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2016.01.25

第4回 ライフネット生命会長兼CEO・出口治明

(前編)
挫折に対する一番の抵抗力は「勉強」

出口 治明

(前編)<br />挫折に対する一番の抵抗力は「勉強」

“ネット生保”という新たな地平を切り拓くライフネット生命。この新進気鋭のベンチャーを還暦というタイミングで開業し、現在も会長兼CEOとして会社を牽引する出口治明さん。京都大学法学部を卒業し、日本生命で要職を歴任。『人生を面白くする 本物の教養』(小社刊)、『生命保険とのつき合い方』(岩波新書)など多数の著書があり、今年に入ってからも『働く君に伝えたいお金の教養』(ポプラ社)、『「全世界史」講義Ⅰ 古代・中世編』『「全世界史」講義Ⅱ 近世・近現代編』(新潮社)を立て続けに出版。メディアのオピニオンリーダーとしても活躍する出口さんですが、はたして挫折の経験などあるのでしょうか?

(構成:清田隆之 写真:菊岡俊子)

ショックで部屋から出られなくなった失恋体験

──正直、出口さんに「挫折」という言葉はあまり似合わないような気もしますが……。

出口 いえいえ、そんなことはありません。人生で初めて味わった挫折は小学6年生のときの「失恋」です。人間は動物です。動物はいいパートナーを見つけて子どもをつくり、自分の遺伝子をコピーして残していくことが、大事な仕事の1つです。だから、人に恋をしてフラれるということは、人間にとってはとても大きな挫折なんですよ。

──それは具体的に、どんな失恋だったのでしょう?

出口 当時、僕はミホコさんというクラスメイトを何となく好きになっていたのですが、当時のことですから全然声などはかけられませんでした。でも、彼女の方を見るといつもニッコリしてくれるのです。それを思いきって親友の男友達に話したら、「俺にもニッコリしてくれるで」と言われ……。つまり、ミホコさんは誰にでも目が合ったらニッコリしていたのですが、それにショックを受け、しばらくは部屋に閉じこもる日々を送りました。つまり、告白すらしていない失恋ということです(笑)。

新社長との衝突、そして営業部への左遷……

──世界中の男子が共感する甘酸っぱいエピソードですね。

出口 もっとわかりやすい挫折で言うと、日本生命時代、当時の新社長と衝突して国際業務部長から営業部門に左遷されたこともありました。僕は40代の中頃にロンドン事務所で働いていましたが、そこで「保険業界のグローバリゼーションは不可逆的だな」と確信しました。そのあと国際業務部長になり、「2020年に収益と売り上げの2割を海外から稼ぐ会社にしなければ」と思い立ち、「グローバル20」という計画を役員会に上げたのです。1996年に2020年の話などしたので、会議ではさんざん反対もされましたが、計画自体はなぜか役員会を通ってしまいました。それで僕は張り切って取り組み始めたのですが、そのタイミングで社長が交代してしまい……。

──そこで衝突が起こった?

出口 はい。ときはバブルの崩壊後で、新社長は「今は国内に専心注力してセールスを増やし、基盤を固めるとき」という意見の人でした。そして、「こんな大変なときに海外進出とか夢みたいなことを言うな」ということで、計画はお蔵入りになりました。
 新社長の言うことは短期的には確かにその通りなのですが、当時の日本生命は世界有数の保険会社であり、10年先20年先の種をまいておくべきだというのが僕の意見でした。新社長の方針に納得できず、「海外に目を向けていかなければ、現在の規模をキープできないことは明らか。100年の計を考えれば、ここは方針を変えるべきではありません」と食い下がったのですが、この衝突により、国際業務部長の職を解かれて営業部門へ左遷されました。

歴史上には、自分と同じような挫折体験が山ほどある

──まるでドラマのようなお話ですね……。

出口 でも、正直言うと、大して落ち込むことはありませんでした。そのとき思い出したのが、イスラム初期の軍人ハーリド・イブン・アル=ワリードのことでした。ハーリドは“神の剣”の異名を持つ武将ですが、当時のカリフ(最高指導者)だったウマルから疎ましく思われていました。それでハーリドは、ローマ帝国と雌雄を決する「ヤムルークの戦い」を指揮して見事勝利を収めたにもかかわらず、ウマルによって罷免されてしまった。つまり、左遷されたのです。
 このような話は歴史上にたくさんあって、あれだけの大功を上げたハーリドですら、トップと合わなければクビになる。「合わない部下を置いておくトップはいない」というのは昔からよくある話で、僕の一件にしたところで、たまたま自分が海外部門を統括していたときに、海外事業を重視しない人がトップになっただけだという話です。ウマルとハーリドの関係を矮小化したものだと思えば、あまり気にもならなかった。新社長が就任して以来、何回も衝突していたので、辞令をもらったときは「やっぱり」と思った。そのときふと思い浮かんだのがハーリドだったのです。

──歴史に学ぶというのは、『人生を面白くする 本物の教養』などにも度々出てくるお話ですね。

出口 自分と同じような経験をしている人は、歴史上にいくらでもいます。かの偉大な哲学者ニーチェだって実は女性にフラれまくっていたようで、「失恋することで人間は寛容になる」などという言葉を残しているくらいです(笑)。
 人がなぜ落ちこむのかといえば、「自分だけが」と思うからです。人間は自尊心の強い動物だから致し方ない部分もありますが、たくさん本を読み、人の話をたくさん聞けば、挫折の話は山ほどあることがよくわかる。それを知ると、「みんなも同じだな」「自分だけが例外ではないんだな」ということが実感できます。自分が多数派だとわかれば、さほど落ち込むことはありません。
 つまり、歴史に限らず「いろいろなことを知る」ことが挫折に対する一番の抵抗力になるわけですが、そこが今の日本に最も足りないところで……。

データで見れば、日本は国際平均に比べて“低学歴”な国

──それはどういうことでしょう?

出口 簡単に言えば「日本人は勉強していない」ということです。これは各種データを見れば一目瞭然です。例えば日本の大学進学率は50%ちょっとですが、これは34の先進国が加盟するOECD(経済協力開発機構)の平均(約60%)に比べてかなり低めです。また、25歳以上の大学入学者の割合も、日本は世界の平均より圧倒的に低いし、人口100万人あたりの修士号・博士号の取得者数も同様に低い。つまり、意外に思うかもしれませんが、日本は国際的に見て“低学歴”の国なのです。大学生は勉強しないし、社会人の大学入学者も少ないわけで、特に「大人」が勉強していない。これはデータが指し示している事実です。

──「日本人は勤勉」というイメージがありましたが、違ったんですね……。

出口 勉強していないということは、「ケーススタディを学んでいない」のと同義です。スポーツで言えば「練習が足りない」ということですね。何も知らないと自分が肥大化して「俺が俺が」の発想になったり、的外れな精神論に突っ走ったりしてしまう。しかし、勉強すれば、視野が広がり、自分を相対化する力が養われます。
 例えば、かつてドイツの首相を務めたヴィリー・ブラントは、大変なことが起こったらとにかく旅に出かけ、自分を取り戻すということをしていたそうです。旅というのは外の世界を知り、自分自身を日常から、時間的にも空間的にも切り離す営為です。ブラントは旅に出ることによって「社会民主党の党首」から「一介の旅人」になり、そうやって時間と空間を広げ、物事を外から見つめ直していたのです。悩んでいるところだけに閉じこもっていると、どうしても堂々めぐりになってしまいますからね。

知識や経験は「気分転換のツール」になる

──なるほど。読書も旅行も己の視野を広げてくれる勉強というわけですね。

出口 要するに気分転換が大事という話なのですが、気分転換にも「ツール」が必要です。勉強をしていろいろなことを知るというのは、つまり気分転換のツールをたくさん手にするということです。
 僕は昔から「本・旅・人」が大事と言っているのですが、書物で知見を深め、旅で自分を相対化し、酒を飲んで自由に愚痴をこぼせる友人がいれば、それだけで挫折に対する抵抗力はかなり強くなる。僕も営業部門に左遷されたとき、本・旅・人のおかげで落ちこまずに済み、むしろ「暇になって賢くなる時間が増えた」とすら思えました(笑)。日本中の「一宮(出雲大社や厳島神社など社格の高い神社)」をめぐったり、大学院で講師の仕事をしたりしました。挫折に見える経験をしたとしても、いくつかのツールがあれば気分転換もできるし、その状況を楽しむことだってできると思います。


*後編は2月1日(月)に掲載予定です。

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