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2015.10.23

第13回

ベトナムの大気汚染問題。経済成長と公害はどうしても切り離せないのか?

小原 祥嵩

ベトナムの大気汚染問題。経済成長と公害はどうしても切り離せないのか?

セピア色に霞むホーチミンの夕暮れ

私のオフィスは窓が多く、ホーチミンの街並みを一望できるところがお気に入りです。仕事で煮詰まった時などにふとベトナムの暑くギラギラとした太陽とどこか抜けるように青い空に目をやるだけでなんだかリフレッシュ出来るものです。

ある日、外出や来客の対応が続き朝からばたばたと慌ただしく過ごし、ようやくオフィスで一息つこうといつもの様に窓の外に目をやったところ、「ん??」どうも何かがおかしい。根を詰めてパソコンを見過ぎたかなと、目をこすって再度窓の外に目をやっても、やっぱりいつも見慣れた景色と違う……。なんだか霞がかかっている上に、夕焼けの色とは明らかに異なるセピア色に街全体が包まれていたのです。

一体これはどうしたことかと騒いでいると、スタッフの一人が「ヘイズの影響だ」と言うではないですか。

ヘイズとはシンガポールやマレーシアで毎年6月~10月ぐらいに問題となる煙害のことで、インドネシアはスマトラ島で毎年行われる大規模な野焼きで発生した煙が南西の季節風に運ばれてくるために起こります。単なる煙と侮るなかれ、咳やくしゃみだけでなく、ひどい時には気管支炎をも引き起こしてしまうのです。

バイク運転中、マスクは必須

このようにヘイズはシンガポールやマレーシアのことだと思い込んでいたので驚きました。調べてみると、ここホーチミンでも人体に悪影響が出る日もあり、屋外での運動を控える人も少なくないようです。毎日の様に降る雨が汚染物質も洗い流してくれそうなものなのですが、実はむしろその逆で、夜中に降った雨が日の出とともに蒸発する過程で粒子を取り込み、霧や霞となって永らく空中に留まってしまうのだと言います。

日本でも中国で発生したPM2.5によって暮らしに影響が出ましたが、ある国で発生した公害が国境を越えてくるようになっているんですね。

薄曇りのホーチミン

そもそも、年々ヘイズの影響が拡大しているのは、伝統的な焼き畑の規模を遥かに越えたパーム油のプランテーションが急速に増大しているからです。スマトラ島での消費ではなく周辺国の需要を満たすために投資が流れ込み、プランテーションの規模は拡大され、その結果しっぺ返しのようにヘイズが拡散している様はなんとも皮肉なものです。

持続的かつ全地球的な視点での開発がより一層求められる時代だと思います。

ヘイズの影響や増加するバイク・車の排気ガスによる空気の汚染が徐々に日々の暮らしを蝕み始めたことで、ベトナムの人々の公害問題に対する関心は少しずつですが増加しているようです。

大気汚染や気候変動の現状を伝えるNGOが活動していたり、バイクの量を抑制するためにバイクシェアを可能としたWebサービスが始まっていたりします。

とはいえ、多くの人々にとってはマスクをつけ、すっきりとしない曇り空を苦々しく見つめる程度の対応に留まっているのが現状でしょう。

経済成長とともに公害として生まれている痛みを緩和するために、人々がアクションを起こすにはまだ時間がかかるのではないでしょうか。

 

ノスタルジーにかられる都市部のベトナム人

現在、ベトナムの映画館で人気を博しているのは「緑の芝生に咲く黄色い花(著者訳。原題はTôi Thấy Hoa Vàng Trên Cỏ Xanh)」というベトナム映画です。1980年台中頃のベトナム農村部に暮らす二人の兄弟が主人公の物語です。広大なライスフィールドにあふれんばかりに実り、風に揺られる柔らかで豊かな稲穂。激しくも恵みをもたらす雨。ゆったりと流れる時間。長らく続いたベトナム戦争が終わり、経済成長へと徐々に歩みを進めるベトナム。(市場経済の導入を謳ったドイモイ政策が掲げられたのは1986年のことでした。)

今でこそ東南アジア随一の成長株となったこの国に、かつては見られた「豊かな暮らし」が描かれています。今では失われつつある景色が都会に住む人々を郷愁に掻き立てるのでしょう。農村部で育ち、大学からホーチミンという大都会に移り住んできた当社スタッフも、あの映画には私の小さいころの暮らしが描かれていると目を細めていました。

経済合理性を追求し、もっともっとと豊かさを追い求めるこの国は、今日よりも明日が良くなるという希望に溢れているのを強く感じます。そしてそんな人々の希望がこの国の成長の原動力となっているのは間違いありません。

ですが、そうした成長には痛みが伴うものです。日本も高度経済成長期には多くの公害が引き起こされ、多くの人々が公害に苦しんだではないですか。

何かを得ようとすると、何かを差し出さなければいけないと言いますが、こうして痛みを覚えながら手にしたものの先にあるのが、取り戻せないほど破壊された自然や人と人のつながりが途絶えた社会なのだとしたら、一体今追い求めているものは何なのでしょうか。

経済成長に伴うそうした痛みを経験してきた“課題先進国日本”から来た日本人の一人として、痛みを加速させるのではない方法でこの国で出来ることはないのだろうかと煙に霞むホーチミンの街を眺めながら思うのです。

この文章はカフェで書いているのですが、ふと見回してみると若い人も小さい子を連れた家族もスマートフォンやタブレットPCで自撮りに余念がありません(ベトナムの人はほんとに自撮りが大好き!)。得意のポーズにごきげんな言葉を添えて、まるでそれぞれの「豊かさ」を誇るかのうように、こぞってSNSに投稿しています。

今のこの国の成長や暮らしを否定する気持ちは全くありませんが、たまには立ち止まって、もう少し長い目でこの国の、いや世界の行く末を考えてみてはどうかなと思いました(こんなことを考えるのはおセンチな理想主義でしょうか)。

また、雨が降り始めてきました。

それではまた!
 

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