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2016.01.17

第3回 作家 山口恵以子

(後編)
お見合い43回の末、小説と結婚!? 

山口 恵以子

(後編)<br />お見合い43回の末、小説と結婚!? 

めくるめくような恋愛小説もお書きになる山口さん自身の恋愛はというと……高校の先輩に15年も片想いし続けた後に、お見合いを繰り返すこと43回! いまだ独身を貫く山口さんは「小説と結婚した」と言われるほど、小説を書いているだけで幸せなのだそう。そもそも結婚はしなくてはいけないものなのか? みんなと同じでなければいけないのか? 幾多の波乱と困難を乗り越えてきた山口さんに教わる、自分だけの道で自分だけの幸せを見つける方法。
(構成:日野淳 撮影:菊岡俊子)

書いていくうちに愛というテーマに辿り着いた

——最新刊の『早春賦』をとても面白く読ませて頂きました。主人公・菊乃のどんな困難を前にしても志を貫いていく生き方に胸を撃たれました。

山口 ありがとうございます。昔、漫画として菊乃の娘の早紀子という女性の物語を書いていたんです。その背景として菊乃という母親のこともチラッとは考えていたのですが、小説を書き始めたら思いも寄らない展開になって。漫画の時とはほとんど関係のない話になりましたね。

——本当の愛とはなにか、成熟とはなにかという物語とも読めました。そのテーマはどこから生まれてきたのでしょうか。

山口 最初から意図があってそういうふうになったのではなくて、書いていくうちにそうなったということです。菊乃についてはなんとなく分かっていること……政略結婚をしたんだけど上手くいかなくて……ということなんですが、それ以外のことは五里霧中から書き始めたんです。彼女のことを考えているうちに枝葉のように他の登場人物もぼんやりと出来上がっていきました。
 

強い女性が主人公なのは、私の分身だから

——菊乃という主人公も、山口さんの代表作である『月下上海』の主人公・多江子も、決して挫折しない女性として描かれていますよね。困難に負けない信念を持った人間です。小説家として、そういう女性を書いていきたいという気持ちもあるのでしょうか。

山口 私の場合、アイディアというのは歩いていると頭の上に鳥の糞がポトンと落っこちてくる感じで生まれるわけですよ。『月下上海』もたまたま新聞のテレビ欄で「上海の伯爵夫人」という言葉を見つけて、その時に頭に浮かんだシーンと昔短編として考えていたネタが繋がってストーリーが出来ていった。こういうふうな話にしようとか、こういうふうな主人公にしようとかではなくて、まずウンコありきなんですよ。

——(笑)。キャッチーな言葉をありがとうございます。

山口 ウンコで書いてるから偉そうなことは言えないんです(笑)。本当、執筆の意図をきちんとおっしゃる方は偉いなあと思いますよ。私もドラマの企画書を書いていた時は嘘ばっかりでしたけどね。いかに渡瀬恒彦や水谷豊を捕まえるかが大事なのであって、「人間の哀しさを訴えたい」とか全部嘘ですからね。

——結果的に主人公が挫折しない強い女の人になったのはどうしてだと思いますか。

山口 それはたぶん私が書いているからでしょうね。登場人物は作者の分身だと思うので、私がああいう強い人が好きだということで。弱い女性が主人公になったことは一度もないですから。デビュー作からずっと強い人ばっかり(笑)。
 

43回お見合いしても結婚しなかったのは人生を舐めていたから

——『早春賦』も『月下上海』も恋愛の話ですが、山口さんご自身の恋愛に関することとしては、43回もお見合いされているとか……。

山口 私は40回だと思ってたんですが、うちの母が覚えていて43回だと。

——それでも結婚しなかったのは、他人からは挫折に類するものと捉えられると思うのですが。

山口 みたいですね。私がそんなにお見合いしても結婚できなかったのは、私自身が人生を舐めていたというのが一番大きいです。お見合いって女の人が絶対結婚するんだ、どうしても「旧姓山口です」って言うんだっていう固い決意をしてると必ず結婚できるものなんですよ。私の場合、最初のお見合いが33歳だったのですが、いい人がいたら結婚したいな、親も老いてくるし、っていう漠然とした気持ちだったんです。でもいい人がいたら結婚したいっていうのは、形はお見合いだけど、結局は恋愛を求めているのと同じですよ。

——確かにそうかもしれませんね。

山口 20歳やそこらやら別として、33歳のお見合いといったら相手も40代半ばとかです。その歳で嫁がいないというのは、モテないがバツイチか、高望みして嫁が来ないかのどれかで、いい人なんかいるわけない。だけど絶対結婚するんだという固い決意をしていると、捨てるところと拾うところがはっきりと分かる。ビジネスライクにいけるんです。私の場合はもう少しロマンチックを求めていたところがありますね。あの頃は人生を舐めてていたんです。大して好きでもないおじさんと結婚するくらいなら、家にいた方が居心地も良くていいや、と。
 

新しい一歩は気楽な一歩でもいい

——山口さんは座右の銘として孟子の「恒産なくして恒心なし」という言葉を挙げていらっしゃいますね。

山口 ドラマのプロットの仕事を断って小説に集中しようとなった時に思い出した言葉です。その頃は派遣という不安定な仕事から、しっかりした待遇で安定もした食堂の仕事に就くことができていました。ああ、私はこの食堂の仕事があるから、世の中や自分の状況を一歩引いたところから見渡すことができて、小説に転向できたんだなあと思ったんです。その時に「恒産なくして恒心なし」、きちんとした仕事や収入がないと安定した精神を保てないというのはこういうことなんだなあと。

——巷にある自己啓発系の本を読んでいると、次のステップのためには今持っているものを手放さなくてはならないとよく書いてあります。立場を捨てて、貯金も使い果たせ、と。そういうメッセージとは真逆の考え方ですよね。

山口 ものすごい一大決心をして新しい道に踏み出すのはとても大事なことかもしれませんけど、私が食堂のパートとして働いたのは、たまたま新聞の求人広告を見つけて応募したからにすぎません。それが後に天職だなと思うほどの仕事になったし、いろんな意味で私を支えてくれた。小説家にもしてくれた、宝物のような仕事になったんです。でもきっかけはささいなこと、たまたまなわけです。一大決心をするのもいいけど、もっと気楽な気持ちで一歩踏み出したら、そこから思わぬ展開があるかもしれないとも思うんですよ。
 

書くこと以外はどうでもいいこと

——お話を伺っていると山口さんは“たまたま”を捕まえる力をお持ちなんじゃないかと思います。

山口 それは運ということなのかもしれませんけどね。私、これまでの人生は計画的ではないんです。行き当たりばったりの出たとこ勝負でずっと来たなと自分でも笑っちゃうくらいで(笑)。なんて計画性のない人生なんだ、と。

——それでも物語を作るということでは非常に整合性のある人生だったとも言えます。

山口 書くっていうことは中心にありましたけれど、他はいい加減でしたよ。

——それは書くことがあるから、その他はまあいいかなという感じですか。

山口 そうですね。食堂で働くまでの派遣とかの仕事は、本当に腰掛けだと思ってましたからね。漫画家になったらすぐに辞めてやる、脚本で芽が出たら辞めてやるんだと。仕事に愛着もなかったですし。働いていたお店が潰れてもどうってことなかったし、派遣の契約が終了しても別のところを探せばいいやと思っていました。
 

世間のことは世間に従い、小説のことは自分に従う

——エッセイなどでは小説と結婚したという表現をされていますね。

山口 それはとあるインタビュアーの方が「小説とご結婚されたようなものですか?」とおっしゃったので、「考えてみればそうですね」とお答えしたからです。金もかかるし辛い思いもさせられたから、結婚みたいなものかな、と。

—―一般的に結婚は異性とするものですが、山口さんはそもそも一般的というものに囚われる必要はないというお考えですよね。

山口 私、書くということには真剣なのですが、他のことは本当にどうでもいいんですよ。他人のこともどうでもいい。私がちゃんと面白い小説が書けるかどうかが大事であって、他のことはどうでもいいんです。世間のことは世間に従うし、小説のことは自分に従う。それだけですね。

——書くということは山口さんにとってそれほどまでに幸せをもたらしてくれるものなのでしょうか。

山口 やっぱり幸せですよ。今は食堂の仕事も辞めたので、午前3時に起きる必要がなくなって、のっているところで中断しなくてもよくなった。基本的に毎日書いていればいいという今の自分の生活が、本当に幸せだなあと思います。

(おわり)

 

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