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2016.01.24

自分たちの行動はきっと誰かに影響を与えているということへの気づき(平山瑞穂『バタフライ』)

羽田 圭介

自分たちの行動はきっと誰かに影響を与えているということへの気づき(平山瑞穂『バタフライ』)

『バタフライ』
平山瑞穂
幻冬舎刊/1500円(税別)

 

〈ブラジルの一匹の蝶のはばたきはテキサスで竜巻を引き起こすか?/エドワード・ローレンツ〉

 誰かのふとした行動が、遠くにいる別の誰かに対し、思いもよらぬ影響を与えたり出来事をもたらす。ズバリそのもののタイトルである映画『バタフライ・エフェクト』はわりと個人の物語で、昔の行動が未来にどう影響を及ぼすかに重きがおかれていた。そのように捉えると、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『ターミネーター』だってバタフライ・エフェクトものでその構造は珍しいものではなく、要はタテかヨコかの差だ。ヨコのバタフライ・エフェクトものは、物語中の時間軸が短めに設定される。限られた作中時間内で、幾人もの登場人物たちの行動が、各々が思いもよらぬ形で、別の誰かに影響を及ぼす。そして、それに自分が関わってしまったことを、影響を及ぼした本人は自覚しない場合が多い。バタフライ・エフェクトをもちだされると特殊なジャンルという感を抱くが、現代日本小説界では、馴染みのある表現方法だ。連作短編小説。朝井リョウ君の『桐島、部活やめるってよ』を真似ようとした各社編集者たちが、一時期やたらと小説家たちに乱造させたあれらだ。二番煎じ、三番煎じ……。書店の文芸書コーナーは、“連作短編”“連作群像劇”であふれ、飽きられ一気に廃れた。よほど技術がない限り、連作短編ものには手を出さないほうがいい。作者自身が神の目線からどうとでも書けるからだ。読者もはじめのうちは、「これとこれが繋がって」「こんなふうに影響を及ぼすのか!」等々興奮するのだが、次第に、物語を作る際に作者の作ったプロットや人物相関図が頭に浮かんでゆく。別個に作った人物たちになんらかのフックを設けそれらをつなぎ合わせるだけで、連作短編やバタフライ・エフェクトものは作れるということに、気づいてしまうのだ。ミステリーのように複雑な伏線が一気に回収されるような爽快感はないから、構造の弱さに気づかれると、不利になる。それが現実に起こった話なら興味もあるが、神である作者が簡単に作れてしまい、そしてあたかも“この作品世界でものすごい偶然が描かれているでしょう”というご都合主義の得意げな顔につきあわされるのは、皆御免なのだ。

 そんな焼け野原の中、本書『バタフライ』は書かれた。もうすぐ一四歳になる中学生、尾岸七海のパートから物語は始まる。〈アレはときどき夢の中にまで侵入してきておぞましいことをしようとするけれど〉。アレ、とは、なんぞや?〈「いいから俺に身を任せてりゃいいんだ」〉。女手一つで娘を苦労して育ててきた母親が連れてきた義父に毎夜セックスを強要される七海は、学校でも居場所はない。唯一心を通わせられる相手は、オンラインゲームで知り合った「えとろふ」だけだ。「えとろふ」とメールのやりとりをする深夜から早朝にかけての時間は、七海にとってのライフラインとなっている。ある日七海は、ゲーム内のチャットで、「義父を殺してくれる人募集」と打ち込んだ。ほとんどの人に無視されたり、説教される中で、「えとろふ」だけが、本当にやってくれそうな、本当にやってしまいそうな雰囲気を漂わせていた。以来、七海の中で、最後の切り札としての「えとろふ」が、地獄のような日々の守護神となっている。物語は、そんな七海が、ついに義父を呪い殺すことを「えとろふ」に依頼するところを軸に、動き出す。妻に先立たれた七〇過ぎの元教師、階段を転げ落ちるようにネットカフェ難民になってしまった三〇過ぎの男、小児ぜんそくの息子をもつ工務店二代目社長、家にひきこもっている「えとろふ」、ブラック企業に勤めパワハラに苦しむ二六歳の女、血の繋がっていない娘を犯す七海の義父。誰のパートでも、まあクソみたいな登場人物や社会の歪みが頻出するのだが、ひきこもり少年「えとろふ」が七海の望みをかなえるべく動きだす後ろ暗さのともなうシーンは、〈ゲームの中で通りすがりのプレイヤーにチャットでそう訊ねるのと何も変わらない〉〈とにかくこの老人はまともに応じてくれた。しかも親切だった〉〈まともに相手にしてくれることが嬉しくて、もっと話していたいとすら思った〉。負の行動理由であれ、現実世界で心を閉ざしていた少年が外に出て人と関わることの快感を知ってゆくという、奇妙ながらも王道的な青春小説という面も併せ持っているのだ。つまり読み進めるうちに、バタフライ・エフェクトものの構造が、あまり重要でなくなってくるのだ。そもそも構造からして、「見事な伏線回収!」とはならない。だからこそ、現代社会を映し出す視点の鋭さや、普遍的な物語としての強さが、重要となってくる。ジャンル小説の荒野で書かれた本作を読み、実感してもらいたい。

『ポンツーン』2015年12月号より

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