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2015.11.08

第6回

〈京都〉カワイイの宝石箱やで……(中)

ワクサカソウヘイ

〈京都〉カワイイの宝石箱やで……(中)

現在、コラムニストとしてだけではなく、コント作家、脚本家、舞台のプロデューサーなど、多方面で活躍中のワクサカソウヘイさん。

そのワクサカさんの新刊『男だけど、』が、とにかく笑える、共感できると好評発売中です。刊行を記念して、本の読みどころを一部ご紹介します。

第6回は、カワイイ雑貨や喫茶店が大好きの人にとって楽園のような場所、京都・中編。三十三間堂、京都タワーの地下の大浴場、そして六曜社のドーナツ……。自分の「男っぽさ」と、心の中の“女の子ちゃん”のカワイイを巡る戦いが始まります。 

*  *  *

その日の京都は、初夏のさわやかな青空が広がっていた。

“女の子ちゃん”に「カワイイ・センサー」のスイッチを入力されたことが決め手となって訪れた、京都一泊二日の旅。雑貨屋と喫茶店を中心に、とにかくカワイイものに触れまくる予定である。

(さて、手始めにどの店に行こうカナ? やっぱり河原町の喫茶店「ソワレ」? それとも、北欧の雑貨が充実している本能寺横の「アンジェ」?)

そんなことを“女の子ちゃん”と考えながら、僕が最初に足を向けたのは、あろうことか、三十三間堂であった。

ずらっと立ち並ぶ、千手観音像。それは本当に見事で壮観ではあるが、ここにあるのは「カワイイ!」ではなく「コウゴウシイ!」であり、「オソレオオイ!」である。そして言わずもがな、「カワイクナイ!」でもある。今回の京都旅行に求めていたものとは、一八〇度違うものだ。そんなことは三十三間堂に入る前から、わかりきっていたことである。

“女の子ちゃん”が唸る。(じゃあ、なぜいきなり三十三間堂を訪れてしまったの……?)

三十三間堂。これは完全に僕の「男っぽさ」のセレクトに他ならない。男というものは、不思議と神社仏閣を好む。まだ京都に到着して間もないこのタイミング、「カワイイ・センサー」がフル稼働していない隙をついて、「男っぽさ」は僕の足を三十三間堂へと向けさせたのである。“女の子ちゃん”が舌打ちをする。心のチェックシートに「マイナス1Pt」と書き込む。まずは一敗である。

さて、いきなり敗戦を喫してしまった。これはすぐにでも挽回せねばとばかりに、僕は次なる行き先を練り、バス停へと向かった。

目指すは三年坂。京都らしいお土産屋や甘味処、さらには雑貨屋が軒を連ねた、いま京都好き女子の間でとても熱いスポットである。むろん、そこには僕の“女の子ちゃん”が所望する「カワイイ!」も溢れているに違いない。僕は三年坂へと向かうバスへと飛び乗った。

(あぶらとり紙を買ったり、お抹茶飲んだりしよっと!)

ところがところが、気がつくと僕は、京都タワーの地下にある大浴場施設で、風呂に浸かっていた。

これはいったい、どういうことなのか。説明するまでもなく、これも「男っぽさ」の所業である。バスに揺られている最中、通りがかった京都タワー、そこの看板に「大浴場」の文字を発見し、「え? 京都タワーの地下に大浴場なんてあるの?!」と心をざわめかせ、気がつくとバスを降車、すみやかに入場料を払って裸になり、湯浴みを始めたというわけである。

男という生き物は、どういうわけか、銭湯的なものに目がない。さらには秘湯などに代表される、「こんなところにも温泉が?!」みたいな意表を突いたシチュエーションの風呂にも、目がない。僕の「男っぽさ」が、「京都タワーの地下の大浴場」を放っておくわけがないのだ。

目の前に広がるのは、湯船に浸かりながら汗を流す、裸体の男たち。肥満の裸、ガリガリの裸、老人の裸、裸、裸、男の裸……。もちろん、そこは「カワイイ!」からは縁遠い世界である。どんなに「京都」のフィルターを通しても、男の裸体が物語る圧倒的なリアルさは、「カワイイ!」には化けない。

(なんで金払ってまで、男の裸体を眺めなきゃいけないのよぉ!)

“女の子ちゃん”が絶叫する。三十三間堂でジャブを放ったうえで、カウンターとして大浴場を差し入れてくる。今日の「男っぽさ」は、なかなかに手ごわい。これで零勝二敗である。

風呂上がり、ここで負けてはならぬと思ったのか、“女の子ちゃん”は僕を三条にある「六曜社」へと向かわせた。

京都でも有数の老舗喫茶店、「六曜社」。雰囲気のある外装を目にするだけで、僕の“女の子ちゃん”はときめきを隠せない。店の中は地元客や観光客を問わず、女子と、いかにも心の中に“女の子ちゃん”を宿していそうなボタンシャツ男子たちで賑わっている。

特に女子たちの心を掴んで離さないのが、ここの名物、ドーナツである。

一眼レフの接写でそれを撮れば、すぐにでも『Hanako』の表紙に採用されそうな、女子的フォトジェニック力の高い、そのドーナツ。カワイイ。実に、カワイイ。

僕はそれを店員から受け取るなり、写メで撮ることも忘れ、穴も食べんばかりの勢いで貪った。そして気を落ち着かせたのち、ゆっくりと珈琲をすすり、(ああ、『六曜社』でゆるやかな時を過ごしている自分よ……)などと、特になにかをやり遂げたわけでもないのにたいした達成感に身をゆだねた。

そう、これである。自分が京都に求めていたのは、この時間である。カワイイものに包まれ、カワイイものに溶け同化した自らを、愛でる。この時間を存分に味わうため、“女の子ちゃん”は僕を京都まで運ばせたのである。

 

(これでなんとか、一勝ね)

“女の子ちゃん”が僕に囁く。ここからどう巻き返しを図ろうか。しばしの“女の子ちゃん”とのミーティングの結果、叡山電鉄に乗り、セレクト本屋の「恵文社」へと足をのばすことにした。

*  *  *

次回は11月11日(水)更新予定です。

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