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2016.02.01

第4回 ライフネット生命会長兼CEO・出口治明

(後編)
「仕事での挫折=人生の失敗」とは考えない

出口 治明

(後編)<br />「仕事での挫折=人生の失敗」とは考えない

 旅に出て、歴史に学び、人と話す──。前編では「勉強こそ挫折に対する一番の抵抗力になる」と語ってくれたライフネット生命・出口治明会長。しかしその一方で、日本が国際的に“低学歴”であることをデータで示しながら、「日本の大人は勉強していない」という厳しいご指摘も……。では、どうすればいいのか。その鍵は、「数字・ファクト・ロジック」で考える“算数の視点”にあるようです。
                       (構成:清田隆之 写真:菊岡俊子)


肩書きは「2000時間」で使っている“機能”に過ぎない

──前編で出口さんは、かつての左遷経験を語ってくれました。特に日本の男性は“地位”や“肩書き”にこだわる傾向が強いように感じますが、そういった人でも「知ること」によって挫折を乗り越えられるものなのでしょうか?

出口 確かに日本は肩書き社会なので、地位や肩書きにこだわる人が多いですね。その特徴が名刺です。日本人は会うとまず名刺交換をするし、例えば定年で会社を辞めた人に会うと、「今はこんな個人名刺で申し訳ありません」と謝られることが多い。つまり「こんな肩書きのない名刺を出してすみません」という、その人なりの気遣いだと思いますが、肩書きというのはあくまで「ファンクション(機能)」に過ぎないのです。
 ファンクションは代替可能なので、例えば僕には今「ライフネット生命の代表取締役会長兼CEO」という肩書きがついていますが、この機能(肩書き)を代替できる人は正直ほかにもいると思います。でも、この「出口治明」という人間は誰とも代替できません。こう書くと当たり前のように思えますが、でもこの当たり前のことをわかっていない人が案外多いように思います。それをしっかり意識するために必要なのが“算数の視点”なのです。

──算数の視点? それはどういうことですか?

出口 1年間は何時間あるかご存じですか? 答えは1日24時間×365日で「8760時間」です。では、そのうちのどのくらいを仕事に費やしているのかというと、残業を入れてもせいぜい「2000時間」です。肩書きというのは、この2000時間で使っている機能に過ぎません。割合で言えば全体の2割ちょっとです。一方のプライベート(ライフ)の6760時間はどうでしょう。例えば僕で言えば、パートナーだったり、お父さんだったり、おじいちゃんだったり、仲良しの友達だったりするわけです。それは、ライフネット生命の会長とは全然関係のない世界です。このように数字で考えてみれば、物事がクリアに見えてきませんか?

“酒飲みのおっさん”として名を残したウマル=ハイヤーム

──確かに、仕事って人生の一部分に過ぎないんだなという気がしてきました。

出口 私たちは2~3割の時間で仕事をし、7~8割の時間で食べて、寝て、遊んで、子育てをしています。要するに「生活」です。つまり何が言いたいのかというと、「2~3割の時間(ワーク)より7~8割の時間(ライフ)の方が大切ではないですか?」ということです。地位や肩書きにこだわったり、仕事での挫折を人生の失敗のように感じたりしてしまう人は、おそらくこの「8760:2000」という計数感覚が乏しい人だと思います。
 もちろん、具体的な割合は人それぞれでいいのですが、とにかく一度こうやって数字を眺めた上で、自分に適した「ライフ・ワーク・バランス」を考えることが大事なのだと思います。数字というのは絶対的な事実、つまり「ファクト」ですから。漠然と「仕事がすべて」と思い込んでいる人には、ぜひ数字で考える“算数の視点”を導入し、脳みそを柔らかくしてみることをオススメします。

──「数字・ファクト・ロジック」なんて聞くと堅苦しい印象も抱きますが、「実態を正確に把握できる」という点で、実はすごく心を軽くしてくれる視点なんですね。

出口 僕は今でも日本生命時代の仲間と飲むことが多いのですが、会社を辞めてからますます元気になっている人が多いのです。素晴らしい絵を描いたり俳句を作ったりする人もたくさんいる。「あの人にこんな才能があったのか」と驚かされます。会社時代はおとなしく働いていたから、まさか絵や俳句の才能があるなんて、誰も知らなかった。要するにこれが「2000時間」と「6760時間」の違いであり、仕事や職場がすべてではないということを明瞭に物語っています。
 かの有名なペルシャの詩人ウマル=ハイヤームは『ルバイヤート』という詩集の著者として後世に名を残していますが、実はこの人は、ペルシャの偉大なる官僚にして、現在のイラン暦の元になった「ジャラーリー暦」を作った大天文学者でもあるのです。『ルバイヤート』は「酒を飲んで酔いつぶれることがいかに楽しいか」といった作品が満載されている詩集ですが、これだけバシッと仕事をした人が、後世には“酒飲みのおっさん”というイメージで語り継がれている(笑)。これっておもしろいでしょ?
 ウマル=ハイヤームは2000時間ですごい仕事をしながら、6760時間を楽しんだ人なのです。1000年経っても「酒を飲んだら楽しい」という詩が残っているわけですから、詩人冥利、それから酒飲み冥利にも尽きるでしょう。暦を作ったとか、大官僚だったとか、それらはきっと本人はどうでもいいことだと思っているはずです。

政府がセーフティネットを整えることも大事

──なるほど。そう考えると、「6760時間を楽しんだもの勝ちだな」という気がしてきました(笑)。

出口 ある本に、人間という動物は普通にご飯が食べられて、温かい寝床があって、たまにお酒が飲めて、産みたいときに赤ちゃんが産めて、好きなことを自由に言える友人がいれば、それで十分幸せなのだ、と書かれていました。僕も心底そう思います。
 だから、各々がしっかり勉強をして挫折に対する抵抗力をつけることももちろん大事ですが、それと同時に、人が仕事で挫折したときでも最低限の暮らしができるようなベースを、政府がきちんと整えることも同じくらい大切です。今はそれができておらず、だから「仕事をクビになったら転落してしまう」などと考えてしまう。仕事上の挫折を必要以上に重く受けとめてしまうのは、「政府がきちんとセーフティネットを用意していない」という社会構造的な問題でもあると思います。

──確かにそれが整えば、「仕事を辞めていったん休憩しよう」みたいな発想になれるかもしれませんね。

出口 そのためにまず政府がやるべきは、「厚生年金・健康保険の適用拡大」です。細かな制度の話をすると長くなってしまうので割愛しますが、厚生年金というのは「被用者(雇われている人)」のための年金です。ところが今は原則、週に30時間働かないと適用されないという仕組みになってしまっている。本来ならこれは大変おかしいことで、被用者なら週に30時間働こうが2時間働こうが、やるべき仕事をやっていたら厚生年金が適用されてしかるべきです。厚生年金と健康保険の適用拡大を行えば誰もが安心して働けるようになりますし、なおかつ「火曜日と金曜日に仕事をする」といったことも可能になり、働き方が多様化します。
 これは何も珍しいことではなく、ドイツの元首相シュレーダーが行った「アジェンダ2010」という大構造改革のモノマネです。企業は人を雇う以上、その人の生活に責任を持つのは当たり前のこと。確かに瞬間的には企業の負担も大きくなりますが、長い目で見れば安定に向かいます。事実ドイツは、これで経済が強くなりました。

人生の楽しみは“喜怒哀楽の総量”で決まる

──個人としては勉強をしていろんなことを知り、社会としては政府がセーフティネットを整備していく。挫折に対する処方箋として、この2本柱が大事というわけですね。

出口 もっとも、人生の挫折が絶対に悪いものだとも思いません。僕は「人生の楽しみは喜怒哀楽の総量で決まる」と思っています。例えば失恋して「-500」落ち込み、今度は新しい恋人が出来て「+500」喜ぶとします。これって「±0」ではなく、絶対値で「1000」だと思うのです。スイカに塩を少し振るとおいしさが増すのは、「甘い」と「しょっぱい」の総量が増えるからです。
 だから人生に挫折したときは「ラッキー! これでまた喜怒哀楽の総量が増えた」と思えばそれでいいし、そういう意味では、挫折も人生の素晴らしい体験になるのだと思います。

                                     (了)
 

 

 

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