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2011.09.01

連載エッセイ63

記憶の迷宮―ルーヴルを流れる時間
マチュー『レヴォリュ美術館の地下』、
荒木飛呂彦『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』ほか

中条 省平

記憶の迷宮―ルーヴルを流れる時間<br />マチュー『レヴォリュ美術館の地下』、<br />荒木飛呂彦『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』ほか

  本年1月号の本稿で、フランスマンガ(BD)の翻訳ブームのことを扱いましたが、そのとき紹介したニコラ・ド・クレシーの『氷河期』は「ルーヴル美術館BDプロジェクト」の1冊でした。このプロジェクトは、ルーヴル美術館出版部の正式の注文により、何人かのマンガ家がルーヴルをテーマにしたBD(マンガ)を書きおろすという企画で、今回、クレシーの『氷河期』に続く2作が同時刊行されました。ひとつは、フランスのマンガ家、マルク=アントワーヌ・マチューによる『レヴォリュ美術館の地下 ある専門家の日記より』(大西愛子訳)、もう1冊はなんと! 日本の荒木飛呂彦の『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』です(版元はいずれも小学館集英社プロダクション)。今月はこの2冊を取りあげることにしましょう。
 まずは、マチューの『レヴォリュ美術館の地下』。この作品は、クレシーの『氷河期』に近い設定をもっています。『氷河期』は、地球にふたたび氷河期が訪れた未来世界で、ある探検隊が氷に埋もれたルーヴルを発見するという物語です。しかし、この遠い未来の地球では、すでにルーヴル美術館の存在が忘れられたばかりか、美術という営為や概念そのものが消滅していました。したがって、探検隊の人びとは、この未知の空間を埋めつくす絵画や彫刻や美術品を見て、それがいったい何を意味しているのか、自問することになります。つまり、『氷河期』は、人間にとって美術とは何かを問う根源的な問題提起のマンガだったわけです。
 いっぽう、『レヴォリュ美術館の地下』は、『氷河期』ほど遠い未来に舞台を設定しているわけではありません。しかし、すでにルーヴル美術館は廃墟と化し、人びとはこの施設をとりあえず「レヴォリュ美術館」という通称で呼んでいます。つまり、ルーヴルという固有名さえも失われているのです。レヴォリュ美術館(LE MUSEE DU REVOLU)というのは、ルーヴル美術館(LE MUSEE DU LOUVRE)のアナグラム(綴り替え)です。
 ここに美術品の調査研究員として、ウード・ル・ヴォリュムールという人物がやって来ます。この主人公の名前(EUDES LE VOLUMEUR)も「ルーヴル美術館」の原綴のアナグラムであり、この15文字のアナグラムは作中の至るところにばら撒かれています。クレシーの『氷河期』と同じく、『レヴォリュ美術館の地下』では、ルーヴル美術館という施設の全体像が見失われており、主人公のル・ヴォリュムールは、この施設と、そこに集められた美術品がいかなる意義をもつかを探求することになるのです。
 ル・ヴォリュムールはこの美術館のあらゆる場所を訪れ、そこで行われている修復や保存の作業を観察していきます。建物の石積みの土台、水没した地下回廊、彫刻鋳造の型の保管庫、壊れた石の膨大なかけらを集めてようやくできあがる巨大な一個の目玉、模写される無数の絵画、額縁のコレクション、おそらく「モナリザ」と思われる絵画の数多くのヴァリエーション(模写ではなく、作者自身がわざわざ少しずつ違えて描いたもの)等々。

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