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2015.11.26

日本的なレールから外れた人を待ち受ける茨の道。(岩波明『他人を非難してばかりいる人たち』)

羽田 圭介

日本的なレールから外れた人を待ち受ける茨の道。(岩波明『他人を非難してばかりいる人たち』)

『他人を非難してばかりいる人たち』
岩波明
幻冬舎新書/780円(税別)

 

 7月半ばに芥川賞を受賞して以降、連日取材ばかり受け忙しかったものの、特に実感として生活に大きな変化はないな、と感じていた。そんな自分が出演したテレビ番組が8月から順次オンエアーされ始めて以降、日常生活に変化がもたらされた。街中で、たまに声をかけられるようになったのだ。サイン会でも、「テレビ見て興味をもちました」等々の人が大勢いた。自分は今更、芥川賞がすごい、とはあまり思わないが、芥川賞受賞によりつながったテレビの影響はすごい、と実感した。やがて、人生初の、「死ね」というメッセージを受けた。顔も知らない人からのメッセージに、最初はショックを受けた。なんでも、僕がテレビで「背の高い女性が好き」と言ったことに対し、「おまえは女性を身長で差別する、ヒットラーと同じ思想の持ち主の差別主義者だ」というのだ。その後も、自分の発言をネットニュースで悪い方向に曲げられたりと、メディアでの負の洗礼を受けていった。

 メディア上での誹謗中傷からバッシングというと、2004年のイラク人質事件が真っ先に連想される。イラクに行き人質となり日本へ帰ってきた3人に対し、小泉政権やマスコミはしきりに「自己責任」と唱えていたが、ほとんど同じ頃、取材のためイラクへ行き銃撃され死亡した男性ジャーナリストのことは、まるで日本が誇る英雄かのように扱われていた。銃撃され死んだほうは英雄、いっぽう人質となり解放され生きて帰ってきたほうには猛烈なバッシング。この扱われ方の差はいったいどこからくるのだと、当時自分は強烈な違和感を覚えていた。本書ではその一連にも言及している。〈彼らは自宅の住所まで特定され/3人の住所は、日経新聞がネット上で一時的に公表したのである〉〈この人質事件がきっかけとなって自衛隊の派遣に反対する世論が盛り上がることを恐れ、政府関係者は、人質の3人を「悪者」に仕立て上げるように画策したのであるが、これが見事に成功を収めた〉と書く著者は「議論のすり替え」を指摘し、過去の例として、沖縄返還の密約問題が、それをスクープした毎日新聞西山記者の情事の問題に矮小化され本来の密約問題が隠蔽された「西山事件」などにも触れる。〈当時も今も、日本の大衆にとって、政府と米国の密約など実はどうでもよい問題なのである。それよりも、週刊誌的なスキャンダルである新聞記者と女性外務省職員の情事の方が、はるかにアピールするネタであり、政府側はこれをうまく利用した〉。〈いったん騒動が静まってしまうと、みなすべてを忘れてしまったかのようになり、背景にある問題はほとんど手つかずとなることが珍しくない〉。

 過度なバッシングで自殺に追い込まれた人の例としては、鳥インフルエンザが発生した頃の農場の経営者、ブログが炎上した岩手県議会議員。そこまではいかなくとも、歌詞をバッシングされたアーティスト、長年「慣習」とされてきたことをある日突然「犯罪」とされ恣意的に摘発されてしまう政治家、ある日突然スキャンダルで王座から引き下ろされボコボコにされる大物芸能人や生意気な発言をした若手女優。国政にかかわる政治家のことならともかく、若いアーティストや芸能人の失言など、せいぜい〈周囲の「大人」がたしなめればすむこと〉であるにもかかわらず、マスコミは非難の大合唱をする。ネット上のバッシングということに関しては日本独特のものではないらしいが、〈日本における特徴としては、議論が一方向的に限定される傾向が強い〉〈「流れ」ができてしまうと、多くの人はその流れに沿って行動をとる/下手に反対意見を唱えると、今度は自分がバッシングの標的となりかねないから〉。

 日本独特のバッシングを解き明かす終盤では、〈日本人の大部分は/比較的同質の集団の中で生きていかなければならない〉〈日本人の価値観は、似たようなものになりやすい〉〈嫉妬心などの陰性感情の向かう方向も類似のものになる〉。それが故に、〈日本の社会は、そこに住む個人に対して、道をはずれることなく、標準的なライフコースをたどるよう暗黙のうちに求めている〉〈多くの日本人は、日本社会が定めた「安全」な人生経路を心地よいものとは思っていないし、できればそこから逃れたいと感じている〉。

 小説家などという、世間一般からはみだした特殊な生業についてしまった自分にとって、今のところ芥川賞受賞のブーストは、正のほうに作用している。数日前、部活帰りらしき中一くらいの男子軍団十数人に囲まれ、スマートフォンで写真を撮られまくった。苦笑いのまま「こんにちは」と返しつつ早歩きで逃げるしかなかった。まだ子供の彼らも、ネットでは年齢不詳の匿名人物になり、名前と顔を知られている自分はどのようにも持ち上げられたり、攻撃されたりする可能性がある。レールから外れた者には厳しい社会だ。

『ポンツーン』2015年11月号より

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