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2016.01.11

読者に驚きと温かな気持ちを抱かせようとする作者の思い(名取佐和子『シェアハウスかざみどり』)

池上 冬樹

読者に驚きと温かな気持ちを抱かせようとする作者の思い(名取佐和子『シェアハウスかざみどり』)

『シェアハウスかざみどり』
名取佐和子
幻冬舎刊/1500円(税別)

 

 丁寧で悪くないけれど、すこし線が細いのではないか…と思っていたら、中盤でいきなり盛り上がり、目頭をおさえながら読みふけってしまった。いい小説だ。

 この小説は、タイトルにあるようにシェアハウスの住人たちを主人公にしたリレー小説である。男二人、女二人の住人のほかに、八重歯が鋭い吸血鬼ならぬ弓月という名の管理人が加わる。各人生を点綴していき、最終章でもうひとつの大きな物語を提示する。

 詳しく紹介すると、まず第一章「ヒーローはここにいる」は、就職活動中の大学四年、風間晴生がひょんなことからヒーロー・ショーのバイトをはじめ、母親が誘拐されたと騒ぐ少年の問題にあたる話である。まがったことが許せなくて、ついつい正論を吐いて、恋人に嫌われ、面接で落ちてきた男の話がたんたんと描かれる。

 第二章「わたしの竜宮城」は、定年退職してもうすぐ七十になろうとする由木暢子が、かつての恋人と再会して心乱され、予想外の結末を迎える。お嬢様育ちで料理も何もできないのに週一回の料理親睦会では臆せずに駄目な料理を堂々と出して顰蹙をかう姿が憎めない。内に秘めた女性の純真さが、最後の最後に出てくる。

 第三章「ハッピーバースデイ」は、三人の娘をもつ母親の喜多島麻矢が、娘たちと喧嘩して家を出たものの、娘の誕生日に久々に帰宅するが…という話。阪神淡路大震災のさなか長女を出産する話が感動的に綴られていて、これだけでも見事な短篇になっている。

 第四章「風見鶏に願いを」は、ソフトウェア会社で社長付の運転手をしている川満有の、訳あり人生をめぐる話。運転手なのに方向音痴、にもかかわらず愛されている理由が何なのかが見えてくる。

 第五章「クリスマスのシェアハウス」は、それまでの四章の細部で語られた挿話と関連する話が、意外な人間の登場によって具体的に力強く意味づけられる。

 もう少し説明を加えると、四人は、ある不動産屋が仲介するクリスマスまでの期間限定「シェアハウスおためしキャンペーン」に誘われてきた。高級住宅地にあたる北屋丘町の由緒ある洋館に無料で住めて、引っ越し費用や光熱費まで会社が負担してくれるという特別キャンペーン。条件はシェアハウスの暮らしや住み心地に関するレポートを提出するだけというもので、いくら何でも話が美味しすぎるが、その美味しい理由は第五章で明らかになる。

 もうひとつ興味をそそるものは、ベイリー邸と呼ばれる洋館が正八角形の三階建てで、天辺には大きな風見鶏がとりつけてあり、この風見鶏には七不思議があるということ。その七不思議にまつわる挿話が展開する。つまり1ベイリー邸の風見鶏は鳴く、2風見鶏は飛ぶ、3風見鶏は願い事をかなえる、4風見鶏が海を見ているといいことがある、5風見鶏が飛び立つと悪いことが起こる、6風見鶏は悪運を払うと六つまではわかっているのだが、七つ目が不明。言うまでもなく七つ目の不思議が第五章で語られる。もともと管理人の弓月が“クリスマスに全部話す”と約束していたからでもある。

 この最終章(第五章)が、この小説の肝ではあるけれど、でもそれまでの個々の物語もなかなかいい。とりわけ第三章「ハッピーバースデイ」の母と娘の葛藤は感動的で、強く心を揺さぶられる。テレビドラマのエキストラ撮影中に、「人生にもリハーサルがあればいいのにな」と弓月が言うので、「そんなの─」と麻矢と戸惑うと、「あるわけないか。だよな。ぶっつけ本番だから、人生なんだよな」と弓月は返す。その弓月の言葉は麻矢の胸に刺さり、ある人物にこう言いきかせる。「人生ぶっつけ本番一度きり。やりたいことをやったらいいわ。ただね、やりたいことをやって笑っているには、実力がいる。運がいる。何よりも最初に覚悟がいる。その覚悟が出来ているなら、やってごらん。自分が心から納得して笑える日まで、やりたいことに齧りついてみなさい」と。

 あるいは、登場人物の一人が弓月の言葉にふと我に返り、自分の状況を見つめなおし、前に一歩踏み出す場面がある。「善意は報われる。誠意は伝わる。だから、自分も誰かの幸せを願っていい。誰かを助けたいと思っていい。動かなかった後悔より、動いてする後悔の方が楽だと信じよう」と。

 このように力強い言葉があるけれど、それを言わせるのは弓月。管理人の本当の姿と、共同生活の意外な真相は最後に語られる。

 ともかく、語り手がかわり、生活がかわり、見える風景がかわり、それぞれの人生の奥行きが深まり、読者一人一人の価値観がさりげなく更新される。正直言って終盤はやや作り過ぎの感がないわけではないけれど、それでも読者に驚きを与え、充分に温かな気持ちを抱かせようとする作者の思いは評価したい。いい新人だと思う。

『ポンツーン』2015年12月号より

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