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2015.11.07

罪と罰と赦しと再生。波打ち際で揺れる人たち。(誉田哲也『プラージュ』)

瀧井 朝世

罪と罰と赦しと再生。波打ち際で揺れる人たち。(誉田哲也『プラージュ』)

『プラージュ』
誉田哲也
幻冬舎刊/1500円(税別)

 

〈プラージュ〉とはフランス語で海辺の意味。それは海と陸の境界線だ。たとえていうなら善と悪、罪と罰、真実と嘘、そして罪と赦しの境界があいまいになっていく所。誉田哲也さんの最新作『プラージュ』は、そんな波打ち際のような場所が舞台だ。

 旅行代理店の営業マンだった吉村貴生は上司になじられくすぶり続ける日々を送っていた頃、飲み歩いて酔っ払った挙句に、覚醒剤に手を出して捕まってしまう。初犯のため執行猶予となるが、職も住まいも失った彼は、保護司の紹介でシェアハウス〈プラージュ〉に入居することに。そこは一階は飲食店、二階はドアなしの個室が並ぶ奇妙な建物。二階の住人はオーナーの朝田潤子、貴婦人のような矢部紫織、まだ二十歳の無表情な小池美羽、古着屋勤めで調子のいい中原通彦、ギター弾きの加藤友樹、小柄だが目つきの鋭い野口彰。どうやら彼らもワケありの様子だ。住人の食堂も兼ねている店は常連客が集まって夜な夜なパーティ状態。肝心の就職活動はうまくいかないものの、貴生は店を手伝いながら皆と交流を深めていく。

 貴生をメインに、住居者たちの視点が次々に現れて、少しずつ彼らの日常、そして素性が明かされていく。が、その一方で紛れ込む異質な存在が、正体不明の記者の語りだ。ある殺人事件を追っていた彼は控訴審で容疑者の青年の無罪が確定したことに納得せず、独自に調べを進めている。つまりは脛に傷を持つ若者たちの青春群像劇と、不穏な探偵小説が交互に進行していくのだ。やがてこの二つのストーリーは絡み合い、複雑な様相を見せていく。ミステリーから青春小説までさまざまな読み味の作品を発表し続ける誉田さんにとっては、この二つを編み上げるのはお手のものだろう。

 ただ、それぞれの人生模様が明るみになるたびに、その壮絶さには息をのんでしまう。殺人を犯した人間もいる、今でも生きにくそうにしている人物もいる。貴生自身、自分の前科が旅行業界内で広まっている事実を知り、二度と前職と同じ仕事には就けないという現実に苦しむ。

 彼らが望むような生活を取り戻せない理由は、三つあるのではないかと思える。一つめは、世間が前科者に対してそれを許さないということ。二つめは、彼ら自身が自分を許せないということ。三つめは、まだどこか社会のルールが理解できずにいること。彼らはそうした問題を乗り越えていけるのか。人生で一度大きな間違いをしてしまった者は、やり直すことはできないのだろうか。海辺で波にさらわれてしまった人間は、もう岸辺に戻ることができないのだろうか。

 自身も事情を抱えるオーナーの潤子は、間借り人たちに過剰に理解を示すことも、更生させようと何かを強いることもない。つまりは彼らの過去を意識した様子を見せずに自然に接している。近所の老人や、やんちゃな常連客たちだってわだかまりは見せない。そんな風に、刑に服した後(貴生は執行猶予だけだが)、今そこにいる彼らの姿をそのまま受け止めてくれる存在は救いだろう。また、住人同士が互いに過去をすべて明かすわけではないが、ある程度傷を分かち合える存在がいることも大きい。貴生にいたっては、こんな状況でありながら、ある人物に恋心まで抱くように……。この青年、何も考えてなさそうでいて危なっかしいのだが、その分他人に対して先入観や決めつけを持たずに、ありのままのその人を見ようとしている姿勢が好ましい。

 彼らの人柄が分かっていくほどに、この先の人生は幸せになってほしいと思えてくる。その一方で気になるのは、記者の存在だ。彼が真実に辿りつきそうな頃、新たな事件が発生。シェアハウスの人間たちは敵に立ち向かわなければならなくなる。そこでまた、予想外の真実が立ち上がってくる。最後の数ページは驚きの連続だが、同時に、人は再生する生き物なのだと思わせてくれる展開。

 潤子の思いが響く。

〈大切なのは、悪事を頭に思い描いても、それを実行に移さない理性であろうと、潤子は思う。あるいは、もう自分は悪の側にいかない、加わらないという、確固たる意志だ。決して、前科者を悪事ができない環境に押し込めて、雁字搦めにすることが重要なのではない。〉

 現実の世界では、過去に重大な事件を起こした人間が社会に復帰した後、やっぱり更生していないんじゃないかと思わせる出来事もある。それでも、すべての人間がそうなわけじゃない。やっぱり人の心を信じていたい。その思いは決して間違いではないと、確信させてくれるのがこの小説だ。

『ポンツーン』2015年11月号より

 

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