現在、コラムニストとしてだけではなく、コント作家、脚本家、舞台のプロデューサーなど、多方面で活躍中のワクサカソウヘイさん。

そのワクサカさんの新刊『男だけど、』が、とにかく笑える、共感できると好評発売中です。刊行を記念して、本の読みどころを一部ご紹介します。

第10回目は、カワイイが溢れる国ベトナム・後編。夜中の公園で、ラジカセから流れる音楽に合わせて、一心不乱に身体を動かす老若の女性たち。「闇夜ジム」とも呼ぶべき、不思議な光景を目の前にして思ったこととは。

 

*  *  *

さて、ベトナムグルメに心を震わせているうちに、ホーチミンに夜が来た。

日中、カワイイ雑貨、そしてカワイイスイーツに破竹の勢いで触れまくったことで、心のチェックシートはポイント加算の嵐、もはや一日目は「カワイイ!」の圧勝である。

ホテルに戻ろうと、ホーチミン市内にある広大な公園を横切っていく。

公園内を行き交うベトナム人たちの会話が耳に飛び込んでくる。ベトナム語は不思議なイントネーションを纏っていて、日本人である僕の耳にはそれが

「にゃあにゃあ」

「みゃあみゃあ」

と言っているように聴こえる。まるで、子猫だ。カワイイ。

 

すると、不思議な光景が眼前に現れた。

夜中の公園に、老若の女性たちが集まり、ラジカセから流れる音楽に合わせて、エアロビクスを踊っているのだ。

「はい! 次はジャンプをしながら、両手を左右に振って! ワンツー! ワンツー!」

トレーナーの女性のワイヤレスマイクの指示のもと、一〇〇人はいると思われる女性たちが、一心不乱に身体を動かしている。

よく見ると、公園のあちこちに、そのようなエアロビクス集団たちが散在している。

さらにさらに。公園内には日本でもおなじみの健康器具が置かれているのだが、そこにも大勢の女性たちが群れていた。鉄棒タイプのぶら下がり器具には、「これってプーさんのハニーハント?」というくらい、人が並んでいる有様である。

また、公園の小路では、カップルたちがバドミントンに夢中になっている。

白熱灯の薄明かりの下、健康に必死になっている、夜のベトナムの人々。

「闇夜ジム」とも呼ぶべき、不可思議な光景がそこには広がっていた。

僕はなんだか、胸にジンとしたものを感じてしまった。夜中に大勢で集まってエアロビクスをするなんて、ベトナム人は、変だ。変だけど、この光景は、どこか郷愁を誘うものがある。

初めて見る光景なのに、どこか懐かしい。

この、旅中における「初めて見る光景なのに、どこか懐かしい」という使い古された感想は、“女の子ちゃん”が漏らしがちなものである。“女の子ちゃん”は旅先に出ると、なにかにつけてこの(初めて見る光景なのに、どこか懐かしい)という、他人にとっては至極どうでもいい感想をこぼす。

カンボジアのアンコールワットに沈む夕日を見ては(初めて見る光景なのに、どこか懐かしい……)。

石垣島の海岸で漂着物と戯れる子どもたちの姿を見ては(初めて見る光景なのに、どこか懐かしい……)。

ラオスの市場に放し飼いにされたヤギが雑草を食んでいる様を見ては(初めて見る光景なのに、どこか懐かしい……)。

もはや「初めて見る光景なのに、どこか懐かしい」の大盤振る舞いであり、この美しい地球に残された数かぎりある「初めて見る光景なのに、どこか懐かしい」の使いすぎには注意をしよう! といった具合なのであるが、この夜のホーチミンの公園での「初めて見る光景なのに、どこか懐かしい」は、今までのどれとも違う、本気の感想であった。

もし自分がベトナムに生まれていたら、今頃、この夜中の公園のどこかで、ペダルを漕いだりしていたのだろうか。もしかしたら、ちょっと運命が違っただけで、僕もベトナム人女性として、このエアロビクスに参加している人生があったのではないだろうか。ノスタルジックな気分に包まれ、思わずそんな誇大妄想を広げてしまう。

 

ベトナムは変で、そしてやっぱり、ベトナムは、カワイイ。

そのカワイイは、“女の子ちゃん”が今まで旅の中で探していた種類のものとは、ちょっと違う。

それは真綿のような、優しさのある、カワイイだ。

 

すでに「カワイイ!」の圧勝で幕を閉じようとしていたベトナム初日。夜の公園で思わぬボーナストラックに出くわし、ポイントはさらに加算され、もはやこの旅での「カワイイ!」の勝利は揺るぎないものになったと思われた。

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次回は11月21日(土)更新予定です。

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