毎日を1%ずつ新しく生きる! 刺激と感動のマガジン&ストア

★がついた記事は無料会員限定

2012.09.01

連載エッセイ75

漫画家残酷物語―なぜ60歳で死んでしまうのか

中条 省平

漫画家残酷物語―なぜ60歳で死んでしまうのか

  文芸季刊誌「en─taxi」(2012年夏号)が巻頭特集として「浦沢直樹『巨大なるマイナー』」という記事を載せています。浦沢直樹に重松清がインタビューと取材をおこない、比較的長めのルポルタージュにまとめたものです。
 タイトルの「浦沢直樹『巨大なるマイナー』」というのは、超大作で驚くべき商業的成功を収めながら、マンガ執筆の動機と姿勢にひどく個人的でマイナーなこだわりを保持しつづけるという、浦沢の屈折した作家性を示唆しています。重松清の筆によってきわめて巧みな(ちょっとクサいともいえる)作家のキャラクター研究になっていて読み応えがあるのですが、私にとっていちばん印象的だったのは、次のような一節でした。
「初日の[書き手・重松清の]取材メモには、浦沢さんが敬愛し、早すぎる死を惜しんでいる物故作家の名前が何人も記されている。
 手塚治虫、享年六十。石ノ森章太郎、享年六十。藤子・F・不二雄、享年六十二。そのあたりの大御所に加えて、『石の花』の坂口尚、享年四十九。『女フィスト(メフィスト)』『ブリキ細工のトタン屋根』の三山のぼる、享年五十一。アニメ『千年女優』の今敏、享年四十六。そして取材の約一ヶ月前に訃報に接したばかりの『同じ月を見ている』の土田世紀、享年四十三」
 戦後マンガ界をリードしてきた手塚はじめトキワ荘出身のマンガ家が60歳前後で亡くなっているし、アシスタント任せにせず自分自身でかなりの部分を描く浦沢好みのマンガ家たちが50歳前後から下手をすれば40代で逝ってしまうというのです。浦沢直樹自身、肩が激痛で動かなくなり(プロ野球か格闘技の選手みたいです)、生き方を変えざるを得なくなるところまで追いつめられ、その結果、命拾いをしたと思う、と語っています。マンガ家は命を削る肉体稼業だということです。はたで見ているほど気楽な仕事ではありません。にもかかわらず、いや、だからこそ浦沢直樹はこう語っています。
「手塚先生が六十歳で亡くなったのを思うと、もうあまり時間がないということですよね」
 だから、残された時間を使って、ともかく描きつづけねばならないというのです。クールでスマートな仕事ぶりを印象づける浦沢直樹ですが、その量産的ともマーケティング戦略的ともいわれる創作の背後に、業と呼びたくなるような、これだけの執念が隠れていることを知って私は感動しました。

ログイン

ここから先は会員限定のコンテンツ・サービスとなっております。

無料の会員登録で幻冬舎plusを更に楽しむ!会員特典をもっと見る

会員限定記事が読める

バックナンバーが読める

電子書籍が買える

イベントに参加できる

★がついた記事は無料会員限定

関連書籍

中条省平『マンガの論点』
→書籍の購入はこちら(Amazon)

10年前すでに戦争とテロと格差社会を描いていたマンガは、つねに世相の3歩先を映し出す予言の書である。そしてその後、何を予言し的中させてきたか。マンガを論じるとは、まさにこれを読み解くことでもある。『デスノート』『ソラニン』『すーちゃん』『へうげもの』『闇金ウシジマくん』『20世紀少年』『この世界の片隅に』『JIN-仁-』『PLUTO』『鋼の錬金術師』etc.からフランスのマンガBD【ルビ:ベーデー】まで、この10年間の数百冊を取り上げ、読み方のヒントを明示し、現代日本そのものを読み解く。


中条省平『マンガの教養』
→試し読み・電子書籍はこちら
→書籍の購入はこちら(Amazon)

マンガなど読んでいてはバカになる―そう嘆く世の風潮を激しく批判し、マンガと劇画を擁護した三島由紀夫は、かつてこう説いた。「若者は、劇画や漫画に飽きたのちも、これらを忘れず、突拍子もない教養を開拓してほしい。貸本屋的な鋭い荒々しい教養を」と。そして今、大学中心の教養主義が崩壊し、かつて「反」の象徴だったマンガが教養として語られる時代となった。ギャグから青春、恋愛、歴史、怪奇、SFまで豊饒たるマンガの沃野へ踏み出す第一歩のための、最適な傑作100冊とその読み方ガイド。

記事へのコメント コメントする

コメントを書く

コメントの書き込みは、会員登録とログインをされてからご利用ください

おすすめの商品
  • ピクシブ文芸、はじまりました!
  • 文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞作!
  • 無理しないけど、諦めない、自分の磨き方
  • 時短、シンプル、ナチュラルでハッピーになれる!
  • ビジネスパーソンのためのマーケティング・バイブル。
  • 有名料理ブロガー4名が同じテーマでお弁当を競作!
  • ドラマこそ、今を映すジャーナリズム!
  • 砂の塔 ~知りすぎた隣人[上]
  • 小林賢太郎作品一挙電子化!
  • あなたがたった一人のヒーローになるためには?
文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞作!
ピクシブ文芸、はじまりました!
エキサイトeブックス
今だけ!プレゼント情報
かけこみ人生相談 お悩み募集中!