がします。
 サッカー日本代表は毎回のようにワールドカップに出場するようになりましたし、日本代表には本田圭佑選手や香川真司選手のように海外の第一線で活躍しているそうそうたるプレーヤーが名を連ねています。それと比べて僕は日本代表に選ばれてもワールドカップには出ていませんし、海外でも思ったような結果が残せませんでした。そんな中途半端な僕が、等身大の自分で“第二の人生”をリスタートできたのは、間違いなく事件のおかげです。挫折に直面してただ落ち込んだり、腐ったりするのではなく、謙虚に自分自身を見つめ直してみると、そこに再生へのヒントが隠れているのだと思います。

――なるほど。では後編では、前園さんを語るときにいまだに外せない「マイアミの奇跡」のあとに起こった、思わぬ「挫折」について伺いたいと思います。
(後編に続く)

****

前園真聖さんが、“強面キャラ”を捨てた再出発のお話は、3月17日に発売した書籍『第二の人生』でより詳しく描かれています。ぜひご覧ください。


<目次>
◆はじめに もといた場所から再出発

第1章 自分にダメ出しする
4か月の謹慎を経て
◆相手から求められる人間になりたいと誓う
◆足りないところを認めて自分にダメ出しする
◆もといた場所に戻り、そこで認めてもらう
◆怒りを溜めないために、等身大のキャラで生きる
◆怒りは線香花火。6秒間やりすごせば消える
◆自分の「べき」を他人に押し付けない
◆苦い失敗体験をなかったことにしない
◆計算をしない、素の自分を受け入れてもらう
◆相手の気持ちを考えた愛のある〝いじり〟
◆暗いいじめを明るいいじりに変えていく
◆他人の視点で自分を評価してみる
◆受けを狙って計算しない
◆受け身体質がポテンシャルを広げる
◆肩書きは周りが決めるもの
◆思い込みを捨てれば、知らない自分に出会える
◆事件があったからこそ、素の自分で生きられるようになった
◆時間が経っても忘れてはならないことがある

第2章 弱い心を認める
事件、そして謝罪会見
◆やってしまったことに責任を取るしかないと腹をくくる
◆言い訳せず、自分の言葉で心から謝罪する
◆たくさんの人に支えられているという、当たり前の現実に気づく
◆身近でフォローしてくれる存在を大切にする
◆世間から認められて、仕事をしている姿を見せることが親孝行
◆好きなことをプロとして極める姿をリスペクトする
◆ペットは家族。寝ている姿を見るだけで張りつめた心が癒やされる
◆子どもたちに恥ずかしくない行いを続ける

第3章 強い気持ちだけがミラクルを起こす
「マイアミの奇跡」のキャプテンとして
◆記録ではなく記憶に残る選手になれた
◆強い気持ちこそが勝利を呼び込む
◆勝つためにずる賢く立ち回ることもときには必要
◆世界のトップ相手に「何かやってやる」という強気
◆奇跡の原動力は気持ちの強さ、熱量の大きさ
◆世界との差を知ったから、世界へ出たいと願う

第4章 終わったことは受け入れる
海外から得たもの
◆高いレベルでの切磋琢磨を求めて日本を出る
◆終わったことは受け入れ、クヨクヨせずに前を向く
◆わだかまりを断ち、未来を開くために新天地を目指す
◆自分の殻を破り、一歩前に出ないと受け入れてもらえない
◆過去に頼らず、いまの自分で信頼を勝ち取る
◆好きなことをしたいという願いが強ければ、困難は困難ではなくなる

第5章 ポジティブに自己否定する
早すぎる引退まで
◆海外で成功するには強いメンタルが必要
◆メンタルの強さは平常心をもたらす
◆メンタルを強くするには、弱さを認めてポジティブに自己否定
◆ネガティブな助言を自分を変えるチャンスに
◆明日の自分に役立つと信じ、今日の辛さにじっと耐える
◆過去は変えられない、現状を受け入れて前に進む
◆純粋に「好きだ」という気持ちで頑張れた

第6章 キャラ設定がときには必要
ピンクのポルシェの理由
◆黙々と努力している姿はきっと誰かが見ていて応援してくれる
◆一瞬で判断を下すには経験が必要
◆将来を見据え、いますべきことを実行する
◆仕事と息抜き、オンとオフをはっきりさせる
◆恵まれすぎた環境に気づき、ハングリーになる

第7章 アウェイで平常心を発揮する
向上心を持つということ
◆個々のレベルでも国際化は必要
◆上がる期待値を超え続ける努力
◆長所を消してでも勝ちにこだわる
◆アウェイで競い合いメンタルを鍛える
◆厳しい批判に耐えながら、強くなっていく
◆面白さを知れば、辛い体験にも耐えられる
◆目標があれば努力することも楽しくなる
◆教わる前に自分で考える習慣をつける
◆失敗するからこそ、学べることがある

◆おわりに 第二の人生に感謝
 

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