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2016.02.22

第6回 生物学者・長沼毅(前編)

挫折は場数を踏むのが肝心。
克服しようなんて思わない

長沼 毅

挫折は場数を踏むのが肝心。<br />克服しようなんて思わない

 微生物を追って砂漠へ極地へ、そして深海から高山まで、過酷な環境を渡り歩いて、「科学界のインディ・ジョーンズ」とも呼ばれる長沼毅(ながぬま・たけし)先生。
 挫折などとは無縁に、学者人生をたくましく切り開いてきた……イメージがありますが、じつはここまでの人生、決して順風満帆ではなかったようです。
 長沼先生いわく「プチ挫折の連続」に耐える、生き方の極意をうかがいました。

(構成・岡田仁志 写真・菊岡俊子)


◆何度も挫折し、「折れ癖」がついて、心が丈夫になった

──ご著書の『辺境生物はすごい! 人生で大切なことは、すべて彼らから教わった』(幻冬舎新書)には、長沼先生の数々の挫折体験が書かれています。大学で入る学部を間違えたり、宇宙飛行士の試験に落ちてしまったり。

長沼 筑波大学の学生時代は、卒業するまでの4年間、ずっと悶々としていましたね。原田馨先生のもとで生命の起源を勉強したかったのに、「原田違い」で、原田宏先生のいる生物学類に入ってしまった。原田馨先生は生物学ではなく化学の先生なので、自然学類に入らなければいけなかったんですよ。
 それ以来、私の人生は「プチ挫折の連続」なので、すっかり心に「折れ癖」がついてしまいました。深海調査のために何年も準備して、ようやく潜水艇に乗る順番が回ってきたと思ったら、台風で中止になったりもしましたし(笑)。

──でも、いろいろな挫折を克服して今があるんですよね?

長沼 いや、克服なんか全然してないですよ。挫折のショックが薄まるのをじっと待つだけ。挫折は、数をこなして慣れてしまえば大丈夫なんですよ。

──いきなり結論が出てしまいました(笑)。でもそうは言っても、慣れるまでは大変でしょう?

長沼 たしかに、潜水艇の中止は最初はショックが大きかったけど、挫折も場数を踏んでいると、「しょうがないな」と受け入れられます。行き場のない怒りは、酒場で「なんでやねん!」とクダ巻いて晴らせばいいんですよ。潜水艇の船長に文句つけても仕方ないですからね。
 よく空港で、偉そうなおじさんが「なんで飛ばないんだ!」とか怒鳴ってるけど、悪天候で飛べないんだから、クレームつけたってしょうがないでしょ。クレームに対処する人たちは偉いなぁと思いますよ。私だったら、すぐに心が折れちゃいそう。ものすごくたくましいか、ものすごく鈍感なのかもしれませんね。
 私はたくましくなれないから、鈍感力を磨くことで挫折に耐えてるような気がする。

──これまでで、いちばんキツかった挫折は何ですか?

長沼 42歳のときに、いろいろなことが思うようにならず、「自分はもう研究者としてダメだ」と絶望的な気持ちになったことがあるんです。男の厄年ですから、それぐらいの時期に壁に突き当たる人は多いと思うのですが。
 人間はそういうとき、うまくいかない原因を自分の外部や内部に求めますよね。私の場合、一方では「あいつらはオレのことがわかっていない!」と他人のせいにして、周囲の人たちとのあいだに軋轢(あつれき)が生じました。その一方で「オレはどうしようもない」と自己否定をして、うつ状態にもなりましたね。

──具体的に何か大きな失敗があったわけではないんですか?

長沼 むしろ、「理論的な挫折」を先取りしてしまった感じです。
 たとえば会社でも、同期入社組の中で社長になれるのは1人いるかいないかですよね。出世競争を続けると、理論的には最後に1人を除いて全員が負けるわけです。スポーツの大会と同じこと。高校野球でも、優勝チーム以外はみんな敗退する。

──そういう「理論的な挫折」が研究者にもある?

長沼 当時はそう考えていたんですよ。研究者の多くは、28歳ぐらいで博士号を取得してプロになり、60歳から63歳ぐらいで定年を迎えますよね。その35年間の研究者人生を考えると、45歳がちょうど真ん中。それがピークで、それ以降は下り坂になる……実際はそんなことないんだけど、あのときはそう思い込んでいました。
 だとすると、42歳の自分は、あと2~3年のうちに大きな結果を出さなければならない。ところが現状は、論文の生産性も低く、研究費の申請も却下されたりしていたので、「もう間に合わない」と、敗北を先取りしてしまったわけです。

──そのときも、挫折のショックが薄まるのを待つだけだったんですか?

長沼 ビジネスマン向けの本なんかを読むと、「外部に責任転嫁してはいけない」と書いてあるので、そういうことは意識するようにしましたね。
 頑張って仕事をしてると、どうしても周囲のせいにしたくなるんですよ。自分は睡眠時間を削って必死に間に合わせたのに、それが良い結果につながらないと、一緒にやってる連中に向かって「おまえらは俺が働いてるあいだ寝てたんだろ!」なんて言いたくなる。
でもそれをやってると、最後は自分の心が折れるんです。逆に、自分が寝過ぎて人の足を引っ張るほうがいいですよ。「寝ちゃってゴメンね」と謝る立場のほうが、挫折は少ない(笑)。

──無理をしない生き方を身につけたんですね。

長沼 そういうことですね。宮城谷昌光さんの『楽毅』(がっき)という小説に出会ったのも大きかったな。楽毅は古代中国戦国時代の小国に生まれ、のちに名将として名を馳せた人物です。「毅」って自分の名前なので、まずタイトルだけで「ああそうか、無理しないで、好きな仕事を楽しめばいいんだよな」と思えました(笑)。

◆「課長止まり」の人生に納得したら、自由になれた

長沼 あと、挫折感から抜け出せたいちばんの決め手は、手相を見てもらったことです。

──手相? 将来を占ってもらったんですか。

長沼 あちこちで見てもらいましたよ。しまいには、京都タワーにあるコンピュータ手相占いまでやりましたからね。で、だいたいどこでも共通して言われたのが、「あんたは課長止まりだね」とのご託宣(笑)。
 課長クラスって、大学でいうと助教授、今でいう准教授なんですよ。会社にもよるだろうけど、課長の部下は数人から十数人程度でしょ? 助教授の学生数もそれぐらい。そのときすでに助教授だったから、「ああ、今がピークか」と思うと、気が楽になりましたね。学生の数も、それぐらいのほうが居心地がいいんです。部長レベルになると広く目配りしなきゃならないし、責任も重くなるから、自分にはしんどい。
 だから、それ以降は自分の半径2メートルぐらいで回せるような仕事をしようと思いました。それまでは半径20メートルや200メートルのことを考えようとしていたけど、そんなの自分には無理。

──それまでは、やはり教授になりたかったんですよね?

長沼 いつかはそうなると思っていたんでしょうね。業績的にも、その資格はありましたし。でも、目の上のたんこぶみたいな教授がいるので(笑)、なかなかなれない。それに対する不満も抱えていたわけですけど、「課長止まり」の人生に納得してからは、逆に「この人がいるかぎり、ずっと准教授でいられる」と思えるようになったんです。

──でも、このたび、ついに教授になられました。

長沼 前の教授が退任するのでね。それより半年早く「教授になれ」と言われたときは「絶対にイヤだ」と抵抗しましたけど、まあ、考えてみるとサラリーマン人生で初めての「昇進」ですから、素直に嬉しいですよ。「よく頑張ったね」と認めてもらえた気がするじゃないですか(笑)。

──42歳のときと今とでは、研究者として目指すものが変わったのでしょうか?

長沼 変わったと思いますよ。以前は「学界のトップになりたい」という気持ちがありましたが、今は誰もまだ手がけていないフロンティアに先鞭をつけて、未来のために地ならしをすることを考えています。たとえば、火星移住の方法とか。
 火星への移住なんて、実現するとしても22世紀の話だろうから、私なんかとっくに死んでるわけだけど、誰かがやらないと道もつけられないでしょ? そんな研究、論文も出せないし、研究費もつきませんよ。でも、誰もやらないことは競争もないから、自分の性に合ってるんです。
 ほかの分野でコツコツとヒットを打って日銭を稼ぎながら、みんながやらないことをやる。誰も足を踏み入れない原野を切り開く仕事は、自分のペースで好きなようにやれますから。

*後編[生命40億年の歴史を振り返れば、「挫折」は進化の発端]は、2月29日(月)に掲載予定です。

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