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2016.02.03

スリランカ人占い師が作る日本酒入りカレー

イシコ

スリランカ人占い師が作る日本酒入りカレー

スリランカは宝石と占いの国

 よほど将来が危うく見えるのか、二十代の頃から占い師を紹介される機会が多い。

「数年後、女性の下着を売る仕事をするだろう」、「三十代で女性から硫酸をかけられるから気をつけなさい」、「前世は、アフリカでジャンベを叩いていたようですね」など、様々なことを言われてきた。前世は想像もつかないので、よくわからないが、未だに女性の下着を販売したことはなく、女性から硫酸をかけられることもなく四十代も後半を迎えた。

 料理する人と食べたい人をつなぐサイト「キッチハイク」を通じて、カレーを作るスリランカ人を見つけた。彼が経営する店を調べてみると占い師もされているようだ。占いはともかく、占い師の作るカレーには興味がある。しかもスリランカのカレーだ。

 インドやネパールなど他の国々のカレーとの違いは、ココナツが入っていることだろうか。ココナツを入れると聞くとマイルドな味になりそうだが、実は辛いカレーを好む人たちである。タイ料理や韓国料理などのように食べた瞬間から辛いのではなく、食べた後、じんわり汗をかく半身浴的なカレーというのが、僕が今まで食べてきたスリランカのカレーの印象である。

 インドの東南にある島国「スリランカ」は内戦の歴史も影響しているのか、化学調味料の概念が入ってこなかったと言われている。長い目でみると、それが、よかったのだろう。今では、スリランカに長く滞在していると身体が健康になり、素材本来の味に敏感になるという話まで聞いたことがある。

 小田急線代々木上原駅から歩いて数分のところにある彼の店で待ち合わせすることになった。占い師のイメージから、閉鎖的でおどろおどろしい雰囲気を想像していたが、路地裏にある店舗は下北沢や吉祥寺にありそうなオシャレな雑貨屋のような店構えである。

 窓越しに店内の様子を見ると、レジも兼ねた机では、スキンヘッドで眼鏡をかけたスリランカ人が座っていた。占い師というより、頭がキレるビジネスマンといった感じだった。

 店内に入ると、壁には空中の城で知られる「シーギリヤ」の写真が飾られ、ガラスケースに宝石がずらりと並んでいる。スリランカは世界有数の宝石産出国でもあるのだ。チャールズ皇太子がダイアナ妃に贈った指輪がスリランカ産だったと、スリランカ最大の都市コロンボに滞在中、聞いたことがある。教えてくれた人は詐欺師だったが、その話は本当だった。

「スグ シメマス。オマチクダサイ」

 椅子から立ち上がると店を閉める準備を始めた。薄いアイスブルーのシャツにジーンズ姿の店主は、背は高く、足が長い。つまりスタイルがいいのである。映画「王様と私」に登場するユル・ブリナーのような風貌だった。外国人にありがちな初対面で握手を求めることもなく、愛想笑いもない。決してテンションは高くなく、ベタベタしない空気感は、僕が今まで出会ってきたスリランカ人とは明らかに違った。

 

占い師の人生

「ウチ マデ アルキマス。イイデスカ?」

 彼は日本語だけではなく、英語、スペイン語、ヒンディー語も堪能らしい。

 スリランカも占星術が盛んな国だが、彼の場合、インドはデリーで占星術を学び、その後、イギリス、スペインで過ごした後、27年前、父親と供に知人の住む広島で、占いとジュエリーの店を始めた。来日11年目を迎えたある日、芸術家の日本人女性が彼の元に占いに客として現れ、その後、彼女と恋におち、結婚した。そして奥様が住む東京に移り、一緒に生活を始め、16年になるそうだ。閑静な高級住宅街の中を歩きながら、彼の半生をさらりとうかがった。

 二世帯住宅のような建物の二階部分が彼の家だった。10名近く座れそうな広いダイニングテーブルが置かれたリビングルームに通される。奥様は出掛けていた。

 ダイニングテーブルの上には、カレーに使用するハーブやスパイスが器に入れて並べられ、テーブルの周囲には、ジュエリーが入ったガラスケース、スリランカのココナッツの酒「アラック」やウィスキーが並ぶ棚など、スリランカの空気がいたるところに感じられる。しかし、占い師らしきものは見当たらない。「占い師らしきものって何?」と聞かれても、水晶玉くらいしか思い浮かばないけれど。

カレーに使うこれらのスパイスは、全てスリランカに持っている彼の畑で栽培しているらしい。

 彼は、袖のボタンをはずし、腕まくりをした。

「スグ デキマスカラ」

 出会って、ほとんど時間は経っていないが、彼は会話の中で、「スグ」という言葉をよく使う。

 カレーを作る様を見せてほしいと、お願いすると「モチロン イイデスヨ」と言って、キッチンに招き入れてくれた。四畳半程度の台所には、流し台、ガスレンジ、大きな冷蔵庫と一般家庭と変わりはない台所だが、様々な瓶に入ったハーブやスパイスが並んだ棚は目を引く。

 まずは炊飯器の釜を取り出し、米を放り込む。米櫃に使っている果実酒の瓶の米の中には唐辛子が入っていた。こうしておくと米に虫がつかないらしい。水道水を入れ、押し付けるように米を研ぐ様は日本人と変わらない。ただ、研いでいる米粒は長い。日本の米は水分が多すぎるので、カレーには向かないので、スリランカの米を使うと言う。彼は、スリランカに畑と田んぼを持っており。米はもちろんのこと、レモングラスやシナモンなどハーブやココナツも育てているそうだ。棚のハーブも米櫃の中の米も、唐辛子までもが彼の田畑で作られたものらしい。

 水加減を調節し、粉末を入れると水が黄色に濁った。カレーに添えられる「サフランライス」の元であるサフランなる植物の粉末だ。色は劇的に変わるが、味はなく、炊き立てのご飯の香りを際立たせるものである。

 冷蔵庫からタッパーを取り出した。その中に入った豚肉を元にした彼のオリジナルのペーストを、チキンの入った鍋に入れ、スリランカカレーには欠かせないココナツパウダーを入れる。後は、様々な調味料を足し、「カライノ ダイジョウブ?」と聞きながら、唐辛子もたっぷり入れる。

「コレモ イレマス」

 最後に日本酒も入れた。しかも新潟の銘酒「菊水」である。スリランカでは、日本酒のかわりに椰子から作られた酒「アラック」を入れる。

「アラック ヨリ ニホンシュ ノ ホウ ガ オイシクナリマス」

 彼は飲酒用の酒も、日本酒が一番好きだと言いながら、キッチンペーパーで台所の上を拭いた。かなりきれい好きのようで、料理しながら、使った道具は、すぐに洗い、台所の上に水滴が、少しでもはねていると。ロール状のキッチンペーパーを使ってこまめに拭きとっていく。

「カレー モウヒトツ ツクリマス」

 あっという間にチキンカレーを仕上げると、彼は、もうひとつ小さな鍋を取り出し、豆カレーを作り始めた。ペーストは同じだが、中にレンズ豆やひよこ豆を入れた「ダルカレー」と呼ばれる物で、単体で食べることもあるが、肉や魚のカレーに添え、もうひとつついてくるカレーである。僕らにとってのカレーは一食につきルーは一種類という感覚だが、彼らにとっては、おかずなの感覚である。よって、肉系のカレーと豆系のカレーが一緒に出るというのは、ごく普通のことなのだ。

ひよこ豆とレンズ豆を使ったダルカレー(豆カレー)。

 彼が「スグ」と言った通り、あっという間に二種類のカレーを作ってしまい、ご飯の炊きあがるのを待つのみになった。

 彼は首を小刻みに動かしながら、炊飯器を眺めていた。サフランライスが炊き上がらないことにいら立っているようだった。突然、炊飯器を開け、中に手を突っ込んだ。これは日本の米であれば、水分と粘り気が多いのでできないことであろう。ただ、スリランカの米であっても熱いことには違いないだろうが、彼はものともせず、手を突っ込んで、かき混ぜた。炊飯器を途中で開けてかき混ぜる人を初めて見た。彼曰く、その方が早く炊き上がるらしい。

「スグ デキマスカラ スワッテ マッテイテクダサイ」

 リビングに戻り、椅子に座った。

 

カレーをつまみの日本酒も悪くない

「オサケ ノミマスカ?」

 豆で作られた煎餅「パパダム」と一緒に、グラスに日本酒を注いで出してくれた。先程、カレーにも入れた「菊水」である。香ばしいパパダムをポリポリ噛みしめ、辛口の純米大吟醸を味わう。悪くない。

 チキンカレーとダルカレーの器と何も載っていない大皿をテーブルに置いたところで、炊飯器から炊き上がったことを知らせるブザーが鳴った。サフランライスを大きな木の器に移し替え、テーブルの上に並べた。そして、大きな木のスプーンで大皿に、それぞれ好きなだけよそって食べる。

 彼はサフランライスにカレーをかけた上から、手慣れた手つきでパパダムを粉々にして載せ、手で混ぜて食べ始めた。やはりカレーは手で食べた方が美味しいのである。スプーンとフォークも出してくれたが、僕も手で食べることにした。

辛口のカレーを甘口のカレーと混ぜ合わせながら食べるというのもスリランカカレーの特徴。この日は、どちらのカレーも辛口にしてもらったけどね。
パパダムは、そのまま食べてもいいが、カレーの上にかけても美味しい。ちなみにインドでは、「パパド」と呼ぶ。

 彼は左利きのようで、左手で食べていた。ヒンズー教ではないのだろう。ヒンズー教やイスラム教であれば、左手は不浄の手として食べる際には使わないと言われている。一瞬、そのことについて聞こうかとも思ったが、占い師に宗教の話を聞くことに抵抗を感じてしまい、どこの国が一番住みやすいかというあたりさわりのない質問をしていた。

 日本が一番住みやすいと返ってきた。

「ニホンジン ヒト ガ イイネ。ヤサシイ。インド? イチバン キライデス」

 ボディブローのように辛さが効いてくる。じわじわとデトックス的に汗が吹き出し始め、いつしかティッシュが欠かせなくなっていた。彼は、全く汗をかいておらず、僕の質問に淡々と答え、食べ終わると早々に席を立った。いくつもの仕事をこなす頭の回転が早い人と食べる時の雰囲気である。

 彼は再びキッチンに戻り、作ったカレーをタッパーに詰め始め、次々と冷蔵庫に閉まっていった。僕も食事を終え、残った日本酒を飲み干すと、「ありがとうございました」と席を立った。彼と店で出会ってから、家まで歩き、カレーを作って、テーブルで食べ終わるまで、約一時間半という短い時間である。まさに「スグ」終わってしまった夕食だった。

「なぜ、占い師になろうと思ったのか?」、「どうしてスリランカではなく、インドで占いの勉強をしたのか?」、「自分を占うことはできるのか?」など、昔から占い師にプライベートで会う機会があったら聞こうと思っていたが、いざ彼にあったら占いについては、ある一線より先には踏み込ませない雰囲気を漂わせているように感じた。

 ただ、占い以外の仕事については、よく話してくれた。ジュエリーを輸入販売し、スリランカでハーブ園を持ち、旅行代理店まで営んでいる。彼の兄弟や親戚も、イギリスやスペインでカレー屋を持つ実業家一族だという。

「アサッテ カラ チュウゴク ト インド シュッチョウ デス」

 あくまで占いは彼の仕事の一部で実業家としての側面が強いのかもしれない。なんだか、そんな彼に占ってもらいたくなってきた。

 

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