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2015.12.04

第2回 ノンフィクション作家/探検家・角幡唯介

(中編)
探検家に失敗はあっても挫折はない

角幡 唯介

(中編)<br />探検家に失敗はあっても挫折はない

そもそも挫折は本当にあるのか? 前編での本質的な疑問は、次第に生と死の間を搔い潜ってきた探検家・角幡さんならではの深みへ入ります。これをやらなければ生きている意味がないと思えることを前にした時、試されるのはやはり覚悟であるよう。そして、どんなに失敗を繰り返したとしても、諦めないうちは挫折にはならないというシンプルな真理が導き出される。(構成:日野淳 撮影:山田薫)


失敗すること込みで計画を立てる

——あくまで辞書的な意味で言うと、挫折の対義語は「貫徹」らしいです。角幡さんは一度は就職したけれど、今も探検家であることは貫徹していらっしゃるので、挫折はしていないと言えるのかもしれません。

角幡 小さい失敗ならみんなそれぞれ経験して、自分の中で折り合いを付けてくわけですよね。そういう小さいことならあるけど、挫折って言うほどのものはない気がします。

——探検中における小さい失敗は、すぐに命の危険に繋がるように思います。そういう失敗はありますよね。

角幡 まあそうですね。雪崩に遭ったり、とかですかね。

——雪崩に遭うのはまったく小さい失敗ではないですけどね(笑)。探検の最中には、小さな失敗から即座に立ち直ることも同時に求められると思います。立ち直り方のコツはありますか。

角幡 そもそも僕の場合はそういう失敗込みで計画をするんですよ。たとえば僕はすごく忘れっぽいので、自分はよく忘れ物をする人間だという前提で現場に臨むんです。この間もカナダのツンドラのど真ん中で……そこはゴムボートがないと移動できないような場所なんですけど……ゴムボートのバルブを外して空気を抜いて、ゴムボートを畳んでテントに戻ったのですが、2時間くらい経った頃に、「しまった! バルブを氷の上に置き忘れた!」と気が付いたという。急いで戻ったけど、もう氷が解けてバルブはなくなっちゃってたんです。それは結構やばくて、もうゴムボートが使えない! みたいになってしまいました。

——バルブ一つの忘れ物で、命の危機。

角幡 最終的にはバルブを自分で作って、空気は漏れるんですけどなんとか使えるようになったんです。そういうことをいっぱい経験してきたので、壊れたり、なくしたりしたら決定的にやばいものについては、自分で直したり、作ったりと現場で対応できるようにしています。あるいは使いにくくても絶対壊れないものを選ぶとか。後はあらゆる作業を面倒くさがらずに、自分はミスをする人間だと意識しながら行うということもできるようにはなりました。


3割くらいは死ぬかなという覚悟

——小さな失敗で探検自体が中断してしまったという経験はありますか。

角幡 中断ということなら、今回のグリーンランドがまさにそうですよね、探検に出る前に中断。

——命の危険に遭ってという意味ではどうでしょうか。

角幡 たまたま生き残ったということなら2回あります。1回はチベットのツアンポー峡谷に探検に行った時のことで、夜中の真っ暗な中で行動していて、岩壁から滑落してしまったんです。その時はたまたま滑り落ちる途中で木にぶつかって止まった。周りにそんなに木なんて生えてないところなのに、たまたま僕の真下にはあったという。本当に運がよかっただけで、普通だったら死んでます。そういう決定的な失敗をすると学習するんですよ。夜中には行動しないとか。

——なるほど(笑)。ああ助かったと思った時に、心が挫けて折れてしまって、もう帰ろうかなとはならないのでしょうか。

角幡 そうですね、ならないですね。

——そこで帰ることを選んでいたら、一つの挫折ということになったのだと思うのですが。

角幡 そうはならないのは……なんででしょうね。出発の段階である程度覚悟を決めていたからですかね。その時は3割くらいは死ぬかなっていう感覚でした。昔の探検家は6対4って言ってたらしいですよ。

——死の方が6ですね。

角幡 そう、死の方が6です。本当かどうか知らないですけどね。僕はその時3割は死ぬかなという感じで行っていて、最初の方というか、1日目にそういうミスをした。それで怪我したりして帰らざるを得ない状況だったら帰っていたのでしょうけど、元気でしたからね。その時はもう、それをやらないとオレの人生の意味はない! とも思っていたので、帰ろうという気は全然なかった。たまにそういう、それをやらないとオレの人生の意味はないという勝負をすることはあって、ツアンポーの時はまさにそうでした。今回の極夜もそのつもりだったんです。その道を選択した時点である程度の覚悟を決めているから、少々のことでは引き返そうとは思えませんね。


4カ月間、暗闇に独りでも大丈夫

——北極圏の極夜への探検というのは、自分の中を見つめるというか、暗闇の中で孤独に耐えられるのか、折れそうになる心にどう対峙するのかというような、人間の精神そのものへの挑戦という意味合いがあるように思うのですが。

角幡 それも一つはありますね。それだけ暗い中で生活していたら、頭がおかしくならないのか、とか。でもならないような気がしますね。

——それは角幡さんの性格だからということですか。

角幡 3年前に1カ月間、カナダのケンブリッジ・ベイというところの近くで、いろいろ試してみたんです。装備はどういうものがいいのか、冬という特殊環境で旅はできるのか、それとGPSを持っていかないので天測(★編集部注 天体観測によって位置を特定する方法)っていうのが機能するのかとか。その時は1カ月間だと物足りなかったんですよ、もう終わりかと。あれがもう少し暗くなって、3カ月続いたとしてもいけるなという感じは持ちました。実際に独りでいるのは4カ月くらいになると思うんですけど、4カ月間独りでいるっていうことに対しても計画当初は不安というか、おかしくならないかという気持ちはあったんですけど、たぶん大丈夫だなとも思いました。

——簡単におっしゃいますが、そういうものなのでしょうか……。でも精神を追いつめるために、あえて4カ月間もそこに行くという意味もあるのですよね。

角幡 もちろんそういう部分もありますが、真っ暗闇の状況が3、4カ月も続くという、その場所に行ってみたいという思いの方が強いんです。そこは夏には夜がない白夜になるわけですが、今年の夏に白夜を経験したことでいろんな発見がありました。ずっと昼の中にいると、自分の中の時間感覚が崩壊していくんです。夜って人間の一日の時間を制限する、障害のようなものになっているんですよね。夜が来るのなら夕方の6時までに行動を終えないといけないから、そのためには朝の何時には起きて行動を開始しないといけない、となる。白夜で夜がなくなるとそういうリズムもなくなるから、一日が24時間だろうが36時間だろうがどうでもよくなるんですよ。それが精神にも及ぶと言うか、規律がなくなるんです。


選択肢がなければ挫折はない

——健やかに過ごせる時間が長くなるのではないのですね。

角幡 全然健やかじゃないですよ。夜の方が太陽が低くて寒かったりはするんですが、夜中の2時でも平気でカヤックを漕いだりしていられて、旅自体は余裕を持ってできたんです。でも時間感覚は崩壊して、いつ寝て、いつ起きてもいいとなって、一日の中の規律はなくなる。それと夜というものが怖くなってくるんです。8月の間は一日中ずっと明るかったのに、段々秋が近づいてきたら夜にはうっすらと暗くなるんですよ。そうしたら、夜が来たらいったいどうなるんだと怖くなってきた。本格的に夜がきたらヤバいから、早く帰ろうかみたいな。白夜でそういう発見があったから、極夜でもまた新しい発見があると思います。

——それは確かに体験しないと分からないことです。

角幡 そういう発見が楽しいというか、目的なんです。太陽とはなんなのかとか、月とは、闇とはなんなのか。そういうことが自分なりに発見できると思うんですよ。たぶん昔の人、古代までいかなくても日本人だと100年くらい前の人までは、それこそ太陽や月の動きとか、闇の恐怖、そういうものと一緒に暮らしていたと思うんです。僕らはそういうものを失っているけれど、極夜への探検を通して分かってくることもあるはずだと。

——今おっしゃったような昔の人、自然とともに生活していた人には、挫折という感覚がなかったのかもしれませんね。

角幡 人生の選択肢がなかったと思うんです。選択肢がないところには挫折はないんじゃないですか。しょうがねえやと思って生きるしかない。結婚して子どもができて、自分が共同体の中で与えられた命を紡いでいくだけという世界には、挫折は存在しないんじゃないですかね。
(後編に続く。12月11日公開予定です)

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