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2015.11.10

珍味であり砂糖菓子ともいえる組織人たち。(田丸雅智『日替わりオフィス』)

中嶋 朋子

珍味であり砂糖菓子ともいえる組織人たち。(田丸雅智『日替わりオフィス』)

『日替わりオフィス』
田丸雅智
幻冬舎刊/1300円(税別)

 

 私は、会社組織で働いた事がない。子供のころから、ドラマや映画、舞台といった、作品作りの組織、チームの中では働いた事があるが、その組織や、チームも流転する。水商売ともいわれたりするが、流れ行く仕事場に、流れ着くような仕事の仕方をしているわけである。だからなのか、どうも、社会というものとの接点が、希薄な気がしていて、それが、コンプレックスとなり、会社組織に属し、働いている人々が、得体の知れない、とてつもない事をやり遂げている、未知な存在に感じられ、永遠に頭のあがらない先輩のごとき、上級者に思えてならない。

 なぜ、このような、コンプレックスの吐露をせねばならないかというと、本作、『日替わりオフィス』は、私の根幹に横たわる、“会社組織コンプレックス”なるものに揺さぶりをかけたからである。

 本作『日替わりオフィス』内で繰り広げられる、組織人たちの欲望、葛藤によって、呼び寄せられる物語は、どれも、私に言わせれば、おぞましい。企画を絞り出すのに苦労する男は、気鋭のアイデアマンの“閃きの種”を奪うことに奔走し、優柔不断に捺印された印鑑は逃走して、手に負えない。働き詰めのキャリア女子は、「働く女子のパートナー」という謳い文句の“恋子レンジ”なるもので、恋心を“チン”しているし、自分の“死”に、自らでは気づけない企業戦士が出る始末。

 “個”の手綱を、自ら制御し、“集団”の中に息づく事を求められながら“個”の最たるもの、“オリジナリティー”も発動させなければならない。その状況下の人々の欲求を満たすものは、ものすごく負荷がかかった挙げ句、歪んだ姿をしてしまうものなのかもしれないなぁ、と思い、組織として、集団となり、社会を動かしているものの本質が見え隠れするようで、やや身震いがする。

 が、しかし、この『日替わりオフィス』と銘打たれた、十八種類の組織人たちからもたらされるものは、なぜだか嫌悪には至らず、言ってみれば、もう一口、もう一口と、箸が止まらない珍味のように、愛着すら感じさせるものへと一変するのだから不思議だ。

 混沌とし、充満、蓄積した「誰もが思っている事」たちが、化け物と化し、社会の闇となっていく─というのは物語上、何となく聞く話。それって、リアルなようでいて、その実、本来、人間が持っている、というか、しがみついている、正常化しようとする本能と、かけ離れた“うごめく闇に絡めとられていく!”的な、ダークサイドファンタジーであると言える。本作は、そこのところで終わらず、ファンタジックな非日常を超えてなお、日常を動かす“小さな力”に帰っていこうとする“重力”のようなものが、しっかりと働いている。ゆえに、虚構の世界であるにもかかわらず、実を感じられる質感を持っていて、その感触が、何とも言えない愛おしさをもたらすのに違いない。

 田丸雅智さんの作品によって、ショートショートの味わい深さを知った私は、これまで、何作も、彼の作品を読み漁ってきた。ショートショートの醍醐味である、短いながらも、起伏に富んだ作品群は、情感に訴えるもの、奇想天外なもの、実に様々な色合いを持ち、読み手に、心地よい興奮とカタルシスを与えてくれる。

 そう、カタルシス。日常の、ほんの少し先、他愛もない世界から始まる田丸ワールドは、ささやかなものの積み重ねであった“日常”を、いつしか、軽やかに飛び越え、覆す。短く、小気味よい作品を読み進めていくと、そんな破壊的であるかのような“日常”というものを打ち砕く行為の先に、とてつもなく柔らかな着地点が、心の中にふわりと用意されてしまう。“破壊と創造”とまで言わないが、心に漫然と広がっていた、何とも言えない惰性的な“日常”が、姿を変え、純化され、今度は、“何とも言えない日常”に戻っていく。いわば、人間の業の肯定。これは、作者、田丸氏が持つ、物事を見る“目”の美しさに起因しているものではないかと思う。驚くほど真っ直ぐな視線のまま、どんなものにも存在する、汚れや、美しさ、そんな薄皮を優しく剥ぐように、世界を語る。これは、田丸ワールドの真骨頂とも言えるかもしれない。

 世の中の片隅で、私が畏れてやまない、世の会社組織の一隅で、そんな、田丸ワールドが、繰り広げられている─そう、思ってみたりすると、少し口角が緩む。社会、世の中への漠然とした不安や、人生に、たびたび姿を現す、根拠のない焦りのようなものが、まるで、砂糖菓子のごとく、あっけなく溶けていくのだ。

 私たちが持つべき“日常”と言うべきか。私たちが本来見つめるべき世界と言うべきか─。

 ぜひ、そんな浄化を味わっていただきたい。

『ポンツーン』2015年11月号より

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