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2016.01.09

第二十七回

一線を画す男

小嶋 陽太郎

一線を画す男

 あけましておめでとうございます。
 年末に帰省してきたザキヤマと居酒屋に行った。(そいつの苗字はヤマザキでもザキヤマでもなくヨシザキというんだけど、僕は二十回に一回くらいのわりあいでザキヤマと呼んでいるのでザキヤマでいいだろう)
 ザキヤマは去年の四月から働きだした男で、どこぞで家具デザインだかなんだかの仕事をしている。
 デザイナーになりたいというような浮ついたことをわりと前から言っていたやつだから、だいたい夢をかなえたことにはなるのだろう。エライなあと思ったので、僕はビールを飲みながら彼を持ち上げて、
「見どころのある男分布みたいなのがあるとしたら、おまえは上位五パーセントに入る程度には見どころのある男だと思うよ」
 と言ってあげた。
 するとザキヤマはこう言った。
「そんなことはおれ自身がいちばんわかっている。おれは間違いなく人間として魅力的だし、見どころのある男だ」と。
「……あ、ああ……ああそうか。そうだよな、うん、そうだな。強いて言うまでもなかった、そうだなすまん……」と僕は言った。
「おれはそこらへんの、並みの男とはイッカクヲセンス男だからな」
「――イッカクヲセンス……一線を画す?」
「そう、なにしろ一線を画す男だからね、おれは」
 ザキヤマは何事もなかったかのように言い直した。一線つーか何も画せてねーしこいつバカだなと僕は思った。
 僕たちは数時間あれこれとしゃべりながら(主にはいかにザキヤマがその他の男と一線を画しているかということについて)酒を飲み、27時くらいに居酒屋でザキヤマが寝たので、蹴り起こしてタクシーにぶち込み解散した。
 翌日の昼間に、二人で銭湯に行くことになった。
 ザキヤマの赤くてぼろいダイハツの軽自動車で僕の家まで迎えに来てもらい銭湯に向かう。700円を自販機で払ってチケットを買い、服を脱いで風呂場に侵入していくといくつかの種類の風呂があった。サウナもあり、しかもふつうのサウナと塩サウナと二種類あったので僕は塩サウナとはなんぞ、と思った。
 塩サウナの中は40度の低温で、入ってすぐに汗だくになるという具合ではなかった。プールサイドにおいてあるようなイスが壁の両側に向かい合う形で三つずつ、合計六つあった。奥には塩が山盛りになった桶のようなものがあり、説明文を読むとどうやらそれを体に塗り込んでじっとり汗をかくとイイ感じ、肌にツヤとかが出る、ということらしかった。体温が上がってやや汗ばんできたころに塗るといいと書いてあったので僕はそれを実践することにし、ひとまずイスに座って汗をかくことにした。
 どの程度汗ばんでから塩を塗り込めばいいのだろう、と考えながら待機していると、じいさんがひとり入ってきた。じいさんは入ってきてすぐ塩桶に向かって一直線に歩いていった。そして塩桶の塩を山盛りにつかみ、バッチンバッチンと体中に塗り込むつーか叩き込み始めた。驚いたのは、じいさんが塩を本当に、体中くまなく叩き込んでいたことだ。体中というのは頭の先から足の先までということで、つまりそこには股間も含まれる。
 僕はじいさんが目の前で股間に塩を叩きつけ、浸透させていく様を唖然として見ていた。ヒ、ヒリヒリしないのかな、だって塩だし、股間だ。
 それから、じいさんの頭には髪の毛がほとんどなかったんだけど、シャンプー的な要領で塩を両手につかみ、ぐりぐりざらざらとむき出しの頭皮に擦り込みまくっていた。たぶん発毛効果があると信じているのだろう。しかしもう一回言うけど、痛くないのかな……。
 じいさんの塩叩き込みが落ち着いてから(じいさんの叩き込みが終わった時点で、塩桶の塩はもとあった半分以下になっていた)僕はそろそろと塩をつかみ、試しに腕とか足とか腹に塗ってみた。でも、少し時間がたってなんとなくヒリヒリしてきたのですぐに水で流してお湯につかった。あれを股間に擦り込んでいたなんて、一線を画す男とはザキヤマみたいなバカな自信過剰野郎ではなく、こういう人のことを言うんだなあと僕は感心した。
 そんなこんなで、2016年の僕の目標は一線を画す男になる、です。

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