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2016.01.24

第二十八回

懐の浅い男

小嶋 陽太郎

懐の浅い男

 前回、イッカクヲセンスオトコ・ザキヤマのことを書いたら、ザキヤマから「なにを勝手にわしのこと書いとんねん」と怒られた。イッカクヲセンス男ならそのくらいでピーピーと騒がないでほしい。フトコロノアサイオトコ・ザキヤマである。
 ザキヤマは僕の仕事に関心がないから僕が書く小説もここのコラムもとくに読まない(というかこいつはアホすぎて字を読む能力がないから読めない)。なのに、なぜ勝手に書いたことがばれたのか。
 こっちだって、ザキヤマがこれを読むとは思っていないからあいつはバカだとかアホだとかアルパカに似てるとか飯食ったときの会計時に十円単位で争ってくるのがほんとにヤダとかいったことを好き勝手に書けるのに、ばれてしまうのでは少しやりにくい。
 ザキヤマには彼女がいる。仮にKさんとする(彼女のKで)。どうやらKさんづたいにばれたらしいのだ。
 僕はKさんと面識はない。しかし写真を見せてもらったことはある。たしか一年半くらい前のことだった。
「へー、ザキヤマの彼女ね。どんなブスが出てくんのかしら、笑ってやろうケケケッ」とワクワクしながらザキヤマのスマホを覗き込んだところ(最低)、読書と睡眠とどんぐりが好き、みたいな雰囲気の理想的なショートカットのキュートガール(ショートカットが好きだ僕は)が映っていたので僕はブチ切れた。ブチブチブチ切れた。白目になって「破局しろ!」と喚き散らした。
 まあそれはおいといて、そのKさんがなんと「新人作家は今日も~」をちょくちょく読んでくれているみたいなのだ。そしてKさんづたいにばれた。怒られた。
「なにを勝手にわしのことを書いとんねんコジマ」
「あ、ばれたか」
「『一線を画す』を間違えて『イッカクヲセンス』と言ってしまったことをおまえはネタにしやがったけど、そんな間違い方をするのはおれくらいだ。『一線を画す』より『イッカクヲセンス』のほうが響き的にスマートだし、間違い方ひとつとっても、そういうセンスのある間違いをするところが(イッカクヲセンスだけに)、おれがそこらへんの凡百の男どもと一線を画すと評されるゆえんだ。むしろ言葉なんて正確に知っていればそれでいいというものではないし、そもそも日本語なんて解釈とアレンジ次第で……」
 なにかよくわからないが、ザキヤマはいかに自分のセンスが優れているかみたいなことをアホ論理で語りはじめたので僕は引いた。わりと本気で引いた。うるせーし必死だし、ほんとしょうもねえなこいつ……。
 やがてザキヤマの語りが終わったところで僕は拍手とともに言った。
「うん、そのとおりだね。やっぱりおまえはセンスの塊みたいな男だなあ。友人として鼻が高いやっ」
「へへへ、ありがとな」とザキヤマは言って鼻の頭をかいた。
 なんてポジティブでステキな友達を僕は持ったんだろう……。
 それはともかく、ザキヤマはKさんのことが好きすぎて、会うたびに彼女がいかにかわいいかということと、いかに好きかということを話してくる。顔がかわいいとか、ふとしたときの仕草がかわいいとか、存在そのものがかわいいとか。他人の幸福自慢ほど不愉快なものはないというけど、はっきりいって僕は彼のKさん自慢を聞くたびに、とても幸せな気持ちになる。
 僕は友達として本当にザキヤマのことを尊敬しているし、彼には幸せになってほしい。彼が幸せだと、僕もうれしい。それが友達というものじゃないか? だから彼にかわいい彼女ができて、順調に愛をはぐくんでいるという、その事態を僕はとても喜ばしく思う。我がことのように喜ばしく思う。ザキヤマみたいないい男が幸せにならずして、いったいだれが幸せになるべきだというんだ? 次飯食うときも、たくさんKさんの話聞かせてくれよな、ザキヤマ。――これが、ザキヤマの友でありよき理解者としての、僕の偽らざる本音だ。
 と、万が一この記事がばれたときのためにご機嫌取りでザキヤマを持ち上げたところで今回は筆をおく。

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