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2015.12.20

第3回 作家 山口恵以子

(前編)
初めて書けなくなった更年期鬱

山口 恵以子

(前編)<br />初めて書けなくなった更年期鬱

学生時代から漫画家を志すも断念。就職した会社が倒産し、派遣として働きながら脚本家を目指すも、これも叶わず。「食堂のおばちゃん」をしながら書いた小説『月下上海』が松本清張賞を受賞したのは山口さんが55歳の時のこと。まさに「人生いろいろ」な山口さん、きっと様々な挫折を経験してきたはず。そしてそこから立ち上がるためのテクニックもたくさんご存知に違いない! 最近ではテレビでの豪快な発言でも注目を集める山口さんが語る、人生を諦めずに強く生きるためのヒントとは?
(構成:日野淳 撮影:菊岡俊子)


死んでもいいと思った更年期鬱

——山口さんが挫折という言葉でまず思い出すのはどんなことですか。

山口 更年期鬱のことですね。デビュー作『邪剣始末』が全然売れなくて、次を頑張ろうという矢先にいきなり更年期鬱になってしまって。突然、何にも書けなくなってしまった。書けないことなんてそれまで一度もなくて、どうしよう? となっちゃって。アイディアが出て来ないし、無理矢理捻り出しても物語がまったく転がってくれなかったんです。

——書けないということから始まって、どんどん落ち込んでいったのですね。

山口 とにかく書けないということに絶望的になってしまって、これからどうしよう、一生書けなかったらどうしよう、と。あの頃は、死んでしまいたいとまでは思いませんでしたが、死んでもいいとは思っていましたね。夜寝る前は明日の朝、目が覚めませんようにと思いましたし、目が覚めたら、どうして目が覚めたんだろう、という毎日でした。

——その頃は食堂で働いていらしたのですよね。

山口 そうです。仕事に行かないとしょうがないので無理矢理起きて行ってたんです。同僚と馬鹿話をして体を動かしているとだんだん気分が上向きになっていくんですよ。でも仕事が終わって家に帰る頃からまた気分が徐々に落ち込んできて、日が沈むころにはどん底まで行って、寝る前は最悪。そして朝起きても最悪という。


更年期障害だなんて夢にも思わなかった

——病院で治療をされたのですか。

山口 更年期で鬱になっているんだとちょっとでも思えば病院に行ったんでしょうけど、病気だなんて全然考えてなくて。何かの理由で書けなくなって、こういうふうになっているんだろうと思い込んでいた。馬鹿らしい話なんですけど、私、更年期に鬱病になる人もいるという知識がなかったんです。更年期ってのぼせたり、汗がバーっと出たり、動悸がしたりするあれだと思っていて。それがなかったから自分が更年期障害だとは夢にも思わず、全然気が付かなかったんです。

——鬱からはどのように回復したのでしょうか。

山口 2年経ったらクルッと変わったんです。軽かったから2年で治ったんでしょうね。母に介護認定が下りて介護が楽になったこと、小説の研究会に参加して他の方の小説の朗読を聞いたこととか、いろんなことが総合的にあってよくなったのかなとは思います。私にとっての挫折と言ったら、あの更年期鬱の時ですね。そこから抜け出した後、『月下上海』という小説のアイディアと巡り会いました。
 

物語を作るという糸で繋がる人生

——鬱になられる前にも様々なことがありましたよね。長い間夢見ていた漫画家を諦めた、その後は脚本家になるためにドラマのプロットを書いていたけど断念したというのが山口さんのプロフィールとして有名です。それらは挫折ではなかったのでしょうか。

山口 外からは、漫画家を目指し挫折して、脚本化を目指し挫折して、と見えるんでしょうけど、私の中ではずっと物語を作るという糸で繋がっているんですよ。漫画家は絵と台詞で物語を作る。脚本化は台詞とト書きで、小説家は文章で。物語を作るという糸でずっと繋がっているんで、私にとっては紆余曲折あったけれど挫折ではないんです。

——なるほど、そうなのですね。では物語を作るという糸が途切れそうになった、心がそれに向かわなくなったという時はありませんでしたか。

山口 鬱の時にはありましたけど、それ以外の時はないですね。

——その糸が人生をかけても辿るべきものであると確信したのはいつですか。

山口 それは成り行きですよね。漫画が好きだったし、空想癖があったし、これを形にしたいなといつも思ってきた。確信したという意味ではドラマのプロットを書いて初めてお金をもらった時かもしれません。絶対プロになる、これで生きていくんだと固く決意したのは。あの時は、目の前のドアが開いて、脚本家への道が真っ直ぐに伸びていると思っていたのですが、そうではなかったんです。

人の悩みはどうでもいいことか、どうしようもないこと

——自分の人生の糸が、物語を作るという一本しかないということに怖さはなかったのでしょうか。

山口 全然。私、母親から受け継いだ遺伝的な能天気でして、あんまり先のことを考えないんですよ。なるようにしかなんないだろうと。だいたい私、悩まない人間なんですよ。世の中に悩んで解決することなんて一個もないですからね。

——そうですか!?

山口 人の悩みってどうでもいいことと、どうしようもないことに二分されるんです。どうでもいいことは悩む必要はないですし、どうしようもないことは悩んだって仕方ないじゃないですか。

——確かに。考えてみればそうですね。

山口 たとえば会社つぶれちゃったとか、リストラされちゃいました……となったら、まずは受け入れて、性根を決めて、どうするか対処法を決める、それしかないんですよ。そこでどうしよう、どうしようと思っているのと、矢でも鉄砲でも持って来やがれと構えているのとでは、結果が同じでも精神的なダメージが全然違うんです。どうせどうしようもないのでしたら、そんなことで自分の心を痛めつけてはいけないと思いますよ。


一つの道があった方がよいかは人によりけり

——山口さんのようには一本の糸が見つけられない。または今、目の前にあるものが、自分が一生をかけて辿るべき糸なのかどうか確信が持てない人もいると思うのですが。

山口 自分の進むべき道が分からないという人がいたとして、まず20歳やそこらでは無理だと思うんですよ。成人式って20歳になったらやるものですが、私、本当は30歳くらいでやるべきなんじゃないかと思うんです。30歳くらいになると自分が何者かとか、どういうものが好きか嫌いか、何をやりたくてやりたくないか、限界も含めて可能性が見えてくる。それでやっと進むべき道が分かってくる。会社に勤めているけど、陶芸がやりたいとかね。そういう年齢的な問題もあるかもしれない。

——まだそこまで到達していない段階かもしれないということですね。

山口 そうですね。今の道が本当に自分の進むべき道なのかどうか分からないということで言えば、私は自分がやりたいことに対して迷ったことは一度もないんです。だから思うのは、迷うんだったら止めた方がいいんじゃないかということです。あと、一つの道が人生にあった方がいいかどうかは人によりけりですよ。私は書くことが好きで、書き続けているのでそれが幸せではあるけれど、なくたっていいじゃないですか、別に。

——なるほど。必ずしも外側に特別な道を探す必要はないのではないかと。

山口 私はいまだに高校時代の友達と仲良くしていて、女子会や同窓会に行ったりするんですけど、本当に幸せな奥さんをやってらっしゃる人がいますよ。恋愛して結婚して子どもがいて、旦那さんと楽しい老後っていう人生もすごい幸せだと思うんです。子どもがいるということは、自分の人生が自分で終わるのではなくて、次代に繋がっていくわけじゃないですか。中にはおばあちゃんになっている人もいて、私はいいなと思います。


人と比べないのが幸せの第一条件

——でも山口さんは旦那さんや子どもなどという自分に無い物をねだるのではなくて、書き続けられているから幸せなのですよね。

山口 これはありがたいことだったと思うのですが、うちの母が自分のうちの子どもとよそのうちの子どもを比べない人だったんです。なにちゃんがどうだからというのが全然なかった。私が漫画の編集者に絵の才能がないから諦めろと言われた時も「あなたが自分で才能がないと思って止めるんならいいけど、適齢期だからとか、なにちゃんが結婚してるからとか、自分以外の理由、世間体で諦めると一生後悔する。だから自分で納得できるまでやった方がいい」と言ってもらったんです。

——それは素晴らしいお母様です。

山口 人と比べないというのは幸せの第一条件ですよ。自分だって他の人になれないし、他の人も自分にはなれないんです。私の代わりにご飯食べてって言っても、誰もできないわけですから。本当、人間って人それぞれ持っている武器が違いますから、自分と違う武器を持っている人を見て、どうして私にはこの人の武器がないのかしらと思うのは空しいんじゃないかしら。他人にはない武器を持っているんだから、そっちを大事にした方がいいのになと思います。

(後編に続く)

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