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2016.03.02

第9回

ホイチョイ・プロダクションに学ぶ
悲観しないで仕事をするセンス

コグマ部長

ホイチョイ・プロダクションに学ぶ<br />悲観しないで仕事をするセンス

1981年連載開始。「気まぐれコンセプト」で知る日本の歴史

「おい、ゼロックス取ってくれ」「やっぱり『君がいるだけで』っていい歌だよな」、○○君のポケベル鳴らしてくれ」「タクシー(会社)がつながらないから、裏番(号)にかけたよ」……。

これはコグマが会社員になった92年当時、実際に交わされていた会話。大学出たての若者は「ゼロックス」が「コピー」と同義語だったとまだ知らない。ちなみに米米CLUBが歌った「君がいるだけで」は同年放送の月9ドラマ「素顔のままで」(出演・安田成美、中森明菜)の主題歌。なんと289万枚も売れ、レコード大賞に輝いている。それと、ポケベルは会社から支給されたのだが、当時でも「鳴る」という機能しかない旧型モデルだった。渋谷の女子高生でさえ「0840(オハヨウ)」なんて公衆電話で鳴らしていたのに、こちとら会社員のポケベルは発信者の番号も出ないものだから、一旦鳴らされると心当たりに片っ端から電話(もちろん公衆電話ね)をかけなおす時代でした(泣)。

さて、そんな20世紀の思い出を披露したのはこんな書籍が刊行されたからだ。「気まぐれコンセプト完全版 35年分」(ホイチョイ・プロダクションズ著 小学館刊)。今でも「週刊ビッグコミックスピリッツ」誌で連載中の4コママンガをまとめた、まさに世相の集大成だ。「ページをめくれば、そこには、上り坂の80年代、バブル絶頂期、失われた90年代、ITバブル、リーマン・ショック、東日本大震災前後、そして現在の、日本の流行と風俗の歴史が詰まっています」(はじめに)という作者の言葉は嘘ではない。おそらく(ほんとは絶対)役に立つことは少ないが、知っておいて損はない(得もしないが)、社会の裏側の歴史を目の当たりにできる。

主人公は「シロクマ広告社」という広告代理店で働く面々。ちなみに「コグマ部長」のペンネームはシロクマ広告社の「クマダ部長」から無断で拝借している。コグマはホイチョイの初めての著書にして出世作「見栄講座」を中学3年で読んで以来、ホイチョイを人生の師として追い続けてきていたのだ。自分は「見栄講座」に出てきた陸(おか)サーファーになるんだろうなと確信しておりました。

さて、この「気まコン」の連載開始は81年。当時日立製作所の宣伝部勤務だった作者は第1話で「目立電機」を登場させている。エレベーターの床にあった「目立」の社名入り銘板を踏んだシロクマの営業マンが出入り禁止になるというもの。これは当時の上司である宣伝部長に怒られたというが、時世を考えると相当斬新なオチだったと思われます。他にも、当時中高生に大人気だった「おニャン子クラブ」のメンバーの顔と名前と会員ナンバーをクライアントの部長が徹夜で覚え、代理店の若い社員に「No.4が新田恵利で……」とドヤ顔で言っているマンガが87年。これは人気絶頂のまま「おニャン子」がすでに解散していた事実をこのオッサン部長が知らないというオチだが、AKBのメンバーに変えたら、今でも現実にある話なんじゃないですか?

コグマがサラリーマンになった92年。すでにバブルは弾けて、地価も株価も下がっていたが、消費にも日本人にもまだまだ勢いがあった時代。コグマは前年の「東京ラブストーリー」にしっかり影響され、「社会人になったら、鈴木保奈美みたいな女とセックスできるんだ」と、100%信じて会社員になりました、すいません。その後、96年のある週にはオリコンチャートの上位5曲を「Don’t wanna cry」「I’m proud」など小室ファミリーが独占。「アムラー」が流行語大賞にもなっている。

まあ、ここまではさすがに20世紀中の出来事。「古いなー」と笑えるレベルだ。だが、05年、シロクマ広告社内の忘年会の出し物をネタにしたマンガは、当時大ブレーク中の「オリラジ」ネタは他部署のネタとかぶるだろうからと、同じくブレークしている「レイザーラモンHG」のネタに挑むというもの。これってついこの前の流行のように思えるけど、もう10年以上前なのだ。他にも、「株価の急激な落下に比べたら、富士急ハイランドのジェットコースター『フジヤマ』のスリルはたいしたことない」、とリーマン・ショックを笑いのネタにしたのが08年。これも、おととしくらいの感覚だったが、もうそんな時間がたったのだ……。

広告業界にいる人間たちの視点からその時々の流行や風俗をミーハー(ってもはや死語だよね)感覚で取り上げているのではない。いわゆるギョーカイ人(これも古い。泣けてきた)が時代の先端を行くのを見て、カッコいいでしょ、と言っているのとも違う。ホイチョイ・プロダクションズのセンスには、表層を追いかけているだけの人間をどこか俯瞰した高邁なあざとさがある。シロクマ広告社の人間たちはほんとにバカバカしいほどに遊ぶし、女のことしか考えていない。1冊丸ごとハイセンスなジョークなのだから、取り上げているネタが古くなっても、その空気までは全く古びていない。

そして、今回は、もう1冊を紹介させてください。ほぼ同時期に出た「電通マン36人に教わった36通りの『鬼』気くばり」(講談社 +α文庫)もぜひ読んでほしい。時代を茶化しながら、それでいて時代を作ってきた広告マンたちの真の仕事術が学べる傑作だ。

真剣に仕事をしている人は遊びにも手を抜かない。仕事では何度も失敗するし、自分ではどうにもならない理不尽さに悔し泣きをすることもある。でも、それで悲観せずに明日も面白いことやってやろうと、口笛を吹いているような、そんなスーパー仕事師たちの本だ。

2冊合わせて3000円ちょっと。小難しいビジネス書や誰かのサクセスストーリーを読むんだったら、この投資の方が100倍有効だし、コグマはそんなヤツを信用する。

 

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