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2012.03.01

連載エッセイ69

超絶の画力とカフカ的想像力│
『闇の国々』の異様な吸引力

中条 省平

超絶の画力とカフカ的想像力│<br />『闇の国々』の異様な吸引力

  前回の本欄で、「次回はブノワ・ペータース&フランソワ・スクイテンの『闇の国々』(古永真一・原正人訳、小学館集英社プロダクション)を取りあげる」と予告しましたが、その約束を実行させていただきます。
 現代フランスの先端的なBD(バンド・デシネ=マンガ)といえば、すでにこの時評でも扱ったメビウスとエンキ・ビラルが2大巨匠ですが、今回、紹介するペータース&スクイテンはこのふたりに匹敵する偉大なBD作家です。BDですから、ペータース&スクイテンの描く作品はフランス語で書かれています。しかし、原作担当のペータースはフランス人ですがブリュッセル育ちで、マンガ家のスクイテンはベルギー人です。つまり、このコンビの作るBDはフランス語圏コミックスではありますが、厳密にはフレンチ・コミックスとはいえないのです。
 ベルギーというと、しばしばフランスに付随する国のような扱いを受け、詩人のボードレールなどはベルギーに講演旅行に行ってひどい目にあったので、「あわれなベルギー」というこの国への悪口評論の執筆を真剣に計画したり、「ベルギー人は梅毒っかき」という爆笑ものの1節をふくむ詩まで書いたりしています。
 しかし、BDに関しては、ベルギーはフランスと肩を並べる大国で、世界でいちばん有名なBDのひとつ、『タンタンの冒険』シリーズの作者・エルジェはベルギー人ですし、英国の秘密諜報員ブレイクと核物理学者モーティマーのコンビが活躍する人気シリーズの作者E・P・ジャコブスもベルギー人です。ブレイク&モーティマー・シリーズには、日本を舞台にコンビが大活躍する『佐藤教授の三つの数式』という傑作もあり、この資料集めと考証には「東京帝国大学教授のシゲヒコ・ハスミ氏」が協力したとジャコブスの自伝『紙のオペラ』に書かれています。ぜひ邦訳紹介が望まれるシリーズなのです。
 さて、ペータース&スクイテンに戻りますと、原作のペータースはパリ大学ソルボンヌ校で哲学を専攻し、ロラン・バルトの指導のもとに『タンタンの冒険』についての博士論文を書こうとした人物です(のちにエルジェの伝記を執筆しました)。また、みずからマンガ評論に手をそめるほか、小説も書き、ポール・ヴァレリー研究やジャック・デリダの伝記の作者でもあります。『闇の国々』にもそうしたペータースの学識があふれていることが分かります。とはいえ、衒学趣味はなく、自分の好きな分野をやみくもに探求する幼児的で快楽的な資質が感じられます。要するに、インテリくさい嫌らしさとは無縁の大らかな趣味人というタイプです。

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