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2016.01.25

読み手の心に刻まれる、至極真っ当な健康論(田中旨夫『97歳現役医師が悟った体の整え方』)

羽田 圭介

読み手の心に刻まれる、至極真っ当な健康論(田中旨夫『97歳現役医師が悟った体の整え方』)

『97歳現役医師が悟った体の整え方』
田中旨夫
幻冬舎刊/1000円(税別)

 

 若い貧乏人や若い暇人は、健康な身体を有している場合が多い。数ヶ月前までの自分もそうだった。外食をする金がもったいないから、毎食毎にちょっとした自炊をする。鳥肉を使った料理やカレーをまとめて作ったり、一応健康には気をつかい野菜を買いはするが洗って切っただけの至極シンプルなサラダ。年齢を重ねたセレブやモデルみたいに、贅沢をした上でたどりついた、素材の味を楽しむ生野菜ではなく、貧乏人がなんとか最低限度の栄養バランスを保つための生野菜だ。運動にしたってそうだ。多忙な社会人なんかは、なんとか時間を捻出し、深夜までやっている高額料金帯のスポーツジムなんかに月数度通い、短時間で効率よく身体を鍛える。貧乏人や暇人は、金がないからスポーツジムへは通えないものの、時間だけはあるから毎日延々とジョギングしたり腕立て伏せをしたりはできる。小説を書く以外の用事が特になかったちょっと前までの僕も、体型維持のための運動をする時間には事欠かなかった。

 しかし最近は、ブクブクと太っている。芥川賞を受賞した七月半ばから九月いっぱいにかけての肥満化がひどかった。色々な紙媒体からの取材の折、受賞を記念して、お菓子の差し入れをたくさんもらった。特に、女性誌等オシャレな雑誌媒体の差し入れは凝っていて、家に持ち帰りちょっと一口のつもりが、全部食べてしまう。仕事や取材、収録で忙しいと、思いの外各社の経費で美食に舌づつみをうつ機会などない。接待で食事をする機会は、なんなら芥川賞受賞前のほうが多かった。そのかわり、テレビ局の楽屋に用意される弁当を食べるようになった。出演者とそのマネージャーのぶんとで二つ用意されている場合が多い。予算が潤沢な番組だと種類違いの弁当が三つ以上用意されていたり、廊下の置き場にはまた別の弁当が用意されていたりも。何度も休憩をはさむ長時間収録番組なんかで、牛肉弁当も魚弁当も中華弁当も食べたい、となったらもう己の食欲を止めることはできず、数時間のうちに弁当三つをすべてたいらげてしまったりする。そして、帰りは送りのタクシーを出してもらう。ドア・トゥー・ドアで移動するから運動量も減り、夜に帰宅すると、神経が疲弊しているからか一時間は仮眠をとってしまう。中途半端に寝るから眠気は消え、事務作業をこなし翌日の支度をしてもなかなか眠気はやってこない。睡眠時間はあるはずなのになかなか眠れず、翌日を迎える。なにか、ひどく不健康な生活を送っている気がする……。そんなふうに思う日々の中で、本書を読んだ。

 〈日頃から体によい習慣を積み重ねている人は、一つくらい大きなマイナスのことがあっても、体にはほとんど影響しないことが多い〉〈本当の健康とは、たくさんのよい習慣が掛け算のようになって生まれるもの〉〈健康の秘訣というものは/至極真っ当で当たり前のことを、どれだけ習慣として取り入れられるか、にある〉。九七歳の現役医師である著者による言葉だ。説得力がある。しかしそれだけで人は納得できない。当たり前のことほど、他者に納得させるのに手間がかかる。〈食べたいときに食べて寝たいときに寝るような生活こそ、人間の本能からすれば自然であり、だから体にもいいんだと思っている人がたまにいますが、それは違う/規則正しい生活が体によいのは、ちゃんと医学的に根拠のあること〉。最近、縄文人の頃から人間のDNAは一パーセントも変わっていないのだから、色々なことは己の主観的な欲求や快・不快に従って行動するほうが正しいという考え方が増えてきている。それをいきなり、人間的に律するべきだと斬り、その理由を説明する。他の例としても、〈粗食を続けることは、健康を害する危険がある/新型の栄養失調になる人が少なくない〉という考え方には意外性があった。最近は、己を空腹状態におくことで眠れる潜在能力を引き出せ、みたいな本がたくさん出ているので。

 最もしびれたのは28章の、〈老人の体は甘やかすと、あっという間に衰えます〉。仕事を引退した人が送る「ゆとりがたっぷりある生活」はストレスとも無縁で健康に良さそうに見えるが、ボケやすく新陳代謝が悪くなり免疫力も低下し病気にかかりやすくなるのだという。〈仕事を続けたり、ボランティア活動に精を出したり、あるいは趣味に没頭していたりする高齢者は、やはり病気にかからず、元気な人が多い〉。そして個人的に本書で最も好きな箇所が次の文、〈私がこの歳まで元気でいられるのは、休まないで働き続けているからに他なりません。/私にとって休息は、毎日40分の昼寝と8時間の睡眠だけで十分なのです〉。

 批評性のある言葉をここまでさらっと言われてしまっては、ただただうなずくしかない。自分の健康のためにああだこうだとか言っていないで、明日からも淡々と仕事に没頭します。

『ポンツーン』2016年1月号より

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