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2015.11.22

かつての恋とロックが、雪の惨劇として、今、暴れ出す!(森晶麿『そして、何も残らない』)

村上 貴史

かつての恋とロックが、雪の惨劇として、今、暴れ出す!(森晶麿『そして、何も残らない』)

『そして、何も残らない』
森晶麿
幻冬舎刊/1500円(税別)

 

 真琴という少女の恋物語であり、彼女が体験した連続殺人劇を活写するサスペンスであり、そしてロックンロールのなかで彼女が未来に向けて歩む決意を描く青春小説である。

 中学の頃、真琴たちは軽音学部に所属していた。だらだらと放課後を過ごす彼女たちだったが、三年のときに転校してきた幾田透がすべてを変えた。音楽の才能にあふれた透の導きで、軽音学部のなかに四人組のバンド〈がらすちっく〉が誕生する。メンバーの才能が引き出され、活かされ、そして学園祭で喝采を浴びた。透のヴォーカルが、三人のドラムとベースとギターが、ロックに興味のない中学の生徒たちをも熱狂に巻き込んだのである。

 そのバンドを壊したのが、体育教師の内山康だった。町を支配する大地主の跡継ぎであり、肉体的にも頑健な彼が、転校当初から気に入らなかった透をぶちのめし、楽器を破壊したのだ。それでも内山は不問に付された。平静町とはそういう町であり、平静中学とはそういう学校だったのだ。

 そして透が死んだ。壊れた楽器が転がる軽音学部の部室に、彼自身も亡骸となって転がったのだ。死因は心臓発作。当然のことながら、内山にはなんのお咎めもなかった。

 それから三年が過ぎた冬のこと。真琴は再び平静中学に向かっていた。透の妹である璃依沙が、内山への復讐を実現しようと当時の軽音学部のメンバーを呼び集めたのだ。今は既に廃校になった平静中学に。橋が落ちれば陸の孤島のようになってしまう平静中学に。降りしきる雪につつまれた平静中学に。

 メンバーが集合し、璃依沙が再会の乾杯を呼びかけたときのことだった。ミニコンポから透が〈がらすちっく〉のために作った曲「and there were……」が流れ、それが唐突に途切れた後、彼らの死を予告するような内山の声が流れてきた。そして、惨劇の幕は切って落とされた……。

 実に計算高く作られたミステリである。いくつもの罠を作者は仕掛けている。数が多いだけではなく、質の面でも異なる罠が、読者を待ち受けているのだ。その著者の手腕をきっちり味わうためには─ここまで書いておいてからいうのも申し訳ないが─帯の宣伝文や概要紹介などの一切の情報を抜きにとにかく本文に取りかかるのがよかろう。そこで罠に気付くもよし、罠にはまるもよし、いずれであっても(前者は少数派だろうが)、森晶麿がギリギリまで危険を冒し、身を賭して展開した罠や伏線が次々と明かされていく終盤の醍醐味を、その本来の味で堪能できるはずだ。

 しかも、ミステリとしてはある典型を踏襲していて、それもまた読者を喜ばせる。書籍の題名や〈がらすちっく〉の曲の題名から感付かれる方も多いだろうが、アガサ・クリスティーの名作の展開を踏襲しているのだ。あちらは童謡に従って孤島で人が一人また一人と殺されていく。こちらは……読んでのお楽しみだ。

 そうしたミステリの刺激に、恋物語がしっかりと絡みついている点も本書の特徴である。中学生の少女の恋心とプライド、あるいは嫉妬心、それらがピュアに語られると同時に、現在進行中の事件との関連でも意味を持って描かれている。この手腕もまた見事だ。

 ロックの彩りも読み逃せないポイントである。実在の人物やグループの名前を効果的に活かすだけでなく、透が作る曲を通じて登場人物の心境を示し、あるいは曲によって登場人物の心を動かすのだ。このあたりの音楽の使い方のセンスは実に鮮やかだ。さらに、Fメジャーセブンスというコードを通じて人間の特質を表現するという試みも興味深い。小説家である森晶麿の耳のよさが感じられる文章表現である。ちなみに彼は自分のブログで“黒猫の夜話あるいは活字ラジオ”なるものを行っており、自分の生んだ人気キャラクター“黒猫”と作者が対談しつつ、時折音楽をかけるといった趣向を展開している。そうした著者だけに、本書でも文と音楽が実に自然に一体となっており、そしてそれだからこそ生み出しうるスリルとサプライズがここには存在するのだ。

 そして事件と恋とロックが、真琴を次の一歩へと押しやる。その姿を描いたラストシーンは、読者の心に深く残るであろう。

 森晶麿。2011年に『黒猫の遊歩あるいは美学講義』で第一回アガサ・クリスティー賞を獲得してデビューした作家である(受賞作刊行に先立ち、『奥ノ細道・オブ・ザ・デッド』も刊行)。そんなクリスティーゆかりの作家がクリスティーの名作に挑んだ本書は、そう、恩返しのような一冊なのである。恩返しに相応しく、従来のパターンを踏襲したうえでの新たな衝撃と、恋愛およびロックという新しい要素を備えており、読後満足必至の完成度である。

『ポンツーン』2015年11月号より

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