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2012.06.01

連載エッセイ72

大友克洋の倫理とポストモダンの表象
「大友克洋GENGA展」

中条 省平

大友克洋の倫理とポストモダンの表象<br />「大友克洋GENGA展」

  前回の本稿でマンガにおける超絶技巧というテーマを扱いましたが、そこで言及した日本を代表する超絶技巧のマンガ家、大友克洋が奇しくも現在、原画展を開催しています(5月30日まで)。
 これまで大友克洋は原画の展覧会を開いたことがなく、これが初めての大規模な展示の機会になります。きっかけは3・11の東日本大震災で、宮城県出身の大友克洋は震災を契機に、「今自分には何ができるのか?」という問いを自分に向け、その答えが今回の原画展となりました。自分はマンガ家なのだから、自分にできることはその原画を出すことのほかにない、という考えです。そこには、自分を裸にする勇気とともに、現在、マンガという表現形式が到達している位置の高さを示すという自負もあることでしょう。
 私個人はマンガの原画を見ることにさほど興味をもっていません。マンガはオリジナルを見せる芸術ではなく、最初からコピー印刷を見せる複製芸術です。オリジナル原稿がどんなに書きなおされていても、印刷された版面にアラが見えなければそれでいいのです。
 逆にいえば、マンガの原画を見ることは、むしろ失望をひき起こすことのほうが多いのです。それは手塚治虫や水木しげるといった大家の場合も例外ではなく、印刷した紙面では見えなかった汚さや拙さが原画に露呈していて、わかっちゃいるけど、がっかりすることがよくあります。
 ベンヤミンはオリジナル芸術にあって複製芸術に欠けている何かを「アウラ(オーラ)」、すなわち霊気、霊光と呼びましたが、マンガの原画にはマイナスのアウラが作用するという皮肉な逆説を感じることがしばしばありました。
 それでは、「大友克洋GENGA展」はどうだったかといえば、圧倒的! のひと言です。その原稿は描きなおしがほとんどないだけでなく、原画にくっつくほど目を近づけても、その筆致はいささかのゆるみやゆらぎも見せず、スクリーントーンの貼りこみさえ、手で描かれた部分と判別が不可能に思えました。その超絶技巧の凄さを説明するためには、ブリューゲルとかデューラーとか、フランドルや北方の絵画の巨匠たちの名前を呟きたくなるほどです。もしかしたら後世の評価は、昭和~平成のもっとも力量ある画家のひとりとして大友克洋を名ざすのではないかとも感じました。心底恐るべき画力なのです。

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