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青山群青の憂愁

2015.11.14 公開 ツイート

「何でもかんでも霊のせいにするな」って…じゃあ誰の仕業なの!?

心霊コンサルタント 青山群青の憂愁 Ⅴ 入江夏野

  キャラノベ界に、クールでイケメンな心霊コンサルタントが登場!
 11/12発売の文庫『心霊コンサルタント 青山群青の憂愁』の刊行を記念して、全5回のためし読み記事を公開いたします! 
 次々起きる怪奇現象を解決してもらうため、貧乏女子大生・花は、心霊コンサルタント・群青を紹介される。長髪に藍染の袴姿、ブルーのカラコンをした群青は、超感じ悪いけど、腕は確か。洗面台一杯の鶏の頭、血染めのライブ会場などの謎を“降霊”して次々解決! “心霊コンサルタント”青山群青が紐解く怪奇ミステリ、始まります。

 
<著者の入江夏野さんより、plusへメッセージが届きました!>

 はじめまして。入江夏野と申します。
このたび、みなさんのもとへお届けする物語の主人公「青山群青」は、イケメンだけど一癖も二癖もある男。
 よくいえば、世界一ハカマを美しく着こなす「ハカマ王子」となりますが、「いや、単なるコスプレイヤーだろ」なんて突っ込みを入れたくなる場面もご用意してあります。
性格はぶっきらぼうで、ちょっぴり俺様な一面もあるようです。それでいて相談事が舞い込めば、真摯に依頼人の話に耳を傾け、難事件から珍事件までを鮮やかに解決。貧乏女子大生「花」が彼に胸ときめかせるのも、当然の流れでしょう。
「心霊コンサルタント」を名乗る群青は、相談者の前で「降霊」して様々な事件を解決します。でも、花は最初、疑問に思います。彼には本当に「霊能力」はあるのか? そんな男が存在するのか? もしかして、彼はとんだペテン師野郎なんだろうか……?
 読者の皆さまも当然、疑わしく思われることでしょう。
 実は、ここに哀しい秘密が秘められているのですが、それは読んでのお楽しみということで!
 ただし、これだけはみなさんにお約束いたしましょう。
 最後の秘密が明らかになったとき――
 あなたの心には青山群青が棲みついています。
 

<登場人物紹介>

青山群青 (あおやま ぐんじょう)
24歳。「心霊コンサルタント」のときは、石川五右衛門のような羽織袴のコスプレ(もと弓道部員なので)、青いコンタクトレンズ、手には革の手袋。クールなイケメン。細マッチョ。「降霊」してオカルトなナゾを解決するが……。

小日向花 (こひなた はな)
広尾のお嬢様女子大2年生。貧乏苦学生でアルバイトばかりしてる。群青に片想い。

 

塩村一生 (しおむら いっしょう)
34歳。兆徳寺住職。大柄、筋骨隆々、ソフトモヒカン。日本人離れしたルックス。墨色の法衣。声が大きくて優しく面白い。

青山一翠 (あおやま いっすい)
34歳。群青の兄、一生の親友。3年前の事故で植物状態で入院中。
 

 

第一話 ドクダミ館の怪
 
群青は依然、目を瞑り、腕組みをしている。居眠りをしているように見えても、話は聞いているらしいので花ももう気にせずに続けた。

 髪の長い女の人のことを話したあとは、翌朝、洗面所で目撃したおぞましい光景について報告した。

 「これは警察に通報しなきゃと思ったんです。でも、今朝もやっぱり電波状況が悪くて携帯電話は使えませんでした。それで、美穂子さんに電話を借りて一一〇番したんです。ところが、パトカーが来てくれたのはいいんですけど……」

 近くの交番から駆けつけたという警官コンビの冷やかな眼差し――。

 思い出すだけで、花は泣きそうになる。

 そのときだ。群青がおもむろに目を開けた。ガラス玉のような冷たいブルーの瞳が一瞬、キラッと光を放った。

 「警官を洗面所に案内したところ、鏡も洗面ボウルも元通り、きれいになっていた――。だろ?」

 「よくおわかりですね」

 ――やはり、彼には特殊な能力があり、普通の人には見えないものが「視える」のだろうか。

 「何度説明しても、警察の人には本気にしてもらえませんでした。でも、美穂子さんは私の話を信じて、心配してくれています」

 「美穂子さんの年齢は?」

 「三十代後半だと思います」

 「仕事はしてるのか」

 「IT企業にお勤めです」

 「五十嵐フラットに住んでどれくらい?」

 「二十年近いそうです。五十嵐フラットでは最古参の住人です」

 「意地の悪い 姑 みたいなもんか」

 「いえ、誰にでも優しくて頼りになるお姉様ですよ」

 花は少しムキになっていい返した。

 「美穂子さんも、髪の長い女の人を目撃しています。昨日、管理人さんと一緒に部屋に上がってもらったとき、洗面所の鏡に女の人の顔が映っていたそうなんです。実は今日、美穂子さんに教えてもらったのですが、私たちが目撃した髪の長い女の人は、七緒さんという名前の女子大生の幽霊みたいです」

 五十嵐フラットが完成したのは、今を遡ること五十年前。現在の大家さんのご主人で、実業家の五十嵐仁太郎氏が生前に建てたものだ。しかし、完成後、一年もしないうちに一〇一号室を借りていた女子大生が、失恋を苦に室内で首を吊り自殺。腐乱死体で発見されるという痛ましい事件が起きた。

 「自殺した女子大生。それが、七緒さんです」

 美穂子さんは五十嵐フラットに住みはじめた当初、古参の住人からこの話を聞いたという。

 事件以降、一〇一号室は管理人室として使用されていた。だが、数年前から他の部屋より家賃を大幅に安くして再び女子大生を対象に貸し出されるようになった――。

 「レトロな洋館造りの建物は乙女心をくすぐりますから、いつも借り手がすぐにつくそうなんです。ところが、七緒さんの幽霊が徘徊するものだから、部屋を借りている女性は気味悪がって、皆さん、よそのアパートに引っ越していく。美穂子さんに今朝、そう聞きました。あ、そうだ。先生に一つ、見ていただきたいものがあります」

 花はリュックを引き寄せ、中をごそごそやってビニール袋を取り出した。

 「長い髪の毛が一本、枕元に落ちていたので、この通り、持参しました。最近、遊びに来た友達はいませんし、私の髪はセミロングで長さが違います。七緒さんの髪の毛ではないでしょうか」

 「ん?」

 花からビニール袋を受け取るや、群青は着物の袖口に手を入れ、カードケースを取り出した。そうして中からクレジットカードのようなものを一枚引き抜くと、ビニール袋の髪の毛にかざしている。

 「それは……?」

 「顕微鏡」

 「カード型の顕微鏡なんてあるんですか? 初めて見ます」

 髪の毛を調べる群青に、花は小声で伝えた。

 「早く引っ越したほうがいい。今朝、美穂子さんにそう忠告されました」

 群青が顔を上げた。怒っているみたいに表情を険しくさせている。

 「美穂子さんの意見に私も賛成だ。一〇一号室は即刻、引き払え」

 いきなり命令形でいわれて面食らった花は、目をまん丸くして尋ねた。

 「髪の毛から、何かわかったんですね」

 「…………」

 いったい何が明らかになったのか。花だって知りたいのに、群青は答えてくれない。

 彼はカード型顕微鏡を袂にしまいながら、事務的な口調で尋ねてきた。

 「君が五十嵐フラットで暮らすようになったのは、いつから?」

 「去年の十二月半ばからです」

 五十嵐フラットの住人になって、ちょうど四カ月になる。それまでは埼玉県秩父市郊外の親戚宅に下宿していた。親戚宅から大学のある渋谷区広尾までは片道二時間半。電車の乗り継ぎがスムーズにいかないと三時間かかることも珍しくなかった。

 「遠いと、交通費もばかになりません。でも、大学のある広尾・恵比寿界隈のアパートは、どこもお家賃が高くてとても私には手が届きませんでした。それが、去年の十二月、五十嵐フラットの前を通りかかると、空室あり、という貼り紙がしてあり、お家賃も信じられない安さだったから、その場で即決したんです」

 「当分、また秩父から通学するんだな」

 「そんな……」

 一度、気ままな一人暮らしを経験すると、いくら親戚とはいえ色々と気をつかう下宿生活には戻りたくない。

 「遠くて通学が大変です。それに、今回こちらのお寺に相談に伺ったのは、一〇一号室に出没する霊をご住職の力で成仏させてほしい。それをお願いするためです。七緒さんの霊が彷徨っているのは、成仏できていないからですもの」

 群青が眉間に皺を寄せ、厳しい表情で花に告げた。

 「何でもかんでも霊のせいにするな」

 「え……」

 自ら「心霊コンサルタント」を名乗っておきながら、霊のせいにするな、とは、矛盾の塊のような人だ。だが、ふざけている風にはとても見えない。いや、鋭い眼差しといい、張りつめた口調といい、彼の態度は真剣そのものだった。
 

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入江夏野

東京都生まれ。会社員生活を経てジュニア小説家となる。1996年、別名義で某ミステリ新人賞を受賞。本作は入江夏野名義での初作品。

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