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2015.11.15

なかがき

第2回 この不自然な共闘を喜ぶな(東浩紀)

小林 よしのり/宮台 真司/東 浩紀

第2回 この不自然な共闘を喜ぶな(東浩紀)

戦争する国になってしまった日本――。この危機に、かつて罵り合っていた小林よしのり氏と宮台真司氏、そこに東浩紀氏が加わり、語り怒り合った新書『戦争する国の道徳』が話題です。第2回は、東浩紀さんによる「この不自然な共闘を喜ぶな」です。なぜ、本書では、小林氏と宮台氏の思想がこれほど接近することになったのでしょうか。それだけ今の日本が異常な状況であることを忘れてはいけません。

 小林よしのり氏と宮台真司氏は、一九九〇年代の日本の論壇を代表する、二大スターである。九〇年代は、七一年生まれのぼくにとって二〇代の時期にあたり、学生だったぼくは二人の登場と活躍に大きな刺激を受けた。その二人を迎え、ここに鼎談を送り出すことができ、司会役としてたいへん光栄に感じている。本書の前半は、ぼくが都内で運営するイベントスペース「ゲンロンカフェ」で行われた公開鼎談の活字化、後半は、それを受けて非公開で収録された鼎談の活字化である。

 多くの読者が知るように、小林氏と宮台氏の政治的立場はまるで異なっている。ひとことで言えば、小林氏は保守で宮台氏はリベラルである。歴史認識もかけ離れている。かつては鋭く対立し、罵り合いのような論戦があったことも知られている。

 にもかかわらず、本書では二人の意見は妙に接近している。その接近は、二人の思想が変化したというよりは、それだけ二〇一五年現在の政治状況が危機的であることを意味している。本書は結果的に、「ネトウヨ」化する安倍晋三政権に抵抗する、「人民戦線」の設立宣言のような趣の書物になった。けれども、読者はけっしてこの共闘を喜んではならない。むしろ、二人が共闘しなければならないほど、事態が切迫していると捉えるべきなのだ。小林氏と宮台氏は、罵り合っているほうがはるかに自然である。

 とはいえ、この二人の妙な共闘には、それだけではない別の意味も含まれている。小林氏と宮台氏は、ともに、平成初期の混乱期に、昭和末期の硬直した論壇の破壊者として現れた言論人である。前者の武器がマンガであり、後者の武器が社会学(とりわけ性行動の社会学)であるという差異はあったが、論壇が目を背けてきた「本音」「真実」を可視化し、露悪も恐れずに権威の盲目を批判するという戦略は共通している。それゆえ、彼らの主張は、じつは従来の論壇の構図には収まらない。ぼくはさきほど、小林氏は保守、宮台氏はリベラルと記したが、二人の本の読者であれば、彼らの立場がそう簡単に分類できないことは知っていると思う。つまりは、彼らは二人とも、タテマエの政治や分析を嫌う新しいタイプの言論人として登場したのであり、それゆえマスコミで強い拒否反応を引き起こすとともに、ぼくのような(当時の)若い世代には絶大な影響力をもったのである。

 そのように考えると、論壇への登場から二〇年、ようやく実現した本書での共闘には、権力対反権力、右翼対左翼、保守対リベラルといった安易なレッテル貼りに頼らない、本当の意味での新しい「論壇」の再生の希望が──少なくとも、その手がかりぐらいは宿っているのではないかと、二人の長い読者としてはそのように期待してみたくもなる。本書での共闘が、もし将来、新しい論壇の出発点として振り返られるようなことがあるとすれば、司会役としてそれ以上の幸運はない。

 極右の台頭は保守とリベラルの共闘を促す。けれども、小林氏と宮台氏がともに安倍政権を批判するのは、それが極右であるからだけではない。安倍政権の日本再生のヴィジョンが(そして同時に安倍政権を批判する護憲派左翼の言説が)、彼らにとって、じつに昭和的で、二〇世紀的で、いまここの現実からかけ離れたタテマエであるように見えるからである。本書の後半は、狭義の政治を離れ、そのような広い文脈での議論になっている。保守とリベラルの対立以前に、その対立の前提そのものを切り崩すような変化がいまこの国の内外では進行している。ぼくたちが必要としているのは、まずはその現実を見据える胆力なのだ。

 小林氏と宮台氏が、安心して罵り合えるような状況がまた訪れたら、ぜひ本書の続きを収録したいと考えている。

 (第3回は、「行動する人間は必要だがその行動が間違っている」です)

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