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2016.02.08

第1回

彼氏を作る意外な方法

瀧波 ユカリ

彼氏を作る意外な方法

「たけなわ期」を生きる全ての女性必読! 瀧波ユカリさんの文庫最新刊『女もたけなわ』(2月9日発売)より、試し読みをお届けします!


 すでに引きこもりの領域に入っているのでは……と自分でも心配になるくらい家にいる生活を好む私だが、20代前半のころには中国からインドまで陸路で旅をしたこともあった。理由を聞かれると、
「なんとなく、行きたくなったんだよね」
 などと当たり障りのない返答をしてきたのだが、今正直に言おう。私は、彼氏が欲しくて旅に出たのだ。
 明確な将来設計のないまま大学を卒業し、アルバイト生活に突入した私は愕然とした。出会いがないのだ。社会に出ると知り合える異性の絶対数はがくんと減る。バイト先では同僚と仲よくなるような時間的余裕もない。このままではいけない。何はなくとも彼氏が欲しかった私は決断した。環境を変えよう。留学だと勉強もしなければいけないので、ただの旅がいい。金がないので貧乏旅行だ。アジアだ。ドミトリーという大部屋に泊まって、大勢の男子と触れ合おう。着々と計画は進み、その夏私は意気揚々と中国へと旅立った。
 海外で日本人が通るルートや泊まる宿はだいたい決まっており、出会いには事欠かなかった。しかしこれといった相手を見つけられないまま旅程は進み、チベットの土を踏むころには私は同じ宿の男の子達から「アネゴ」と呼ばれ頼られる存在になっていた。ベッドの上が常に散らかっていて、何日もシャワーを浴びないことでも名を馳せた。おかしい。こんなはずではなかった。しかし居心地はよかった。車に乗り合わせてネパールまで抜ける際には、男5人女1人で移動しながら4泊5日という「紅一点ラブワゴン状態」であったにもかかわらず、色っぽいことは何ひとつなかった。チベット人の運転手は、
「どうして君達は女性を取り合わないんだ? 俺達の文化では考えられない」
 と言ったが、その運転手ですら私に手を出そうとはしなかった。私達は幾日もすし詰めになって移動し、寝食を共にし、野外で用を足す場所を奪い合った。ネパールで彼らと別れ、インドに到達したころには旅の目的も半ばどうでもよくなっていた。彼氏が欲しいという気持ちのおかげでいろんな経験ができた。それでよいではないか。
 しかし、その最終地点のインドで、ある女の子に私は激しく動揺させられることとなる。ショートカットで瞳が大きく、150㎝あるかないかくらいの少女のような可愛らしい子と、ある日私は同室になった。11㎏のバックパックを背負ってきた私と同じようなルートでここまで来たという彼女の装備は、身につけた貴重品袋以外はトートバッグひとつだけ。中には下着とTシャツとタオルが2セットずつ、それと歯ブラシ。それだけ。ほかに必要なものは人に借りるという。借りるというのも気を遣うのではと思ったが、すぐにその必要もないことがわかった。彼女は行く先々で恋をすることでその問題を解決していたのだ。そう、彼氏なら何だって貸してくれる! 彼女は宿に着いて数日後には、私のふたつ隣のベッドの男の子とねんごろになっていた。
 軽装備で旅するために彼氏を作る彼女。彼氏を作るために旅をしている私。目的と手段が真逆の彼女と私。目的のために手段を選ばないという姿勢は共通しているのに、私が目的を達成できないのは、真剣さの度合いが自分で思っているよりも低いということなのだろう。ベッドを散らかしてシャワーを拒んでいる場合ではなかった。それこそ、荷物を全部かなぐり捨てて退路を断つくらいの覚悟が必要だったのだ。しかしもう遅い。インドは暑かったのでシャワーは浴びるようになったが散らかし癖は直らないまま、私は消化試合のように残りの日程を過ごし、異国をあとにしたのであった。
 現在彼氏募集中の方は、軽装備で旅に出てみてはいかがでしょう。引きこもりの領域に入っている私から、まだ取り返しがつくあなたへの提言であります。
 

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関連書籍

瀧波ユカリ『女もたけなわ』
長い女の一生で、恋に仕事に遊びに全力で取り組む時間と体力があり、最高に盛り上がっている時期が、女の「たけなわ」。でも「たけなわ期」は、恥をかいたり、後悔したり、落ち込んだりの連続。そんな茨のたけなわ期を滑って転んでを繰り返しながら突っ走って見えてきたのは……。煩悩を笑い飛ばす、生きるヒント満載の反面教師的エッセイ。

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